喘息(31) どの生物学的製剤を使えば良いか
0. 本記事のまとめ
喘息の炎症に関わってくるキープレイヤーはいくつか知られており、そのどれをターゲットとするかで生物学的製剤の選択は変わってきます。
1. 喘息に対する生物学的製剤は5つ
十条: 生物学的製剤は全部でいくつあるのですか?
Dr.Y: 現在喘息に対して適応の通っているものは、オマリズマブ、メポリズマブ、ベンラリズマブ、デュピルマブ、テゼペルマブの5種類あります。
十条: 「〜マブ」ばっかりですね。どうやってその中から選べば良いのですか?
Dr.Y: 基本的には主治医と相談して決めていただくのが良いと思います。ただ、それぞれの製剤がどうやって喘息の炎症を抑えるかは結構異なるので、簡単にお話しますね。
十条: お願いします。えーっと、喘息の炎症と言えば、タイプ2炎症と低タイプ2炎症でしたっけ。
Dr.Y: その通りです。さらに、好酸球を中心としたタイプ2炎症には、アレルゲンが原因の獲得免疫系とそれ以外が原因の自然免疫系に分かれるという事もお話しました。
十条: そうでしたね。
Dr.Y: 下の図を見てください。色のついた丸で表されているTSLP、IL-4、IL-5、IL-13、IgEといった化学物質は喘息の炎症に関与する代表選手とも言うべきものです。これらのどれを食い止める製剤なのか、という話になります。
2. オマリズマブ (IgEを抑える)
十条: 図を見ると、まずオマリズマブのターゲットはIgEですか。
Dr.Y: はい。IgEはアレルゲンが入ってきた時に直接反応するもので、これが肥満細胞と呼ばれる細胞にくっつくとヒスタミンやロイコトリエンなど様々な化学物質が出て炎症が活発になります。オマリズマブは、このIgEが肥満細胞にくっつかないようにする作用があります。
十条: なるほど。では、アレルゲンに曝露されてもIgEが肥満細胞にくっつけないから炎症が起きないという事ですか。
Dr.Y: はい。通年性の吸入抗原に対するIgE抗体が陽性になっている人において用いられる事が多いですね。喘息の他に、慢性の蕁麻疹とか花粉症などでも用いられています。
3. メポリズマブ(IL-5の働きを抑える)
十条: メポリズマブはIL-5の働きを阻害すると書いてありますね。
Dr.Y: IL-5は好酸球を活発にする役割を持つ化学物質ですが、メポリズマブはIL-5を阻害する事で好酸球による炎症を抑えます。
十条: なるほど。タイプ2炎症が顕著で好酸球が多い喘息の患者さんに効果が期待されますね。
Dr.Y: その通りです。
4. ベンラリズマブ(IL-5の働きを抑える)
十条: ベンラリズマブもメポリズマブと同じところに書いてありますね。
Dr.Y: ベンラリズマブの標的は、好酸球に発現しているIL-5がくっつく受容体です。この受容体を妨害する事で好酸球が活発になるのを防ぎます。
十条: メポリズマブとベンラリズマブは似ていますが、どう違うのですか?
Dr.Y: どちらもIL-5が好酸球を活発にする作用を阻害しますが、ベンラリズマブはさらにADCC活性という性質もあります。ベンラリズマブがナチュラルキラー細胞という免疫細胞にくっつくと、ナチュラルキラー細胞が好酸球を破壊、除去し始めるのです。
十条: ベンラリズマブの方が好酸球に対して直接働きかける作用が強いという事ですね。
Dr.Y: そのとおりです。
5. デュピルマブ(IL-4とIL-13の働きを抑える)
十条: デュピルマブはIL-4とIL-13を阻害すると書いてありますね。
Dr.Y: そうです。デュピルマブはIL-4とIL-13のシグナル伝達をブロックすることで、タイプ2炎症の抑制に働きます。これにより、好酸球だけでなく、IgEやその他の炎症細胞も抑えられます。
十条: なるほど。タイプ2炎症を幅広く抑えるという事ですね。
Dr.Y: はい。そのとおりです。特にアトピーや慢性副鼻腔炎を併発している方に有効です。
6. テゼペルマブ(TSLPの働きを抑える)
十条: テゼペルマブはTSLPを阻害と書いてありますね。
Dr.Y: テゼペルマブはTSLPという物質の働きを阻害します。TSLPは、気道の炎症を引き起こすさまざまな細胞に対して、獲得免疫系と自然免疫系の両方を促進する信号を出す役割を持っています。また、タイプ2炎症だけでなく低タイプ2炎症の両方に効果が期待できます。
十条: タイプ2炎症だけでなく、他の炎症にも効くということですか?
Dr.Y: そうです。テゼペルマブは、特に非タイプ2炎症も含めた幅広い喘息患者さんに使える可能性があるので、重症な患者さんにも選択肢として検討されます。
7. 使い分けの指標となるバイオマーカー
十条: こんなに複雑なのに、お医者さんはどうやって患者さんごとに製剤を選んでいるのですか?患者さんを見ているだけで、体内で起きている反応が想像できるのですか?
Dr.Y: もちろん、対面で診察しているだけでは、どの機序を抑えてやるのが良いのか、など想像する事はできません。その代わりに喘息患者さんの中で炎症のどの部分が活発になっているかの指標となるような検査所見があるので、それらを参考にします。
十条: 具体的にはどんな検査ですか?
Dr.Y: 一般的には3つ。好酸球数、FENO、IgEです。
十条: 好酸球数とIgEは血液検査で測れますね。FENOは専用の機械でしたね。
Dr.Y: はい。これら3つの検査所見を組み合わせて判断します。これは、喘息学会が出している喘息実践ガイドラインに記載されている内容です。
Dr.Y: つまり、ダニやカビなど通年性アレルギーの証明されている人は、それに対するIgEの働きを抑える必要があるのでオマリズマブ。好酸球が多い人は好酸球の働きを抑えるメポリズマブやベンラリズマブ。好酸球もFENOも高くタイプ2炎症が広く活発になっていると予想される人はデュピルマブ。こういった指標にとらわれず幅広く使用されるのがテゼペルマブ。
十条: なるほど。こういった指標があると選びやすいわけですね。
参考文献
日本喘息学会 喘息診療実践ガイドライン2024(協和企画)
日本呼吸器学会 タイプ2炎症バイオマーカーの手引き(南江堂)
日本呼吸器学会 難治性喘息診断と治療の手引き 第 2 版 2023(メディカルレビュー社)
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