間質性肺炎(3) 硬くなってバリバリ、肺が縮む
(注)この投稿はフィクションであり、特定の患者さんや症例と関係するものではありません。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:67歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。
1. 前からは正常音、後ろからは異常音
患者S: 今までの事をまとめると、間質性肺炎というのは、肺の中の間質という部分で炎症が起きたり「線維化」という硬くなる現象が起きたりして、肺が膨らみにくくなる病気である。
Dr.Y: その通りです。
患者S: この現象は、空気中のアレルゲンによる過敏性肺炎や、リウマチなような膠原病など様々な原因で生じてくるものなので、原因をよく調べなくてはいけない。こういう事ですか?
Dr.Y: そうです。まあ蜂谷さんが本当に間質性肺炎なのかどうかもまだ分からないですし、理論ばかり話していても仕方ないので、診察をさせてください。
患者S: お願いします。
Dr.Y: まずは聴診からしますね。体の前面から呼吸音を聴かせてください。
患者S: はい。スーハースーハー
Dr.Y: 呼吸音は正常に聴こえますね。今度は背中から。
患者S: スーハースーハー
Dr.Y: うーん、背中側、特に下の方で聴くと印象が違いますね。かすかに、肺が硬くなっている音がします。
患者S: 本当ですか。硬くなっている音ってどういう音ですか?
Dr.Y: 息を吸う時に合わせてバリバリバリっと。硬い肺が音を立てて広がるような音です。
患者S: 体の前側から聴いたら正常なのに、どうして後ろからだとそのような音が聴こえるんですか。
Dr.Y:間質性肺炎は肺の後ろの方(背中側)かつ下の方から病変が出てくる事が多いのです。その部位に合わせて音が聴こえることが多いわけです。
2. 肺が縮んでいる!
患者S: そのバリバリっという音は間質性肺炎に特徴的な音なんですか?
Dr.Y: はい。専門用語で捻髪音(ねんぱつおん)とかfine crackles(ファインクラックルズ)と呼びます。
患者S: ちょっとショックです。自分の肺がどんなふうになっているのか、とても気になります。
Dr.Y: そうですね。画像検査の方も見てみましょうか。紹介元からレントゲンのデータを持ってきていただいていますね。
患者S: はい。こちらです。
Dr.Y: 確かに、これは正常な肺とは言えないですね。
患者S: そうなんですか。素人目には、なんとなく濁っているように見えますが、そのくらいでよく分かりません。
Dr.Y: まず、これは体を正面から見ている図なので、向かって右が体の左側、向かって左が体の右側になっています。そして、真ん中にあるのが心臓です。
患者S: 肺の中で異常なのは黒い部分ですか?白い部分ですか?
Dr.Y: 白い部分です。正常な肺は空気をたっぷり含んで黒く写ります。白くなっているほど肺が濁っているという事です。
患者S: うーん、それでもこれがどのくらい濁っているのか、よく分かりません。
Dr.Y: この画像だけ見るとそう思いますよね。でも、左隣に参考となる正常画像を持ってきて比較してもらうと、どうでしょう。
患者S: あ。こうして見ると、正常と比べて明らかに濁っていますね。
Dr.Y: はい。濁っているだけではなく、肺自体の大きさも比較してみるとどうでしょうか。
患者S: 小さくなっています。
Dr.Y: これが間質性肺炎の特徴なんです。肺の間質が炎症を起こしたり、硬くなる線維化を起こす事で、だんだん肺自体が縮んできてしまうのです。
患者S: こんなに変化があるのに、どうして自覚症状がないのでしょうか。
Dr.Y: 間質性肺炎が慢性の病気だからです。急激に進行すれば何らかのサインを感じられる事も多いのですが、徐々に進んでくると、体が慣れてきてしまうので変化を感じにくいわけです。
患者S: 息がしづらくても体が麻痺してしまっているという事ですか。
Dr.Y: はい。それではこれからCTを撮りに行ってもらえますか。
患者S: 分かりました。
3. (おまけ)実際に捻髪音を聴いてみましょう
下の画像をリンクをクリックすると呼吸器学会のホームページで本物の捻髪音を聴くことが出来るので、ぜひ聴いてみてください。私の感覚だと、実際はこれよりもう少し乾いた感じの音の方が多い気がしますが、個人差はあります。硬くなった肺が広がる様子を頭の中でイメージしながら聴いてみてください。音の聴こえるタイミングが息を吸っている時です。
なお、捻髪音は、ベルクロラ音とも言います。べルクロというのはマジックテープの事です。マジックテープを剥がすときに、バリバリっという音がしますが、その音に似ている事からこのような呼び名がついています。
https://www.jrs.or.jp/information/assemblies/dld/20180413170926.html
4. 本記事のまとめ
・間質性肺炎の患者さんに聴診をすると、捻髪音という特徴的な音が聴こえます。
・この音は硬くなった肺が広がるときになる音で、背中側の下の方で聴こえる事が多いです。
・胸部レントゲンでは、肺が濁っていたり縮んでいる所見が出てきます。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
参考文献:
日本呼吸器学会 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022 第4版(南江堂)