「ユージニア」読みました・・・読後にいろいろ考えさせられることが
どなたかが紹介していた「ユージニア」。買ってなかなか読めませんでしたが、やっとまとまった時間ができて。
おもしろかったです!!
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推理小説と思っちゃいけない
とある大量毒殺事件に対してルポライター?が証言を集める構成。ある容疑者に向けて収束していく感じがいわゆる推理小説っぽいですが、そういう観点にこだわるとラストもやもやします。
私は恩田陸さんは「夜のピクニック」や「蜜蜂と遠雷」から入ったので、そっちのノーサイド的な読後感を期待して裏切られたな~、と。でもおもしろかった!! 読んでないから分からないけど、「約束のネバーランド」と近いところはあるのだろうか?
読んで混乱、読んだ後に疑問が残る、そして考えると・・・これ、かなりの問題作?
恩田先生がいろんな問題を叩きつけてきた、みたいな読後感でした・・・この本、ジャンル的には「推理小説」だったので、私の推理小説に対するイメージでは犯人と動機とトリックが解明されて一件落着 ⇒ 聖母たちのララバイ、という2時間ドラマそのもの・・・というか恩田先生がわざとそのイメージに寄せて書いてるっぽい(日本海、海辺で告白、崖の上に教会)ですが、推理小説テイストの裏に別のテーマがいくつもある?
ちょっと疑問を持ったところをいくつか書いていきます。ここから先は憶測とネタバレなので、見たくない方はここでブラウザバックいただければと思います。念のため何行か空けます。
第3章の謎
第3章だけ、主要な名前に表記ずれがあります。「青澤」⇒「相澤」、「緋紗子」⇒「久代」。「校正ミス?」とか思って読み進めたのですが、違うみたい。
ネットで調べるといくつかの考察があり、本作の登場人物の一人である雑賀満喜子さんが毒殺事件について書いた「忘れられた祝祭」という本の内容、と。
半分賛成ですが、第3章の内容は本には書かれていないと考えます。第3章の内容は緋紗子さんが毒殺事件に関わりがあることを強く示唆しており、出版されていたら大問題になっていたでしょう。これは、「忘れられた祝祭」に収録されなかった、雑賀満喜子さん自体の証言、「載せられなかった」のでがなく「載せなかった」メッセージだと思いました。
ジュースに違和感を感じた時刻の謎
ネットには、雑賀満喜子さんの2番目の兄、最後自殺した、がジュースに違和感を感じた時刻の謎、という話題がありましたが、それについては整合性が取れていたので謎ではありません。
ミニカーの謎
物語には酒とジュースを運ぶ経路に置かれていた、転びそうになったミニカー、を誰が置いたか、という謎が出てきました。これは上の項で出てきた兄かな?と思います。序盤の証言の中での示唆と終盤の告白(遺書)の整合を考えて。ほんの少し、酒とジュースを届けた犯人、という可能性もなくはないのですが。
婦警は何だったのか?
ラスト唐突に出てきた婦警さん、物語の中でもちらほら出てはいましたが、吉水(旧姓:雑賀)満喜子さんの死に影響を与えたように描かれた婦警さん、「なぜ急に?」としばらく「?」マークが浮かんでいましたが・・・
毒殺事件後しばらくして青澤緋紗子さんと一緒になり、彼女に共感して、何らかの役割を果たす、「ユージニア」の一員になったんだと思いました。第10章、編集者に電話をかけたのはおそらく彼女、そしてその後のいろいろな件に絡んだのも・・・
吉水(旧姓:雑賀)満喜子さんはなぜK市に寄ったのか?なぜ婦警さんに見つかったのか?何に絶望したのか?そしてなぜ亡くなったのか?
ここの周辺はたくさんの謎が残りました。
まず何に絶望したのか?これは本書の内容で分かりそうです。雑賀満喜子さんは最初青澤緋紗子さんになりたかった、具体的には心を同一化したかった。そこから転化して緋紗子さんの鑑賞者になろうとした。鑑賞者になると緋紗子さんが考える「もう1人」になれるかは分かりませんが。・・・そうでないという事実を悟ったからでしょうか?「それが重大か?」というのは凡人にはよく分からないこと?
他はよく分かりません。ありそうなシナリオとして、緋紗子さんに呼び出されてK市に行った。だから婦警さんは見つけられた。そこで婦警さんから満喜子さんに、ユージニアの一員でない旨の話が伝えられた。緩慢な自殺なのか手を下されたのかはよく分からない。実は持病があって情報をつかまれてたのかも・・・
「挫折した」と「亡くなった」という事実が重要で、そこの詳細は本作ではあまり重要ではないのでしょう。
「お手伝いの女性」の謎
第4章で証言した娘の母、そしてその後もちらほら話に出てきたお手伝いの女性。毒殺事件で毒を飲まされたものの偶然の電話に助けられて何とか生き残った女性です。事件解決時「私は生き残るべきじゃなかったんです」と号泣した謎。てっきり、かわいがっていた青澤家の末っ子が亡くなったこと、自分が転んで瓶を割ってしまっていれば・・・みたいなものか?とおもっていたのですが・・・後半になってくると、上のセリフの直前の「違うんです」も気になり・・・
彼女は、本作で事件のカギとして描かれた「潮騒の近くの教会」に奥様と緋紗子さんと出かけています。目が見えない緋紗子さんのお世話係として・・・
何かが計画されていたのを知っていた、もしくは感づいていたのでしょうか?
懺悔の中身は?
奥様(緋紗子さんのお母さん)はクリスチャンで、特に不慮の事故で緋紗子さんの目が見えなくなってから、活動が熱心になったようです。青澤家には礼拝室があるのですが、その部屋に関してはなぜか奥歯に物が挟まったような証言だったり良い印象がなさそうだったり・・・
緋紗子さんが奥様に連れられて礼拝室に入ったことが毒殺事件への大きな転機になったように書かれています。そして、礼拝室=懺悔、の文脈。
緋紗子さんが懺悔で何を語ったのか?中盤くらいの各章で示唆されています。音のない世界に行きたいこと、1人もしくは2人の世界・・・
奥様はそれを聞いたのでしょう。
モチーフの事件から違ってた
本書で強調されていたのは「帝銀事件」との相似。「第二の帝銀事件」と呼ばれているものは他に「名張毒ぶどう酒事件」があって、これがモチーフでしょうか???・・・というところで「推理小説」と思ったところが間違いだったかもしれません。
具体的にどれ?とは言い難いですが、過去に宗教と絡んで何回か起こった、集団自決事件・・・をベースにした無理心中か?
真犯人は?
緋紗子さん・・・ではないと思います。すべて知っていた可能性は高いですし願望もあったようですが、特段何かを計画したり決定的な仕事をしたようには・・・
「ユージニア」に集まった人たちでしょうか?潮騒の近くに登場した人たち。実行犯とされた青年は・・・実行犯でしょう。毒物を入手できそうですし。お手伝いの女性は・・・何かしらやらされてたと思いますが、結末は知らなかったと思います。立場的に。奥様は・・・「真犯人?」というと微妙(何かを具体的に計画したとかは微妙)ですが、奥様がいなかったら事件にはならず、少女の願望だけで終わっていた気がします。
「ユージニア」って?
緋紗子さんが望んだ、緋紗子さんと友人の世界。その世界の住人は緋紗子さんに心酔して、自己犠牲を伴う。
奥様は・・・緋紗子さんは目が見えなくなった代わりに他のすべての感性が発達して「神がかり」ます。実際にラスト、緋紗子さんは目が見えるようになって神秘性が消えた、そんな描写があり・・・奥様はそこに「神」を見て住人になったのかも。
「洗脳?」という言葉も浮かばなくもない・・・。