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間質性肺炎(25) 切れの良いステロイド・現状維持の抗線維化薬


(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。

■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:58歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来で特発性肺線維症(IPF)・高確信度と診断される。


1. ステロイドと抗線維化薬

患者S:ガラガラ、失礼します。

Dr.Y:Sさん、こんにちは。調子はどうですか。

患者S:空気が乾いているときなどは少し咳が出ますが、相変わらず息苦しさなどはありませんね。

Dr.Y:おそらく、間質性肺炎が少しずつ進み体が慣れてしまっているのだと思います。

患者S:客観的な指標だと、6分間歩行試験ではSpO2 (エスピーオーツー)が92%まで下がってましたもんね。

Dr.Y:はい。このように酸素濃度と自覚症状が合致しない事もあるので、把握のためにパルスオキシメーターを自分で購入する人もいますよ。

患者S:良い考えですね。自分でもどのような動作で酸素が低下するかを知っておきたいです。

Dr.Y:今日は、治療の話をしますね。Sさんも次回外来あたりからと考えています。

患者S:とうとう、治療薬ですね。ステロイドとか抗線維化薬を使うと聞いています。

Dr.Y:そうですね。その2つの薬について聞いた事はありますか?

患者S:ステロイドは、皮膚科でもらう軟膏とか喘息の時に使う吸入薬とかに入っていると聞いた事があります。抗線維化薬は・・・聞き馴染みがないですね。

Dr.Y:そうですね。皮膚の炎症や気道の炎症を抑えるために、軟膏や吸入薬を使いますが今回は飲み薬のお話です。間質性肺炎以外でも自己免疫疾患やアレルギー疾患などでも使う事があります。一方で抗線維化薬は、保険適応が通っているのは今のところ間質性肺炎だけです。

患者S:これらはどう使い分けるんでしたっけ?

Dr.Y間質性肺炎は炎症が主体のもの、線維化が主体のもの、その両者が入り混じったものがあります。ステロイドは炎症の部分に、抗線維化薬は線維化の部分に効きます。

患者S:順番に詳しく教えて下さい。

2. 切れが良いが副作用も多いステロイド

Dr.Y:ステロイドは炎症を抑えるので、炎症が主体の間質性肺炎に使います。ステロイド治療が奏功すればレントゲンやCT画像がきれいになったり、肺活量が増えたり症状が改善する可能性があります。

患者S切れがよく効果が比較的分かりやすい感じですね。

Dr.Y:そうですね。一方で糖尿病や免疫低下、胃かいよう、骨粗鬆症など副作用も色々なものがあるので、ある程度効きそうだという確信がないと使いづらい薬です。

患者S副作用対策も重要そうですね。

Dr.Y:その通りです。ニューモシスチス肺炎という感染症の予防薬、胃薬、骨粗鬆症の予防薬など色々な薬を併用する事になります。

患者S:薬が一気に増えてしまうのは困りますし、それで効果が無かったらもっと困ります。試しに使ってみて効かなければ止めるという作戦はどうでしょう?

Dr.Y:ところが、一定期間ステロイドを使ってしまうと、すぐに中止する事ができません。

患者S:なぜですか?

Dr.Y:ステロイドというのは副腎皮質ホルモンとも呼ばれ、普段から体内で分泌されているホルモンと同じ製剤なのです。ステロイドを一定期間使った後で急にやめると、体がホルモンの変化に対応しきれず副腎不全と呼ばれる体の不調を引き起こします。また間質性肺炎の急性増悪も起こしやすくなります。

患者S:怖い薬ですね。

Dr.Y:必要以上に怖がる必要はありませんが、きちんと適応を考えて使う事が大事です。

3. 現状維持を目指す抗線維化薬

Dr.Y:次は抗線維化薬です。こちらは、線維化を抑制するので炎症より線維化が主体の間質性肺炎に使います。これまで何度も出てきたように、線維化は基本的に不可逆性の変化なので、この薬を使っても現在の線維化が消失することはありません。

患者S硬くなった肺を柔らかくする効果はなく、あくまで肺が硬くなる速度を低下させるという事ですね。

Dr.Y:その通りです。現状維持を目指すイメージが強く、ステロイドに比べると効果が分かりづらい。少なくとも、「あ〜抗線維化薬がよく効いているなあ」と自分で実感できる薬ではありません。

患者S:なるほど。

Dr.Y:それから、薬価が非常に高いので普通に医療費を払うと3割負担でも月10万円を超えてしまいます。このため多くの場合公費負担の制度を使いながら処方してもらうという事になります。

患者S:公費負担の制度とは?

Dr.Y:指定難病の医療費助成制度か高額療養費制度のどちらかです。詳しくは、またお話します。現在ピルフェニドン、ニンテダニブという2種類の薬が使えますので、疾患も考慮しながら選ぶ事になります。

患者S:どちらも同じ様な効果と考えて良いですか?

Dr.Y:はい。どちらも同じように線維化を抑制します。副作用は少し異なっていて、ピルフェニドンは光線過敏や食欲不振、ニンテダニブは下痢と肝機能障害などが有名ですね。

患者Sステロイドに比べると気をつける副作用の数は少なく使いやすそうですね。

Dr.Y:そうですね。それにステロイドと違って、急にやめても大きな問題はありません。

患者S:さて、私は抗線維化薬とステロイドのどちらを使うのでしょうか?

Dr.Y:Sさんは特発性肺線維症の診断なので、抗線維化薬を使いましょう。特発性線維症は線維化が主体の間質性肺炎ですから。


注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については記載された情報を基に自己判断せず、必ず主治医に相談してください。

参考文献:
日本呼吸器学会 特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(南江堂)

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