CVCにおけるオープンイノベーションの成功と失敗事例(2)
先月のNoteでは、「米国のディープテック系のスタートアップと、日本の事業会社のオープンイノベーションのケース」についてご紹介させていただきました。少し教訓を3点ほど述べさせていただきましたが、これらはまだ表面的な説明に終わっていますので、このシリーズのまとめの時に、振り返りをして、更なる深堀りをしたいと思いますのでご期待ください。
さて、今回は別のケースをご紹介します。
カナダのAI関連のスタートアップ、アニメのキャラクターの動作や、オリンピック級のアスリートの姿勢解析の用途に使われるということで、ディズニーやインテルからの出資を受けるという前評判がありました。この技術を使って自社の製品の差別化を図ろうとした日本の事業会社が投資に名乗りを上げました。
事業部長も前のめりで、投資をして共同開発を提案をしましたが、投資後なかなかオープンイノベーションの為の議論がまとまりません。いったいどうしたのでしょうか? 結局、このAIの会社は、全く異なる業種であるヘルスケアの事業会社に100%買収されたので、日本の事業会社は運よく投資の財務リターンを得る事ができましたが、戦略リターンは全くありませんでした。
事業部の新規事業担当者も、私を含めたCVCの運営担当部門も、大変前向きに取り組んだのですが、積極的に進めるように振舞っていた事業部長が、実は裾を踏んでいたのでした。
前回も述べたように、苦い経験は教訓化されて、事業会社の社内でシェアされることで次の成功のための価値を生むことができますが、時が経つとともに、この手の教訓は再び暗黙知となって埋没してしまうことが多いので、ここで皆さんと上記の結果に至るプロセスを再び振り返ってみたいと思います。
教訓①
事業部長が積極的にみえても、当てにならない。事業部長は社長への忖度から新規事業に取り組んでいるふりをしているケースがある。本気度を見極めるためには、本体勘定からの直接投資やCVC勘定からの間接投資とは別に、オープンイノベーションの為の資金は、事業部のR&D予算から出させてみると良い。
私は投資関連のSPAとかSHAとは別に、オープンイノベーションの業務委託契約は別契約として、資金の出どころも、前者は本体勘定、後者は担当事業部の予算から出すことを推奨していますが、これがその一つの理由です。
教訓②
流行りのAI関連のソフトウエアといえども、あくまでもプロダクトイノベーションなので、そのプロダクトの完成を前提に、その用途である顧客のワークフローや、業界全体のプロセスが変化しないかぎり、多くの新規需要を興すことはできないので、新規事業を作ることはできない。すなわち、出資する側の事業会社は、プロセスイノベーションをどのように設計するのか、ビジネスモデルキャンバスを描けなければ、オープンイノベーションで新規事業を興すことは、絵に描いた餅となってしまう。
このケースで言えば、具体的には姿勢解析ソフトウエアを使って、どのようにアニメーション制作や、オリンピックのアスリートのトレーニングに変革を起こせるのか、顧客に対する洞察を事業会社は担保をとっておく必要があるといえます。
教訓③
そうはいっても、捨てる神あれば、拾う神もあります。事業会社はオープンイノベーションができなくても、全く異なる事業会社が買収してくれることで、思わぬ財務リターンにありつけることがあります。本来の事業会社のCVCの主目的ではありませんが、そうはいっても、財務リターンのプラスは、事業会社の中でのCVCの存続の為の社内説明の責任を果たしたり、他の戦略的な投資案件にその財務リターンを再投資するなり、様々なポジテブな効果をもたらします。これは特にソフトウエアのスタートアップの場合には良く起こり得ることなので、CVCの運営責任者の方は意識されてこのようなポートフォリオをつくることをお勧めしています。
どうですか?
皆さんにも心当たりはありますか?
それでは次回と次々回は、このようなオープンイノベーションの失敗から教訓を得て対処したケースをあと2つほど紹介させていただいて、その後に、それまでに紹介するオープンイノベーションの4つのケースからの教訓をまとめてみたいと思います。
日本では第四次スタートアップ投資のブームが10年ほど前にありました。その当時に立ち上がったCVCはそろそろ満期を迎え、各事業会社やスタートアップの皆さんは、オープンイノベーションの成功や失敗から多くを学ばれたと思います。わたしが一方的にお話しするだけではなくて、是非皆さんの教訓についても教えていただきたいと思います。
私たちと一緒に議論して、あらたなイノベーションをされたい方は、是非ご連絡ください。このような活動ができれば、日本の経済の成長に貢献できるのではないのでしょうか?
楽しみにしています。