「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律」と観光振興
はじめに
先日、noteに掲載された「文化観光で切り拓く新しい観光」という記事を読み「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(文化観光推進法)」のことを知りました。私の住む地域は、人口規模は決して大きくありませんが、歴史、自然環境や景観、独自の風俗や習慣に色濃い影響を受けた、様々な文化的要素に恵まれた場所です。
まちの文化的要素を観光資源と捉え、観光振興に活かすためにはどういった視点が必要で、実現可能な具体的な行動のためには何をしなければならないかということを検討することはとても大事です。ちょうど、そういったことを考えていた矢先にこの法律のことを知りましたので、少し調べてみることにしました。
まず、文化観光推進法の主管庁である文化庁のホームページなどから知り得た情報を元に、文化観光推進法が定める主な用語について整理します。
1 文化観光
「有形又は無形の文化的所産その他の文化に関する資源(以下「文化資源」という。)の観覧、文化資源に関する体験活動その他の活動を通じて文化に ついての理解を深めることを目的とする観光をいう。」と定義している。
2 文化資源
有形の文化的所産としての建造物、絵画、彫刻、工芸品等、無形の文化的所産としての演劇、音楽、 工芸技術等のほか、風俗慣習・民俗芸能・民俗技術等や遺跡・名勝地・資料として整理された動植物 等が幅広く含まれる。
3 文化観光拠点施設
文化資源の保存及び活用を行う施設のうち、①国内外からの観光旅客が文化についての理解を深めることに資するよう当該文化資源の解説及び紹介をするとともに、②地域の文化観光の推進に関する事業を行う者と連携することにより、当該地域における文化観光の推進の拠点となるものをいう。 ※文中の太字箇所は筆者
4 「国内外からの観光旅客が文化についての理解を深めることに資するよう当該文化資源の解説及び紹介」
○文化資源の由来、他の文化資源との関連性、歴史上・芸術上・学術上・観賞上の価値などの魅力を適切に伝える。
文化資源の展示、上演、行事の開催を行うだけではなく、文化資源の文化的・歴史的背景や価値をストーリー性を持って適切にわかりやすく表現
○情報通信技術の活用を適切に考慮する。
オーディオガイドや2次元コード等を活用したスマートフォン・タブレット端末での解説・紹介の提示、VR等を活用した体験プログラムなど情報通信技術を適切に活用
○外国人観光旅客の来訪の状況に応じて、適切に多言語化を行う。
どのような国・地域からの来訪者が多いか等を把握した上で、英語だけではなく、多言語化を行う
5 「地域の文化観光の推進に関する事業を行う者と連携」
○観光地域づくり法人(DMO)、観光協会、旅行業者等の民間事業者、自治体の観光部局など、地域において文化観光の推進を戦略的に行うための企画・立案ができる者とともに以下のことを行う。
・多様な関係者との連携体制の構築
・各種データの収集・分析、これに基づく事業の方針の策定
・PDCAサイクルの確立
○地域の交通事業者、商店街、宿泊施設等の文化観光推進事業者とともに事業の企画及び実施を行う。
6 文化観光推進法でできること
この法律は、制定すること自体が目的ではなく、趣旨に沿った具体的な施策の展開を促すためのツールを与え、それに法的根拠を付与するために作られたものだと思います。その「具体的施策」とは次の3つです。
○「拠点計画」・「地域計画」をつくること
文化資源を活かした観光振興策を実施しようとする事業主体は、まず、振興策に関する具体的な計画を策定します。このような計画を、この法律では「拠点計画」又は「地域計画」と位置付けています。このことにより、事業主体は、自らの地域が持つ文化資源を特定し、その活用方法と実施手法、体制などを明示しなければなりません。
○国から計画の認定を受けます
事業主体が作成し申請した「拠点計画」や「地域計画」の内容について、法の趣旨に照らし、又、実現に向けた計画の妥当性や実現性などを考慮し適当であると認めた場合は、国がこれらの計画を認定します。
○法律上の特別の措置が受けられます
国から認定された拠点計画又は地域計画については、実施に関係する法律の施行に関して特別の措置を受けることができます。ちなみに、文化観光推進法の運用指針には、受けることのできる特別措置として、共通乗車船券、道路運送法の特例、海上運送法の特例、文化財の登録の提案などが挙げられています。
7 文化観光推進法は実際に活用できるか
ここまで法律について見てきましたが、肝心なことは法律を地域で実際にどう活かすかです。先ほども書きましたが、大抵の法律は何らかの制度活用に法的根拠を与えることを目的に制定されているので、想定される制度が自分の地域で活用できるかどうかでその法律の意義は変わります。
また、意義があるかないかの判断は地域においても一律ではなく、計画中のおのおのの主体ごとに差があると思います。法律の特別の措置を受けることのできる事業の実施を予定している主体にとっては大いに意義深いでしょうし、特別措置のないことがらを担当することになる主体にとっては特段興味はないかも知れません。
そのような文脈から判断すると、私の所属する観光文化課という立場で見た場合、この法律の規定にしたがって計画を立て、認定を受けることが、直ちに観光振興に役立つかどうかはまだわかりません。私たちの課の役割は、観光振興のための具体的な目的とターゲット、方策を編み出し、観光戦略として示すことだと考えています。これから先、観光戦略を立案する際の有効な手立てとしてこの法律の活用が必要になれば、その時は躊躇せずにそのような行動を取りたいと思います。
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