『吹替ディレクターのオシゴト』#101
「ボイスオーバーのオシゴト」
ご機嫌よう。
本日お送りするのは「ボイスオーバーのオシゴト」。
えっ、初回なのに吹替じゃないじゃん、というお声もあるかと思うが、実はボイスオーバーは吹替ディレクターにとっても声優さんにとっても大事なオシゴトなのだ。
ボイスオーバーとは
海外のニュースやドキュメンタリー、バラエティ番組等で、外国人が喋っているシーンに日本語をかぶせること。外国語がうっすら聞こえる上に、声優さんが日本語を乗っけるので、内容が分かりやすいのと同時に、独特の臨場感が出る。通常、外国語がうっすら聞こえる仕様をボイスオーバーと呼び、日本語しか聞こえないものを吹替と呼ぶ。
NHKとかの海外ドキュメンタリーだと、正しいアクセント、しっかりした口調で読み、あまり感情(お芝居)を入れないことが多い。政治経済や自然環境などのお堅い話題をマジメに語っていたり、証言者が政治家や〇〇学者だったりするので、おのずとそうなるのかもしれない。あまりおふざけはないのが普通。
民放のバラエティ番組だと、ホントにそう言ってるの?と疑いたくなるほど台詞が大げさだったり、キャラが濃かったりすることもある。それも演出の一環。よく出来てる番組も多く、とても勉強になる。
一口にボイスオーバーといっても様々なのだ。
ボイスオーバーの難しさ
まずは原稿について。決められた尺の中で、日本語を分かりやすくまとめるのが難しい。日常会話や短い台詞なら割と楽なのだが、台詞が長かったり内容が難しい場合は大変だ。ひたすら調べ物をして要点をまとめる必要があったり、オリジナルでは言及していないことまで説明する場合もある。
あと、間違ったことを言うとマズいので、ファクトチェックも不可欠だ。そのため、何かのドキュメンタリーを担当したりすると、短期間でそのジャンルにもの凄く詳しくなってしまう。
次に演出について。ポリコレや多様性、コンプラの観点から、特に配信コンテンツでは海外の証言者の容姿や特徴をデフォルメして面白可笑しくキャラ作りをするのを避ける傾向にある。でも民放のバラエティなどでは、今でも昔ながらのステレオタイプな演出も多々見られる。時にキャッチーな演出が面白かったりもするのだが、このご時世、きっとご批判もあるだろう。
ディレクターとしては、世間の潮流は意識しつつ、でもオモシロさをどうやって出したらいいのか日々頭を悩ませている。
声優さんにとってはどうだろう?
現場で、ボイスオーバーのオシゴトが初めてだという声優さんと一緒になることも多いが、「それっぽさ」を出すのは結構大変だったりする。外国語が聞こえる上に日本語を乗せるので、ドラマや映画の吹き替えよりもクッキリ&ハッキリ発声することが多いし、どこか「紙芝居」的な目線(相手に分かりやすく伝える)が他のオシゴトよりも必要なことが多いため、コツを掴むまでに時間がかかるのだろう。
さらに、説明台詞となると、どこをどう立てて読めばいいのか、自分自身が内容を理解しないといけないので、なかなか難しい。滑舌の良さも大切になる。
また、読み方やテンポも案件によって違うので厄介だ。外国語を少し聞かせて、ちょっと出遅れてから日本語を喋り始め、少し早めに台詞を言い終わるパターンもあれば、吹き替えと同じくらい尺がピッタリはまっていないとダメなパターンもある。向こうの口にどの程度合わせるべきか、途中でブレスを取るべきか、どのぐらい声を張って喋るべきか等、現場によってやり方も変わるので、臨機応変に対応しなければいけない。
あとは、何キャラも演じ分ける必要があること。個々のキャラを捉えて、「それっぽく」聞かせる工夫をしなくてはならないが、やり過ぎはNGとなると匙加減が難しい。年齢感や声の高低とか太さや細さ、一人称、語尾など、いろいろなファクターで特徴を際立たせるが、演じ分けるには経験や日頃の練習が物を言うので、一朝一夕で出来るものではない。
ボイスオーバーを極める
経験上、ボイスオーバーのオシゴトが得意な声優さんは、オールマイティにオシゴトをこなせることが多いように思う。外国人の言っていることを要約して分かりやすく伝えるという作業は、(ジャンルを問わず)日本語版の大事な役目だからだろう。ボイスオーバーが上手であればナレーションのオシゴトにも繋がっていくだろうし(ボイスオーバーの証言者がナレーションも兼任する番組も多い)、洋画や海外ドラマの吹き替えでも通用する「キャラ作り」のヒント(=引き出し)を得ることも出来る。バラエティ番組で面白可笑しく伝えることに慣れれば、コメディドラマの台詞もきっとハマってくるはずだ。
そう考えると、ボイスオーバーを極めるのがいかに大切か、分かっていただけることと思う。それは演出も同じで、様々なジャンルを経験出来るし、文章のまとめ方や現場のディレクションの鍛錬にもなる。そして、声優さんの今まで知らなかった引き出しに気づくチャンスにもなるのだ。
というわけで、ボイスオーバーは大事なオシゴトなのだ。
#101エンド
本日は「ボイスオーバーのオシゴト」をお送りした。
この番組では、吹替演出のオシゴト現場で見聞きしたエピソードを色々とご紹介していこうと思う。コンプラ&守秘義務遵守、脚色マシマシでいくだろうから、あくまでフィクション、エンターテインメントとしてお楽しみいただけると嬉しく思う。
では、また次回。ご機嫌よう。
あ、これ、ラジオです。一応。そして、不定期放送です。
(終わり)
☆次回予告#102「表紙で泣いたオシゴト」
突然の訃報。次週の台本をもらった瞬間、泣き崩れるglee声優たち。
その時、一体何が!
お楽しみに。