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間質性肺炎(27) 知っておきたい医療費助成制度
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:58歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来で特発性肺線維症(IPF)・高確信度と診断される。
1. 難病医療費助成制度
1-1. 毎月の医療費に上限設定
患者S:間質性肺炎で通院しているとお金がかかりますか?
Dr.Y:無治療で経過観察しているうちはそれ程でもないかもしれません。しかし、抗線維化薬を使ったり病気の進行に伴い在宅酸素療法と呼ばれる酸素ボンベが必要になると、3割負担でも毎月数万円かかってしまう事も少なくありません。
患者S:それで難病医療費助成制度や高額療養費制度による公的支援を受ける必要が出てくるのですね。もう少し詳しく教えて下さい。
Dr.Y:はい。難病医療費助成制度を利用すると毎月支払う治療費に上限が設けられます。
患者S:上限とは、具体的にどのくらいを指すのでしょう。
Dr.Y:所得により異なる上限が設定されています。仮にSさんに月5万円の医療費がかかったとします。Sさんの所得が市町村民税7.1万円未満の「一般所得1」に該当する場合は、自己負担は5万円のうち1万円のみで、残りの4万円は国からの補助が充てられるという事です。
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1-2. 重症の特発性間質性肺炎などが適応
患者S:それは助かりますね。具体的にはどのような人がこの制度を利用できますか?
Dr.Y:難病に指定されている間質性肺炎が対象となります。難病に指定されているのは原因不明の間質性肺炎である『特発性間質性肺炎』の他に、全身性強皮症、皮膚筋炎/多発性筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなどの膠原病に伴う間質性肺炎、そしてサルコイドーシス。
Dr.Y:ここではその中でも『特発性間質性肺炎』についてお話ししますね。当然、SさんのようなIPF(特発性肺線維症)も特発性間質性肺炎の一つです。
患者S:ということはIPF以外の特発性間質性肺炎の患者さんにも適用されますか?
Dr.Y:はい。以前はIPF以外の特発性間質性肺炎では臨床診断は認められず、外科的肺生検による確定診断が必要でした。しかし2024年度の制度改定によりそうした事を行わなくても主治医の臨床診断で良い事になりました。特発性胸膜肺実質線維弾性症(PPFE)や分類不能型間質性肺炎なども特発性間質性肺炎の臨床診断に含まれます。
患者S:利用条件はそれだけですか?
Dr.Y:もう一つ、重症の基準を満たしている必要があります。特発性間質性肺炎と診断されていても軽症だと助成の対象外になってしまいます。
患者S:なんと。軽症と重症はどこで区別されるのでしょう。
Dr.Y:血液ガスという採血で測る動脈血中の酸素量(酸素分圧)が低い事、具体的には70Torr以下というのが基準となっています。ただ、これだけだと安静時に酸素が保たれ運動時のみ酸欠になる間質性肺炎では見かけ上の軽症が増えてしまいます。
患者S:確かに。間質性肺炎は労作時低酸素血症をきたすのでした。そして採血は安静の状態で行いますしね。
Dr.Y:そこで2024年の改定以降、血液ガスの結果が良くても6分間歩行試験で酸素飽和度が90%以下に下がる場合も重症扱いになりました。
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1-3. 軽症でも利用できる「軽症高額該当制度」
患者S:いずれにしても重症の基準を満たすまでは助成が受けられないのですか?軽症でも早めに治療介入が必要な人はどうするのでしょうか。
Dr.Y:実はそのような人のために「軽症高額該当制度」という仕組みがあります。
Dr.Y:「軽症高額該当制度」は、「軽症であっても月33000円以上の医療費の支払いが年間3ヶ月以上あった場合は特別に助成対象とします」という制度です。
患者S:重症の特発性間質性肺炎か、軽症の特発性間質性肺炎でも1年で3ヶ月以上高額な医療費を払う患者さんが対象となるのですね。
Dr.Y:その通りです。
患者S:あれ?でもよく考えると、軽症の人は「3ヶ月以上高額な医療費を払った後」でないと申請できないという事ですか?
Dr.Y:はい。高額な医療費を年間3ヶ月以上払うだろう、という「見込み」のみで申請する事はできません。したがって、その期間は後で説明する高額療養費制度を利用する事が多いです。
1-4. まずは保健所で難病申請を
患者S:難病医療費助成制度を利用するための手続きについて教えてください。
Dr.Y:まず、お住まいの住所を管轄する保健所に行って、難病認定の申請をしてください。そこで「臨床個人評価票」という書面をもらえますからそれを病院に持参してください。これは主治医が記載する意見書のようなものです。
Dr.Y:持参いただいたら、主治医であるこの私ができるだけ早く記載してSさんにお戻ししますので、それを他の必要書類と合わせて再度保健所に提出してください。
患者S:それが認定されれば医療費助成が受けられるのですね。
Dr.Y:認定がおりたら「医療受給者証」がもらえますので、それを窓口で提示すれば助成が受けられますよ*。
患者S:申請してからどのくらいで認定がおりますか?
Dr.Y:申請書類を提出してから認定がおりるまで3ヶ月位はかかるので、早めに提出する事をおすすめします。
(*都道府県・指定都市が指定した「難病指定医療機関」に限る。)
2. 高額療養費制度
2-1. 難病医療費助成制度が使えない場合に検討
患者S:高額療養費制度についても教えてください。
Dr.Y:高額療養費制度も、月々の医療費に自己負担限度額が設けられる仕組みです。限度額は世帯収入によって変わり、低所得世帯では1万円台、高所得世帯では数万円が目安です。
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患者S:難病医療費助成制度に比べると、上限が結構高めなのですね。
Dr.Y:そうですね。ただ、入っている医療保険によっては、「付加給付」としてより低い負担の上限額に設定している場合もあるので確認した方が良いですね。
Dr.Y:それから世帯ごとに自己負担額を合算して考えられたり、1年に何度も上限額に引っかかる場合に上限額が低くなるなど、色々な仕組みがあります。
患者S:高額療養費制度はどのような人が申請しますか?
Dr.Y:病気による縛りはないので、難病医療費制度が適用されない患者さんで高額な医療費がかかる人は利用する事ができます。特に、過敏性肺炎や膠原病に伴う間質性肺炎など、特発性間質性肺炎以外の間質性肺炎で医療費が高額になる人はこちらを積極的に利用した方が良いです。
2-2. 「治療後に払い戻し」と「あらかじめ申請して負担軽減」
患者S:高額療養費制度の申請はどのように進めればいいですか?
Dr.Y:治療でかかった高額な医療費の領収書を保管しておいて、加入している医療保険に申請すると、後から戻ってきますよ。
患者S:これだと受診の度に一度は高額を支払わなくてはいけないのでやり繰りが大変そうですね。
Dr.Y:事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、最初から窓口での支払いがその限度額に抑えられますよ。この認定証は、健康保険組合や市役所の窓口で申請が可能です。
患者S:助かります。では私は保健所に行って、難病医療費の申請書を取ってきますね。臨床個人評価票の記載をお願いしてもいいですか?
Dr.Y:もちろんです。一緒に手続きを進めていきましょう。認定後は安心して治療に専念できますよ。
注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については記載された情報を基に自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
こちらのサイトも参照ください。
(追記)高額療養費制度の上限額の引き上げが検討されており署名活動が起きているようです。私も引き上げには反対です。