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全ての学びは未来に続く・未来予測学入門(春木ゼミ課題)

0.未来予測について

 「学ぶ」ということは、本質的に未来を指向した行為です。僕らは、過去に人々が得た知見や知識を学ぶことで、未来に向けて、より合理的な、つまり理性に基づいた選択をすることができます。いい未来を迎えるためには、不断に学び、自分の知識に対してブラッシュアップを掛けていくこと、少なくともここまで成熟した情報化社会においては、それが唯一とも言うべき人々のライフスタイルであると言っても、過言ではないでしょう。まぁ、そんな大上段に構えなくても、人は全て、未来に幸せになるために生きていると思っています。だから未来を考えてみよう、そんな趣旨です。

 「未来予測」という考え方があります。「予測」とは、将来の出来事や有様をあらかじめ推測すること、要するに、私たちが迎える未来を、科学的に推し量ることを意味します。これはどの分野でも、マーケティングでも起業でも、「これから」何かをする場合には、重要な作業となります。
 無謀にもVoicyの聴取者の方を巻き込んだプロジェクト学習(PBL)を始めてみました。VoicyとかStandFMとかの、音声コンテンツの教育への親和性の高さを検証するという意図もあります。そのため、多くの人に少しでも有効かつ興味を喚起するような課題を設定したいと考えています。課題を設定して、それを考えながら、軽い形で学んでいくということを目指しています。 
 そこで注目したのは、この未来予測です。まずは何をするにも、そして誰にでも役に立つ、未来予測の基本的な考え方を学びましょう。課題としては、私たちの未来をテーマに設定します。

・30年と80年の意味

 アーカイブズ学(archival studies)という研究領域があります。そこでは主に行政文書である公文書を対象に、記録史料類の収集や整理、保存、公開などを行うための科学的方法が研究されています。
 その中での重要な原理原則に、30年、80年ルールというものがあります。
公文書館の世界的組織である「国際文書館評議会」(ICA・International Council on Archives)が、1968年に決議、勧告したもので、そこでは公文書の公開については、一部の例外を除き一般的な公開年限を30年とすることが最も適切であると結論付けられています。しかし国家機密等、特別の事例について更に長い期間非公開とする場合は、現実に必要がある場合に限ることとして、その制限期間は80年を超えないものとすることとされています。これを「30年、80年ルール」と呼んでいます。
 ICAは、1948年にユネスコの支援の下に設立された非政府組織で、パリに本部があり、現在では国連加盟国の大半を含む約190か国が加盟しています。つまりこの「30年、80年ルール」は、公的な資料に関する国際的ガイドラインとされています。

 ここで言う30年とは、ある出来事に対する人々の利害は、30年でおおよそ消滅するという経験則に則ったもので、組織における個人の責務や利害関係がほぼ消滅する期間とされています。さらに80年は、平均的な人間の生涯が終わる単位であって、公開することで個人や国家が傷つけられることはほぼ無いだろうという前提での期間の設定です。
 ここから考えると、我々が考える未来とは、少なくとも、30年よりも前でなければ、今の我々との関係を現実的に考えることは出来ないし、80年よりも前でなければ、今の社会との関係を考えることが出来ないように思います。

1.僕らと繋がっている近未来

 未来のことを考えるならば、最低限自分との関りがなければ、余り面白いものにはならない気がしています。例えば過去で言えば、今の社会の基本的な枠組みが成立した、昭和20年(あるいは講和条約の発効である昭和27年)辺りが、自分との関係性を考えることが出来る、最大限の過去ではないかと思います。邪馬台国とか弥生式土器とか、遮光器土偶とか、歴史としては興味深いのですが、それらと今の自分は、正直言えば、深い繋がりや関係性などがあるようには思えません。
 Voicyのパーソナリティでお馴染みの、ノンフィクションライター中村淳彦さんが、さらっと気になることを仰っていました。プレミアム放送なので、細かくは言えませんが、以下のようなことです。

あと15,6年後に、今やっている仕事は、ほぼ100%残っていないと思うから…

中村淳彦さんのVoicy

 相当衝撃的な未来像ですが、ほぼ確実にそうなる気もします。AIを中心とした情報技術の凄まじすぎる進歩だけ取っても、とてつもない変化をもたらしそうです。他にも世界的なパンデミックや、それに基づいたオンラインの一般化、働き方の変化など、社会の様々な局面が、大きく変わりつつあるのは間違いないでしょう。

 そこでここでは、10年後と50年後という2つの未来を題材にして、未来予測をしてみたいと考えています。10年後は、多くの方がまだまだ現在の生活は継続しているでしょうし、社会そのものは余り大きな変化は無いように思っています。が、おそらくこと仕事というミクロなレベルでは、中村淳彦さんの指摘通り、とてつもない変化が起こっているかもしれません。10年後を想像しながら、特に仕事について未来予測をしてみましょう。幸いなことに、ここまで様々な未来予測手法が提起されていますし、それに使えるデータもたくさんあります。それを使って、科学として未来予測をしましょう。これが1つ目の課題です。

 50年後には、おそらくこの拙い文やVoicyのコンテンツを読んだり聴いたりできている方々は、殆どの方が、年齢的な意味で、現在とは全く違う生活を送っていると思います。おそらくは、社会そのものが現在とは相当違うものになっているのではないでしょうか。
 多分以下の図は広く知られてると思います。「昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀」という本に掲載されている、「コンピューター学校出現!!」という未来予測の図で、1969年(昭和44年)、55年前に学習雑誌に掲載されていたモノだそうです。なんとなくですが、子供の頃、雑誌で見た記憶が微かにある気がします。
 コンピュータが教育の現場に入って行くなど、実に上手く考えられているのは確かですが、なんだか相当違っています。教室に立たされ坊主がいたり、教師の代わりのロボットが生徒に鞭を振るうとか、本質的に昭和の教室がそのまま未来にタイムスリップしただけというのが、違和感の源泉かもしれないです。
 つまり未来の姿なんて、少なくとも50年もの未来なんか、どうやってもわかりようがないし、それを予想するなんて、僕らには無理です。未来の人間に、ネタにされて笑われるのがオチでしょう。一つだけ明らかなことは、僕は、絶対に50年後の世界を見ることはできません。人には寿命があるということだけは、未来永劫変わらない真理でしょう。

『コンピューター学校出現!!』(1969年、小松崎茂氏)
「昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀」より

 50年後の未来人たちは、僕らがその時代を予想が付かないように、50年前の現在のことなど、きちんと理解はしていないはずです。

昭和日常博物館より

 例えば上の写真は、昭和の時代には電信柱に付いていたスイッチなんですが、何の役割だったかわかりますか?
 かつて街灯にはそれぞれにスイッチが付いていて、朝晩町内の誰かが手動で点けたり消したりしていました。街灯のスイッチなのです。僕はそのスイッチを点けたり消したりするのが大好きでした。昭和の子供の記憶です。

電柱は、昭和30年には、木製が120万本、コンクリートが2万本、昭和時代の終わりには、木製が46万本、コンクリートが4百9万本と様変わりした。

昭和日常博物館・電信棒と街路灯スイッチ

 50年後の未来については、予測するのではなく、逆に現在の記録を伝えるということを考えたいと思っています。50年後の人たちに、現在、2024年(前後)はこんな時代だったよと伝えるために、記録を作るという課題をやってみたいと思っています。
 言うまでもなく、現代は情報化社会であり、ほぼ全員がスマホを持ち、数限りなく写真や動画を撮影したり、SNSにアップしたりしています。確かにそれらも時代の記録であるということは否定はできません。但しそれらは、この時代の私たち市井の人々の暮らしを果たして伝えるようなものでしょうか。バエてる写真や学芸会のような動画では、何も伝わらないでしょう。50年後、あってよかったなと思うような記録を考えたいと思っています。いわば50年後へのメッセージです。

2.大学生と一緒に課題を考えてください

  筆者は現在、大学の非常勤講師として「情報倫理」という科目を担当しています。情報倫理というと、小難しい感じもありますが、簡単に言ってしまえば、現代社会では書くことが出来ない科学技術とどううまく付き合っていくか、そうした考え方の総称を情報倫理と呼んでいます。ここまで春木ゼミ(仮想)で述べて来た様々な問題意識は、授業中に講義として取り上げて、学生達と共有しているつもりです。
 そこで期末の課題として、前述の10年後、50年後の2つの課題を、そのクラスの履修者に課すことにします。以下に課題の詳細を示しますので、ぜひ学生さんとご一緒に考えてみてください。今すぐ何の役に立つかは言えませんが、未来予測を学ぶことは、決して無駄ではないと思います。何より、知識を得たり考えたりすることは、決して邪魔にはなりませんので。

課題①:10年後の未来

一つの「仕事」を取り上げ(職業、産業、業種など)、現在から10年後の社会を考えた時に、その仕事はどうなっているのかを予測しなさい。

注:ここで言う「仕事」とは、労働と対価を伴う社会活動を意味します。職業だけではなく、業種や産業など、幅広いレンジで「仕事」を捉えてください。自分が将来就きたいと思っている仕事や家業、その他自由に選んでください。

 未来予測手法としては、通称「シナリオ法」と呼ばれる手法を使います。詳細は授業(及び、Voicy等)で解説をします。簡単に言えば、その仕事に対して、影響を与える因子を、科学技術、社会規制、そして市場等に分けて、それらのそれぞれに関して、インパクトを詳細化して、総合的に判断する方法です。
 
参考文献としては、まず以下の2つを指定しておきます。
・令和2年版科学技術白書(文科省)

・「シナリオ・プランニング 未来を描き、創造する」ウッディー・ウェイド、英治出版


 

課題②:50年後に価値のある記録

 50年後の社会変化を考えた場合、2024年(現代)の記録として、50年後に価値のあるものには何があるでしょうか。人の営み、風習、経済活動、設備、社会システムなどから一つ発見して、1分程度の「ニュース映画」として残すとするならば、どんなタイトルと内容になるでしょうか。企画書(タイトルと概要)を書いてください。また可能ならば、実際に1分程度の動画を撮影してください。

注:ニュース映画とは、時事問題などの報道を内容とする短編映画・記録映画の一種で、記録映像としての価値をもつものも多い。特に太平洋戦争前後から、家庭にテレビが普及する頃まで活発に制作された。

  ニュース映画については、Voicyでもしばしば解説していますが、簡単に言えば、テレビが生まれる前の映像ニュースのことで、1テーマ1分弱で制作されました。そして複数がまとめて映画館などで、本編の合間などで公開されました。詳しくは、以下の記事などをご覧ください。

 特に行政が制作したニュース映画を、政策ニュース映画と呼びます。前職の頃、川崎市のニュース映画を素材にして、戦後社会の変化を学生にレポートしてもらったことがあります。まだnote上には、当時の学生さんのレポートが残っています。ご参考までに。

 個人的な感覚なのですが、このニュース映画の形態は、ショート動画やTikTokなど現代の映像コンテンツ文化と、非常に相性がいいと思っています。誰もが当たり前のようにスマホを持ち歩いており、映像を撮影するという作業も、決して特別なことではなくなってきました。これこそが現代を表す特徴でもあるわけで、それを利用して50年後に残すべき記録を作成できればと思っています。

 2つのPBL課題を設定してみました。ぜひ、アウトプットにトライをしてみてください。テキストの場合は、noteが最適ですね。音声の場合は、VoicyやStandFMを使ってください。また映像は、TikTok,YouTubeなど映像プラットフォームを使っても構いません。ハッシュタグ(#春木ゼミ)と付けていただくとこちらでも確認しやすいです。

 決して急ぐ内容ではありませんので、学生さんと一緒に考えてみてください。尚、成績評価をしなければいけないので、学生さんには2024年8月3日を締め切りとして指定しました。短すぎますよ、とか言ってくる学生もいるんですが、残りの1か月という期間で出来るモノを作れという意味です。ゴールが無ければ、PBLにはなりませんし。

 以降、課題①、②毎に、それぞれを詳細化しながら考えて行きます。解答を出すことが目標ではありません。問題意識を共有したうえで、議論しながら考えていくプロセスに価値があると思っています。そのために、VoicyやStandFMなどは、最適なプラットフォームですよね。友の会とかもアリだとは思うけど、オレは違うことやりたいなぁ。

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