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流通革命(#36 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)

社会経済の変化・流通革命

政策ニュース映画は、基本的に地域密着型のテーマが取り上げられるので、四季折々の風俗などもしばしば話題になります。
年末の政策ニュースで特徴的なのは、特に昭和20年代の後半から30年代に掛けて、年末の買い物に関係して、計量が話題になっていることでしょう。
当時の商店や消費者の様子を通して、流通の変化を知ることが出来ます。

コンビニやスーパーなどがまだ存在せず、基本的には個人商店だけしかなかった時代には、新年は比較的長い時間商店が開店しないため、師走にはその間の食料などの買い出しが重要な仕事でした。
高度成長期には、大規模店舗が登場し、流通の形態も大きく変化しました。
ダイエーに代表される大型店舗が登場し、個人商店が淘汰されていくことを、一般に流通革命と呼んでいますが、特に市民にとっては、商品の販売の仕方が変わって行ったことが大きな変化でしょう。

それ以前では、個人商が仕入れた商品を計量して販売をする姿が、ごく当たり前でした。その頃の商品販売での大きなテーマとして、商品の計量がしばしば取り上げられています。現在のように、商品がパックされて流通販売されるのは、高度成長期の後期からです。

高度成長期以後の、昭和51年(1976)年「あなたも買物上手に」では、スーパーの店頭が映るとともに、「ほとんどの商品が包装され、その量もまちまちで、どの品物が高いのか安いのか見分けにくいものです。」とナレーションが入ります。

流通

店頭の様子は、今と殆ど変わりません。高度成長期に、今につながる社会の姿が成立してきたことが、ここからもはっきりわかります。

昭和51年7月27日 あなたも買物上手に

ここでの「中身の商品に比べて包装や入れ物が大きすぎたり、見せかけのごまかし包装のものが少なくありません。」などというナレーションを聞くと、かつてはこの国も、発展途上の国々と余り変わらなかったということが今更ながらわかります。昭和2,30年代には、Made in Japanには、粗悪品のイメージがあったのも事実です。

タイトルの、買い物上手という言葉は、おそらくもう死語と言ってもいいかもしれません。
現在では食品の表示に関しては、消費者庁などから細かい規制がなされていて、安心して購入できますが、そこに至るまでの長い歴史があるということを、ここから見ることが出来ます。

昭和28(1953)年12月16日公開の「買い物は正しい目方で」は、高度成長が始まる前の商店の様子が映ります。

昭和28年12月16日 買物は正しい目方で

この映像では、各商店の店頭での、商品ごとの計量の仕方が次々に映ります。今ではほとんど見ることが出来なくなってしまった、肉屋や米屋、魚屋、酒屋、布屋などの店頭での量り売りの様子が分かります。
米屋さんは分銅秤を使っていますし、酒屋さんは一合升で計っています。こうした様子は、まず普通には記録が残らないでしょうから、政策ニュース映画ならではの貴重なシーンでしょう。

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さらに「川崎市では、買い物の目方をすぐその場で確かめられるよう、市内10か所に自由計量所を設けました。」と、商店街の真ん中に重量秤が置かれて、通行人の主婦が買ったものを計っている姿が映ります。

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今なら、商店側も信頼されていないようであまりいい感じはしないでしょうが、こういう時代があって、今の商業システムが成立して来たということを改めて理解できます。

この「自由計量所」というのは、川崎だけではなくいくつかの地域にもあったようで、例えば静岡県吉原市(現富士市)の昭和37(1962)年6月1日発行の広報「よしわら」に、街頭自由計量所を設けたという同市商工課の記事が出ています。

吉原市

昭和41(1966)年の旧計量法での尺貫法からメートル法への移行にあわせたもので、一般買物計量用計器の他、身長計器、体重計器も用意したとされています。身長、体重に時代性を感じます。

昭和30(1955)年「計量まつり」では、「正量強調運動」が取り上げられています。

昭和30年12月20日 計量まつり

年末年始のお買いもの時を控えて、売るほうも買うほうも秤についての関心を高めようと、12月1日から15日まで、第6回正量強調運動が行われました。
とナレーションが入ります。

実は、これは「正量取引強調運動」として現在でも継続しています。
元々、商取引に使われる秤や、タクシーメーター、ガスメーターなどの「特定計量器」は、構造や精度が定められた基準を満たしているかどうかを確認するために、都道府県等が行う検定・検査を受けることが、計量法で義務付けられています。
それらの検定、検査業務を行うのが、各広域自治体にある計量検定所で、特に、お中元・お歳暮の時期に「正量取引強調月間運動」を展開しています。
現在でも、スーパーなどへの立入検査が実施されています。

正量ポスター

神奈川県の場合、川崎市政ニュースで、昭和30年の時点で第6回と称されていますので、昭和24年に始まったとすると、例えば戦後大量に存在した闇市や露天商などを前提に、そこからの脱却を意図して始まったものでしょうか。

藤沢市の文書館に、正量強調運動に関する画像が残されています。
「正量強調運動 実施期間開始(於みのる百貨店)」昭和29年12月1日
と題されたもので、詳細は不明ですが、恐らくは当時ポスターとして使われていたのではないかと思われます。

正量藤沢

現在、小売店で量り売りをする日用品、食品などは殆ど存在しません。
どこで買っても同じ量を安心して買うことが出来ます。
数値そのものがデジタルで扱われるようになってきた時代では、アナログ的な計測道具は消えていくのはごく自然のことです。様々な形の計測道具を見ることもなくなりました。

古き良きものを残そうという主張もあるとは思いますが、実際問題、ある商店がこうした量り売りをしていたとして、果たしてそれで商売が成立するかと言えば、やはり難しいと言わざるを得ないでしょう。
であるがゆえに、記録として残し、そういう文化が存在していたことは、最低限、人々が知っておくべきことではないかと思う次第です。

映像の中で酒屋さんが酒樽から一合升でお酒を注ぐ様子などは、なかなかの風情です。その横のケースに、サントリーのウィスキー、オールド、通称ダルマが映るのにも注目です。当時の大人は、少し偉くなるとダルマを飲んでいましたね。

酒屋


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