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喘息(30) 喘息の炎症はどこから来たのか

0. 本記事のまとめ

・喘息の病態はタイプ2喘息と低タイプ2喘息に分類されます。
・タイプ2炎症は好酸球などが主体ですが、アレルゲン曝露に起因する獲得免疫系と、アレルゲン曝露に起因しない自然免疫系に分かれます。
・低タイプ2炎症は好中球などが主体の事が多くなります。
・これらの分類はステロイドの効きやすさや生物学的製剤の選択の際に重要となります。

<前回の続き>

1. 大きく分けると2種類の炎症

十条: 難治性喘息に対して、いくつかある治療方法を選択する上で、タイプ2炎症というものを知っておかなくてはいけないという話でした。

Dr.Y: はい。以前は好酸球性炎症とも呼ばれていました。これから分かりやすく説明しますね。こうした分類は近年の喘息診療の進歩に大きく関わっている概念でもあります。

十条: 分類もなにも、喘息の病態というのは気道で炎症がくすぶる事ではないのですか。

Dr.Y: はい。その通りです。ただ、その炎症の種類とか、その炎症がどこからやってきたのかが人によって異なってくるのです。

十条: 一概に喘息の炎症といっても、色々種類があるという事ですか。

Dr.Y: はい。現在よく使われている分け方ですと、主に2種類あって、タイプ2炎症と低タイプ2炎症に分けられます。

十条: 詳しく教えて下さい。

2. タイプ2炎症とは

Dr.Y: 先ほど、喘息は気道で炎症がくすぶる病態と言っていただきましたが、その多くは「タイプ2炎症」と呼ばれる炎症です (1, 2)。この炎症は様々な細胞や化学物質が絡み合っていますが、その中心に好酸球という細胞がいます。

十条: 好酸球!聞いたことあります。

Dr.Y: 主にアレルギー反応に関与してくる白血球の一種です。アトピーとか花粉症とかある方だと、血液中の好酸球値が少し上がっていたりするものです。

十条: なるほど。

Dr.Y: ちなみに、十条さんは血液検査を見てみると、好酸球数が上昇しているので、このタイプ2炎症が強いタイプですね。

3. タイプ2炎症のバイオマーカー

十条: えーっとどこを見ればよいのですか。

Dr.Y: 好酸球数というのは、白血球に好酸球比率をかけたものになります。十条さんは白血球数が6000、好酸球比率が7%ですから、好酸球数が420/μLという事になりますね。

十条: 好酸球数がいくつ以上でタイプ2炎症が強いという事になるのですか?

Dr.Y: 学会が出している手引ですと、220/μLより大きければタイプ2炎症が強いと言って良いという事になっています (2)。

十条: なるほど。

Dr.Y: ちなみに、もう一つ、FENOの検査も過去にされていますね。

十条: はい。確か、84ppbという値だったと思います。

Dr.Y: FENOは息の中の一酸化窒素濃度を調べているのですが、これもタイプ2炎症のマーカーです。

十条: 一酸化窒素とタイプ2炎症がどうして関係あるのですか?

Dr.Y: 気道でタイプ2炎症が活発になると、気道の上皮細胞から一酸化窒素が産生されやすくなるのです。実際に、喀痰における好酸球数とFENOは有意な相関を示すと言われています (3)。

十条: なるほど。これは基準値は?

Dr.Y: 22ppbより低いとタイプ2炎症の可能性は低い、22〜35ppbでタイプ2炎症の可能性が高い、35ppbより大きいとタイプ2炎症が存在する、と決められています (2)。

十条: では私は、血液中の好酸球数も高いし、FENOも高いので、典型的なタイプ2炎症という事になりますね。

Dr.Y: その通りです。血液中の好酸球数、喀痰中の好酸球数、FENOはタイプ2炎症を反映するバイオマーカーと呼ばれています (2)。

4. アレルゲンの関与しないタイプ2炎症

十条: でも先生、納得いかない事が一つあります。

Dr.Y: なんでしょう。

十条: タイプ2炎症は好酸球を中心とした炎症で、好酸球というのは主にアレルギー反応を担当する白血球なわけですよね。

Dr.Y: はい。

十条: それで、私は血液中の好酸球数も高いしFENOも高いからタイプ2炎症が強いと言えるわけですよね。

Dr.Y: その通りです。

十条: でも私、アレルギーなんて1個もないんです。花粉症もないですし、食べ物アレルギーもないです。血液検査でアレルゲンを調べても何もひっかかってこないんですよ。これってどういう事ですか?

Dr.Y: 非常に良い着眼点です。タイプ2炎症は、実はアレルゲンに対する反応を経由しないで活発になる経路があるんです。

十条: そうなんですか。

Dr.Y: 通常ですと、アレルゲンが体内に侵入すると、IgEというアレルゲンに対する抗体が産生され、その過程で活性化するTh2細胞というリンパ球から放出される化学物質によりタイプ2炎症が増加します。これを獲得免疫系と呼びます (4)。

十条: IgEというと、アレルゲンを調べる血液検査でも出てきたものですね。

Dr.Y: はい。そのアレルゲンとIgEの反応を経由せずに、好酸球が増えてくる経路の事を自然免疫系と呼びます。この自然免疫系ではウイルスや細菌、タバコ煙や大気汚染物質などにより気道の上皮細胞が刺激を受けると、自然リンパ球(ILC2)と呼ばれる細胞が増えて、タイプ2炎症が活性化するというものです (4)。

十条: つまり、タイプ2炎症にはアレルゲンの曝露で活発になる経路と、アレルゲン以外の物質で活発になる経路と両方あるという事ですね 。

文献4を改変

Dr.Y: その通りです。十条さんはアレルゲンはないとおっしゃってますし、血液中のIgE値も低値ですから、タイプ2炎症の中でもアレルゲンの関与が低い自然免疫系の炎症が主体の喘息という事になります。

十条: このように分類する事にどんな意味があるんですか?

Dr.Y: 難治性喘息の治療方針を決める上で、どのタイプかというのが重要になってくるのです。

Dr.Y: 例えば、低タイプ2喘息ではステロイド剤が効きにくいと言われています。また、タイプ2喘息においてもアレルゲンの関与にが生物学的製剤の種類を決める際に重要になってきます。


参考文献
1. 日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン(協和企画)
2. 日本呼吸器学会 タイプ2炎症バイオマーカーの手引き(南江堂)
3. Strunk RC, Szefler SJ, Phillips BR, et al. Relationship of exhaled nitric oxide to clinical and inflammatory markers of persistent asthma in children. J Allergy Clin Immunol. 2003;112(5):883-892. doi:10.1016/j.jaci.2003.08.014
4. Brusselle G, Bracke K. Targeting immune pathways for therapy in asthma and chronic obstructive pulmonary disease. Ann Am Thorac Soc. 2014;11 Suppl 5(Supplement 5):S322-8. doi:10.1513/AnnalsATS.201403-118AW

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