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間質性肺炎(13) 病理診断は気管支鏡か外科的肺生検か

登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
蜂谷:67歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。


1. 病理診断の有無が治療に与える影響

蜂谷: 病理診断を行わずに、今ある情報だけで治療を考えてもらうという選択肢はないのですか?気管支鏡も手術も、やっぱり怖いです。

Dr.Y: 当然、そのような選択肢もありますよ。元々そのような検査を受ける体力がないような人もいますから。ただ診断が不確実な状況で病理診断が行えないとなると、どうしても治療の質は下がってしまいます。

蜂谷: と言いますと?もう少し具体的に教えてください。

Dr.Y: 例えば、今蜂谷さんはIPFなのか過敏性肺炎なのかが問題になっていますが、この判断が不確実のままですと、今後ステロイドを使うべきか使わないべきかの判断が非常にしにくいです。

蜂谷: ステロイドは炎症を抑える薬剤でしたね。どうしてその判断がしにくくなるのですか。

Dr.Y: はい。以前お話したように、過敏性肺炎では炎症と線維化が混在した病態なので、ステロイドが有効な患者さんがそれなりにいらっしゃるわけです。一方でIPFは線維化しか存在しないのでステロイドが効きません。

蜂谷: 確か、過去の臨床試験だと、ステロイドが効かないばかりか副作用が増えて予後を悪くしてしまったのでしたね (1)。IPFなのにステロイドを使ってしまうのは良くないですね。

Dr.Y: その通りです。病理診断によって細胞レベルで肺を観察すると、IPFなのか過敏性肺炎なのかの判断材料が増えるので、そこの判断も間違いにくくなります。

Dr.Y: また、過敏性肺炎では原因アレルゲンを生活環境からいかに排除するかが重要ですが (2)、確定診断がついていないと、なかなか本腰をいれて環境を見直せないものです。  

Dr.Y: さらに、病理診断を行う事で、IPF、過敏性肺炎以外の第3の候補が出てくる可能性もあります。

蜂谷: 病理検査を行った方が正確な診断に辿り着きやすく、より適切な治療を行えるという事ですね。

Dr.Y: はい。逆に診断が盤石でないと踏み込んだ治療がしにくくなるというわけです。

2. 外科的肺生検と気管支鏡

蜂谷: 病理診断をする上で、肺の組織を採ってくるためには気管支鏡と手術の2つの方法があるのでしたっけ?

Dr.Y: はい。どちらで行うかを決めないといけませんね。

蜂谷: それぞれどのように採取するのですか?

Dr.Y: 気管支鏡は気管支に入れる内視鏡です。胃カメラの肺バージョンと考えてもらって良いです。もっとも、胃カメラよりずっと細いものを使いますが。鎮静剤を使って意識レベルを落としてから、口から肺まで気管支鏡を入れて、そこから組織を採ってきます。

蜂谷: ぶっちゃけ、苦しいですか?何分くらいかかります?

Dr.Y: 咳の反射の起きやすさや麻酔のかかりやすさで感想が違ってくる印象ですね。ただ最近は昔よりも鎮静を深くかけるようになっているので苦しく感じる人の割合は減っているような気がします。  時間としては30分〜40分くらいでしょうか。

蜂谷: 手術はどうやるんですか?

Dr.Y: 手術は外科の先生に依頼して、全身麻酔で行います。この事から外科的肺生検と呼ばれます。胸を開いてやる開胸手術ではなく、いくつか小さな穴をあけてビデオで見ながら採ってくる胸腔鏡を用いた手術が主流です。

蜂谷: 肺の組織を体の中から(気管支側から)とってくるのが気管支鏡、胸壁に穴をあけて外からとってくるのが手術、という事ですね。どちらが安全性が高いですか?

Dr.Y: 気管支鏡の方が、入院期間も短くて済みますし、体にメスを入れない分体への負担は少ないです。特に重篤な合併症は気管支鏡の方が少ないと言われています。ただ、ちょっとした出血や気胸などは気管支鏡の方でも一定の確率で出てきます (3)。  

蜂谷: 診断の正確性に関してはどうですか?

Dr.Y: 昔は気管支鏡による間質性肺炎の診断能は非常に悪いと言われていました。外科的肺生検で採れるサンプルは診断に足るだけの十分な大きさがある一方で、気管支鏡で取れるサンプルは非常に小さかったので。  

Dr.Y: しかし近年、経気管支凍結生検法という手法が使われるようになってからは、気管支鏡もだいぶ診断能が上がり、外科的肺生検の診断能に近づいてきたとする報告もあります (4)。ただ、細かい部分ではやはりまだ外科的肺生検に軍配が挙がるのではないかと感じます (5)。  

蜂谷: 気管支鏡と手術のどちらでやるか、私には決められません。だってどちらも受けたことないんですから。

Dr.Y: 当然の感想だと思います。まずは体への負担の少ない気管支鏡で確定診断を目指して、その後必要があれば外科的肺生検を検討するのが良いと思われます。

蜂谷: まだ不安ですね。肺にカメラをいれてそこから組織をとってくるなんて、どうやるんですか?肺がやぶけてしまわないんですか?

Dr.Y: もうすこし詳しく気管支鏡についてお話しますね。これからのお話は、気管支鏡で行う手技の1つである経気管支凍結生検法についてです。別名クライオバイオプシーと呼ばれます。

引用文献:
1. Raghu G, et al. Prednisone, azathioprine, and N-acetylcysteine for pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2012;366(21):1968-77.Costabel U, et al. Hypersensitivity pneumonitis. Nat Rev Dis Primers. 2020;6(1):65.
2. Costabel U, et al. Hypersensitivity pneumonitis. Nat Rev Dis Primers. 2020;6(1):65.
3. Maldonado F, et al. Transbronchial Cryobiopsy for the Diagnosis of Interstitial Lung Diseases: CHEST Guideline and Expert Panel Report. Chest. 2020 Apr;157(4):1030-1042.
4. Troy LK, et al. Diagnostic accuracy of transbronchial lung cryobiopsy for interstitial lung disease diagnosis (COLDICE): a prospective, comparative study. Lancet Respir Med. 2020 Feb;8(2):171-181.
5. Fortin M, et al. Transbronchial Lung Cryobiopsy and Surgical Lung Biopsy: A Prospective Multi-Centre Agreement Clinical Trial (CAN-ICE). Am J Respir Crit Care Med. 2023 Jun 15;207(12):1612-1619.

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