とにかく人が多かった(#42 ニュース映画で現代社会を勉強しましょう)
人々の姿・とにかく人が多かった
旧来の人口構成の捉え方では、15~64歳までが生産活動に就く労働力とし、この年齢層を生産年齢と言います。経済活動の側面からは、この生産年齢層と、そこには含まれない、子供と高齢者を含めた3つの人口構成で、社会を捉えることができます。
太平洋戦争直後の、昭和22(1947)年から昭和24(1949)年の3年間に生まれた子供たちは、約806万人に上っていますが、その世代を団塊の世代と呼んでいます。
以前取り上げた、川崎の市政ニュース映画「みんなで体操」の中で無邪気にラジオ体操をしていた子供たちが、ちょうどその世代にあたります。
昭和20年代後半から30年代に掛けて、とにかく子供たちが多く、様々な商品を購入する消費者となって行きました。
資本主義経済の元では、何よりモノを買う消費者の存在が重要です。昭和30年代後半からは、彼らは若手の労働者となって、生産活動を支えていきます。
このような、子供と高齢者の数に比べて、生産年齢人口の割合が増えて行き、経済成長が後押しされて行く状態を、人口ボーナスと呼んでいます。日本の高度成長は、まず、このたくさんの人々によって実現されていった、そう断言していいでしょう。
この人口ボーナスの実際を見ることができる映像は、その他にもたくさんあります。特に、集団就職をはじめ、仕事を求めて都市部に集中してきた人々の姿が記録されているという点で、川崎市の映像には多く残っています。とにかく子供を中心に、多くの人々がいたことに圧倒されます。
みんなそれなりに貧しかった
昭和20年代から30年代に掛けては、人口ボーナスと呼ばれているように、多くの子供がいたわけですが、社会全体では、決して豊かではありませんでした。
昭和25(1950)年の時点で、国民一人あたりの所得は124ドル、アメリカの14分の1でした。
おそらくこのように数値データで示されても、なかなか実感はできないでしょう。
政策ニュース映画に記録されている映像は、どの地域のものも、いかにも戦後の物が足りない時代の混乱を垣間見るようなものが多くあります。
例えば、昭和28(1953)年付けの映像に「水道の量水器を守りましょう」という表題のものがあります。
水道のメータに関する話題なのですが、「守りましょう」と言うのは、盗難からというのが驚きます。
近ごろ、このメーターの盗難が頻繁に起こり、川崎市だけでも、ここ一年間に722件の多くに達しています。もし盗難にあうと弁償していただく結果になりますので、水道部では、盗難予防に、メーターはなるべく人目につかぬよう工夫しておいてください、と望んでいます。 (ナレーション)
こうしたインフラとして公共の目につくものが、盗難にあうというのは、いかにも戦後の混乱期らしいという感覚を抱きます。
映像に映るのは、凍結防止のためだと思いますが、むしろで巻かれた水道栓や、木の盥、さらにモンペの作業衣を纏って姉さん被りした「労務者」風の女性、木造平屋建ての仮設風住宅群に、着物と割烹着の主婦など、逆説的ですがセットとしか思えないほどの完璧な昭和20年代後半の風情です。
メータの上に敷石を置いて隠している女性の足元が、汚れた足袋とかなりすり減った下駄なところなど、高度成長前の様子が明らかで、盗難されることもあるのだろうなと思わせます。
明らかに、社会全体は貧しかった、それがこの映像からはっきりわかります。
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