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CVCにおけるオープンイノベーションの成功と失敗事例

前回まで7回の連載を通して、「CVCの手引き」について主に投資の側面について述べてきましたが、今回からは別シリーズとして、事業会社のCVCの戦略的リターンであるべきオープンイノベーションについて、その成功と失敗事例について、何回かに分けて述べてみたいと思います。

CVCの出資によるオープンイノベーションは、投資の観点からみると、本体勘定からの直接投資による場合、自社のファンドからの直接と間接出資による場合、他社VCへのLP出資等による場合等、その出資の形態によりいくつかのケース分けが可能です。しかしながら、オープンイノベーションをこれらの出資形態の差や、出資と関連して論じると、様々なことを整理して考える事ができなくなるのでお勧めしません。

私のお勧めは、スタートアップへの出資の契約と、スタートアップとのオープンイノベーションの契約は、別個に議論したほうが良いということです。

世の中のCVCやスタートアップに関するネット情報や、出版されている書籍をみると、スタートアップ投資に関する情報はかなりあふれていますが、オープンイノベーションに関する情報は比較的少ないです。これは前回のノート「CVCの手引き~⑦協業の推進」で述べたように、前者は演繹的に述べられるの対して、後者は世の中の経験値の蓄積が少ないので、どうしても帰納的に事例情報に頼らざるを得ないということに起因していると思います。

そこでその帰納的情報の提供の第一回目として、投資契約とオープンイノベーション契約をごちゃまぜにまとめている契約書の弊害を、下記にリストして話し始めてみたいと思います。

弊害その1は、投資契約にオープンイノベーション契約を入れると、時間軸の異なる2者をまとめなければならないので、無理がでます。前者は現在の確実な現金と株の取引きを規定していますが、後者は将来の不確実なイノベーションについて規定しなければなりません。一つの解決策はマイルストーン投資ですが、そうするためには、他の新旧投資家との合意が必要になります。

弊害その2は、投資契約は関係する会社のバランスシートに影響しますが、オープンイノベーション契約は関係する会社の開発費等を通して損益計算書に影響します。したがって、投資契約でオープンイノベーションの権利義務関係を規定しようとすると、関係する会社の経営のコントロール権の問題が生じます。これを防ぐには、無理をしてマジョリティーを取るか、M&Aが必要になります。

弊害その3は、一緒にすると契約が複雑になるので、交渉に時間がかかり、スタートアップは待つことが難しくなる無理がでてきます。オープンイノベーション契約の内容の詳細は次回以降述べたいと思いますが、事業のバリューチェーン上の諸条件が盛り込まれる事になります。例えば、オープンイノベーションのベンチャープロジェクトに、お互いに何を現物出資するのか、どのような共同運営をするのか、そしてその共同作業の成果物をどのように分けるのか、事業のバリューチェーンをどのように設計するのか等の権利と義務関係を明確にしかければなりません。
そしてこれらのオープンイノベーション契約は、シリコンバレーのVCが開発してきた投資契約であるSPAやSHA等の標準化されたフォーマットではカバーされていないのです。したがって、日本の事業会社やスタートアップは、これらのオープンイノベーション用の契約書を、独自に開発する必要があります。

私が知っている事業会社様のCVCで、投資契約とオープンイノベーション契約を同時に審議されているところがありますが、弊害として、どうしても、投資の意思決定に時間がかかっていらっしゃいます。したがって、上記のような弊害を避けるためにも、冒頭述べたように、投資契約とオープンイノベーションは一緒にせず、シンプルに分けて契約することを、オープンイノベーション推進の第一歩としてお勧めしています。

それでは、次回よりは、オープンイノベーション契約について、より詳しくお話ししてみたいと思います。

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