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間質性肺炎(21) 間質性肺炎はどのように進行するか
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。
■登場人物
Dr.Y: 総合病院に勤務する呼吸器内科医。
患者S:58歳男性。健康診断を契機に間質性肺炎を指摘され、Dr.Yの外来に紹介される。
1. 医師からの結果説明
患者S:こんにちは。
Dr.Y:こんにちは。その後いかがですか?
患者S:特に変わりはありません。症状もないので、本当に間質性肺炎があるのかと思うほどです。先日の気管支鏡検査での入院の結果はいかがでしたか?診断は決まりましたか?
Dr.Y:はい。検査後、放射線科、病理診断科、膠原病科の先生方を交えてMDDカンファレンスで診断を決定しました。特発性肺線維症(IPF)という診断になりましたが、完全な確定診断には至らず高確信度という暫定診断となりました。
患者S:そうですか。確定診断に至らなかったのはどのような点が足りなかったのでしょう。
Dr.Y:気管支鏡で採取した肺組織の病理検体を見る限り、大枠はIPFに典型的な組織像でしたが、一部に膠原病を疑う所見が混じっていた事が問題となりました。
患者S:IPFの可能性が高いが膠原病による間質性肺炎の可能性もあるという事ですね。
Dr.Y:はい。念の為膠原病の外来でも診察していただきますが、現時点ではひとまずIPFとして診療をしていきます。今後の経過中で関節痛や皮疹など膠原病の症状が現れてくる可能性もあるので、その時は再度診断を見直します。
患者S:分かりました。今後、私はどうなるのでしょう?治療や経過観察など、色々教えて下さい。
2. IPFの進行にはいくつかのパターンがある
Dr.Y:はい。IPFでとりやすいいくつかの進行のパターンについてお話します。IPFは線維化が主体の間質性肺炎であり線維化は不可逆性の変化ですので、これを元の正常肺に戻す事はできません。したがって、この線維化を元に戻すのではなく、進行をいかに抑えていくかが今後の目標になります。
患者S:進行するといっても、どのくらいのスピードで進行するものなんでしょうか。数カ月後の自分がどのようになっているのか分からないと不安です。
Dr.Y:はい。IPFに関しては、疾患の進行に関していくつかのパターンが報告されています。下の図を見てください。これはIPFの患者さんの自然経過を示したものになるのですが (1)、縦軸が病気の進行、横軸が時間経過を表しています。IPFの図ですが、IPF以外でも線維化が主体の他の間質性肺炎に対してもある程度共通していると思います。
![](https://assets.st-note.com/img/1735001867-aEJL45HQuzt0s9WViAce8Cxf.png?width=1200)
患者S:縦軸は下にいくほど病気が進行しているという事ですね。
Dr.Y:その通りです。ここからも分かるように、時間がたっても全く進行しない人、少しずつ進行していく人、急速に進行する人に分かれています。
患者S:こうした進行速度の違いというのは何によって決まるのですか?
Dr.Y:それは厳密にはまだよく分かっていません。例えば喫煙歴があったり、間質性肺炎の家族歴があったりすると、進行しやすいという事は言われています。
患者S:私はどのタイプかは現時点で分かりますか?
Dr.Y:過去のCT画像や肺活量などのデータがあれば、そこからの変化を元にある程度推測できるのですが。Sさんはまだお会いして間もないですし、去年Sさんがどうであったかを示すデータがないので、進行速度がわからないのです。
患者S:では、今後の経過を見ながら判断していくという事ですか?
Dr.Y:その通りです。
3. 何を指標に進行速度を評価していくか
患者S:この縦軸は病気の進行としか書かれていませんが、病気の進行を表す客観的な指標などはありますか?
Dr.Y:病気の進行は色々な指標がありますが、ある程度一般的に用いられているものの一つに肺機能検査があります。
患者S:肺機能検査というと、機械に向かって息を吸ったり吐いたりする検査ですか?
Dr.Y:その通りです。IPFに限らず間質性肺炎は肺胞の壁に相当する間質の異常だと、以前説明しました。そのため、肺が硬くなって縮んでいくのでした。
患者S:そのため、聴診をすると息を吸うタイミングでバリバリっと音がするのでしたね。
Dr.Y:その通りです。つまり、間質性肺炎は息を吐く能力よりも息を吸う能力の方が大きく障害されます。肺機能検査では1秒率やピークフローといった息を吐く能力の指標と、肺活量や努力性肺活量のような息を吸う能力を測定しますが、間質性肺炎では後者が低下していく事がよく知られています。
患者S:では、この肺活量や努力性肺活量を定期的に評価しながら進行度について評価していくというわけですね。
Dr.Y:はい。このような指標は、病気の経過についての判断だけでなく薬物治療効果を判定する上でも有用です。
Dr.Y:例えば、2014年に報告されたIPFに対するニンテダニブという薬の効果を示した報告では、努力性肺活量という基準の年間減少率が、投薬によって半分程度まで抑えられたという根拠により有効性ありと判断されています (2)。同様の基準は同年に報告されたピルフェニドンという薬の効果に関する報告でも用いられていますね (3)。
患者S:なるほど。客観的な数値として現れてくればわかりやすいですね。
Dr.Y:もちろんこれは一つの指標に過ぎません。。実際は、肺の容量は保たれているけれど酸素の取り込みは低下している(拡散能の低下)とか、もっとトータルで身体機能が落ちている(身体活動性の低下)など、色々な面で考えていきます。
Dr.Y:例えば、2022年の国際ガイドラインでは咳や息切れなどの症状、肺機能、CT画像のどれか2つが悪化したら「進行性線維化」と定義しています (4)。「進行性線維化」とは、ある程度の速度を持って病気が進行している事を表します。
![](https://assets.st-note.com/img/1735002316-Fl718bXESMrCRUZqPsvADt20.png?width=1200)
患者S:なるほど。このような基準で進行速度について評価していくわけですね。図をみていると、もう一つ、「急性増悪」と書かれたマークがあるのが気になりますが、これは?
Dr.Y:これは間質性肺炎全般において予後を左右する重大な事象です。急性増悪とは、それまで進行速度の遅かった患者さんでも何らかのきっかけで一気に病気が進行してしまうというものです。この後くわしく説明しますね。
(注)この投稿は架空のシナリオに基づいて作成されています。内容は医療現場の一例をイメージしたものであり、実在する人物や事例に関連するものではありません。診断や治療については記載された情報を基に自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
引用文献:
Raghu G, et al. ATS/ERS/JRS/ALAT Committee on Idiopathic Pulmonary Fibrosis. An official ATS/ERS/JRS/ALAT statement: idiopathic pulmonary fibrosis: evidence-based guidelines for diagnosis and management. Am J Respir Crit Care Med. 2011;183(6):788-824.
Richeldi L, et al.; INPULSIS Trial Investigators. Efficacy and safety of nintedanib in idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2014;370(22):2071-82.
King TE Jr, et al.; ASCEND Study Group. A phase 3 trial of pirfenidone in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. N Engl J Med. 2014;370(22):2083-92.
Raghu G, et al. Idiopathic Pulmonary Fibrosis (an Update) and Progressive Pulmonary Fibrosis in Adults: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline. Am J Respir Crit Care Med. 2022;205(9):e18-e47.