間質性肺炎(14) 病変を凍らせて採取するクライオバイオプシー
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については記載された情報を基に自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:67歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。
1. マイナス45度で凍結するクライオプローブ
Dr.Y: 気管支鏡を用いた間質性肺炎の検査は経気管支凍結生検法、別名クライオバイオプシーと言います。
患者S:どのようにして、肺から組織をとってくるんですか?
Dr.Y: 大まかな流れをお話しします。まず点滴で鎮静剤を投与して意識レベルを落とした後で、口から気管チューブを通じて気管支鏡を挿入します。
Dr.Y: ある程度から先は道が細すぎて気管支鏡を進められなくなるので、そこからはクライオプローブと呼ばれる細い針金状のものを先端から出して、それだけ進めます。
Dr.Y: クライオプローブが病変の近くに到達し、介助者が足元にあるフットスイッチを踏むと、クライオプローブの先端が一気にマイナス45度まで下がります。
Dr.Y: すると、そこで接している肺の組織、つまり病変の肺組織がクライオプローブにくっついたまま凍結するので、そのまま引きちぎって採取するという流れです。
2. 気胸の対策と出血の対策
患者S: 何だか、ものすごく怖いんですけど!!肺の中でクライオプローブだけ進めるとか、凍らせて引きちぎるとか。野蛮すぎませんか。
Dr.Y: 言葉だけ聞くとそうかもしれません。しかし・・・
患者S:まず気管支鏡を進めるところまでは分かりますよ。気管支鏡の先のカメラで見ながら進めるんでしょう?
Dr.Y: その通りです。
患者S:その先のクライオプローブだけ進める時もプローブの先にカメラは着いてるんですか?
Dr.Y: いえ。プローブの先にはカメラはついていません。
患者S:では、クライオプローブの先端が病変の近くまで到達したと、どうして分かるんですか?気が付かないうちに進めすぎて肺を突き破るかもしれないですよね。
Dr.Y: 実際は、そうならないように、クライオプローブを進める間は透視映像で肺の中を通るプローブの位置を確認しながら進めます。
患者S:そうですか。でもその後、凍らせて引きちぎるなんてしたら、とても痛いんじゃないですか?
Dr.Y: 実は、肺の中で痛みを感じる部分というのは一番外側の胸膜だけなんです。それより1センチくらい内側をとってくるため、基本的に痛みを感じません。
患者S:血は沢山出るんじゃないんですか?
Dr.Y: はい。ある程度の出血は想定内です。出血対策として、クライオプローブの近くにもう一つバルーンカテーテルというものを用意しておくんです。
患者S:バルーンカテーテルというと、先端が風船みたいに膨らむやつですね。
Dr.Y: はい。そして生検をした直後にそのバルーンカテーテルの先端を膨らませて気管支ごと押さえてしまいます。通常、1分位押さえていると止血されます。
3. 従来の生検鉗子より大きな検体が採れる
蜂谷: そこまでして凍らせるのが大事なんですか?
Dr.Y: 昔は、鉗子を使って、つまんで引きちぎって採ってくるという鉗子生検が多く行われていました。しかし、微小検体しか採れないので診断的価値が低いとされていたんです。
Dr.Y: しかし、クライオバイオプシーのように、凍らせて採ってくる方が、大きなサイズの検体を採ってくる事ができます。
4. 合併症は起こり得るが、大事に至る事は少ない
患者S:なるほど。色々と対策されてるんですね。入院してやるんですか?スケジュールを教えて下さい。
Dr.Y: 大体2泊3日の入院で、入院2日目に気管支鏡、翌日の朝にレントゲンをとったり診察をして合併症が起きてなければ退院になる事が多いですね。
患者S:どのような合併症を確認するんですか?
Dr.Y: 一番注意しなくてはならないのが気胸の有無です。気胸というのは肺に穴が空いて萎んでしまう合併症の事です。
患者S:合併症はどのくらいの頻度でおきますか?
Dr.Y: 施設によっても差があると思いますが、過去にいくつかの報告をまとめた論文で、重大な出血が1.6%程度、処置が必要な気胸が5.3%程度とされています (1)。現場での感覚ともそう大きく変わらない印象です。
患者S:・・・意外と多いような。大丈夫ですか?
Dr.Y: そうですね。確かに絶対に安全という処置という訳ではありません。もちろん何事もなく退院できる事の方が圧倒的に多いですが、運が悪ければ入院期間が数日伸びてしまう覚悟はしておいた方が良いです。ただ命に関わるような大事に至る事は非常に少ないです。
患者S:そのまで念入りに計画しているのなら、まだ少し怖いですけど、気管支鏡の検査を受けてみようと思います。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については記載された情報を基に自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
引用文献
1. Rodrigues I, et al. Diagnostic yield and safety of transbronchial lung cryobiopsy and surgical lung biopsy in interstitial lung diseases: a systematic review and meta-analysis. Eur Respir Rev. 2022 Oct 5;31(166):210280.