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管見談 チャットGPTで現代語訳 ②公儀-2


3.倹約の美徳とその限界、そして倹約と吝嗇の違い

原文

一、祖宗の御法は御改なきを以て御子孫の御孝行とするなり、いかにと云に、国家は祖宗の御創業にて御格式御作法も祖宗の御建立なり、御子孫は皆国家を預からせ給ひ御名代を勤させ給ふ事なれは、其格式を守らせられ、堅固に国家を守護し給ふか祖宗の思召を続せらるゝにて御本意なる故也、
 且執政執事の御政事を掌ニも古法古格に因ときハ、大抵の人なれは滞ハなき也、非バ先王之法言ニ不敢言と仰られて、祖宗の御格式を守るハ大臣の専務なり、且国民も法に習る故世は斯ある物と思ひ、何の差別もなくそれに安堵し居也、
 されとも年久しけれはいつしか本を失ひ、様々の弊生して国家の害トなる事ある故、後世の人主旧弊を改め祖宗の御格式を修正し給ふを中興の君と申なり、
 乍去仮令祖宗ノ御格式なり共後世種々の害を生して国民の患となる時は、賢君良弼ありて御格法を改められんに、何の苦しかるへき、根元民を治め給ふ為なれハ、何れの道にも民を安んするか専一なるへき也、然とも左様の時は末代を洞視する御器量にあらされては叶はぬ事也、今年改而明年捨給ふか如きハ国家を擾乱して却而国の治らさる基となるなり、
 故に書ニ曰、君罔以辨言ヲ乱旧章ヲ、又曰、無作聡明ヲ乱旧政ヲ、詩曰、不愆不忘率由ス旧章ニ、因而賢君良相といへ共従来の法を改め給ふハ大に難じ給ふ処なり、
 時に国家ハ寛文四年御半領にならせられしかは、此時万事の御格法も半減を以立させられるへかりしを、依然として従来之御法に因順せられ、増したるハあれとも減したるハなく、夫故今の御窮迫にも至られられしを申せは、国家ハ格別の御事なれは、国初の御格法を御斟酌ありて万事を御省略あり、御分限御相応の一定の御格法を立させられ、万々世目出度御相続あらせらるゝ様になし給ふか、当時第一の御孝行、国家の先務、人生の御本意なるべし

現代語訳

一、皆、国家を預かり、祖先の名を継ぐ役目を果たしているのですから、その格式を守り、堅固に国家を守護し続けることが、祖先の意思を継ぐことであり、これが本来の目的です。
 また、政務を執り行う際にも、古い法や慣習に従えば、ほとんどの人は問題なく進めることができます。「先王の法に反することは言ってはならない」とも言われているように、祖先の格式を守ることは大臣たちの重要な役目であり、国民もその法に従うことで、何の混乱もなく安定した生活を送っています。
 しかし、長い年月が経つと、いつしかその本来の目的を見失い、さまざまな弊害が生じて国家に害を及ぼすことがあります。そのため、後世の君主が古い弊害を取り除き、祖先の格式を修正することを「中興の君」と呼びます。
 とはいえ、たとえ祖先の格式であっても、後世にさまざまな害を及ぼし、国民に苦しみをもたらす時には、賢明な君主と良き補佐がその法を改めることは問題ないでしょう。そもそも、国民を治めるための根本的な目的は、民を安心させることにあるべきです。しかし、その際には、将来を見通す器量がなければ、うまくいきません。今年改めたことを翌年には捨ててしまうようでは、国家を混乱させ、かえって治めることが難しくなります。
 『書経』には、「君主は弁舌によって旧い法を乱してはならない」とあり、また「聡明であることを誇って旧い政治を乱してはならない」とも言われています。『詩経』には、「過ちなく忘れず、旧い章に従う」とあり、賢い君主や良い大臣であっても、従来の法を改めることは非常に難しいことです。
 寛文四年に国家が半分の領地になった時には、すべての法制度も半分にするべきでしたが、従来の法をそのまま守り、増やすことはあっても減らすことはありませんでした。そのため、今の財政難にも至ったのです。国家のことは特別ですから、初代の法を見直し、すべてを省略して、分相応の一定の法を立て、末永く喜ばしい形で相続ができるようにすることが、今最も重要な孝行であり、国家の最優先事項であり、人としての本来の目的と言えるでしょう。

4.祖先の格式を守る重要性やその調整の難しさ

原文

一、日向国飽肥の領主伊藤矦ハ昔より御家盛衰なしといへり、其故いかにと申に、先君の立置し格式作法厳にして小細の事迄夫々に定法あり、御代々是を厳敷御守りある也、矦の召るゝ上下にも定式有て代々夫を召るゝ事なるに、或時矦営中より御退あつて家老を召れ、我等着用の裃裃の如きハ一人もなし、染色の替る計の事ハ苦しくもあるまし、人並の裃裃にしたき物也と仰られけれは、同役評判仕候而御答可申上とて退き、其後出て申様、先日被仰聞候御上下の義、御年若之儀なれハ御尤之御事也、乍去仮令御染色計りの事にもせよ御定格を替られては御家格の破るゝ基なり、御定式の上下を召れゝとて御恥辱にもならぬ事なれは、御延引可然とて諾せさりしと也、又或時御泉水江靏を飼度由家老へ御申有けれは、御先例を僉義仕可申上とて、其後申様、当表には御先例なき故御在所江申遣候処、靏を飼せられし事ハ相見得す、鴨を飼せられし御例有は鴨を御飼有へしと云けるとそ、ケ様成る聊の小事迄も先格を頽さぬゆへ御家いつも同格也といへり、

現代語訳

一、日向国飽肥(ひゅうがのくにあくび)の領主である伊藤家は、昔から家の盛衰がなかったと言われています。その理由は何かというと、先代の君主が定めた格式や作法が非常に厳格であり、細かいことに至るまで全てに定められた規則があったためです。代々の当主たちはそれを厳格に守り続けてきました。
たとえば、領主が召し抱える上下の者にも定まった規則があり、代々それに従って召し抱えられていました。ある時、領主が営中(館内)から退いて家老を召し、「我々が着ている裃(かみしも)のような服は、誰も着ていない。染めの色が少し違うくらいのことであれば問題ないだろう。普通の人並みに裃を着たいものだ」と仰せになりました。
家老は「この件について他の者たちと話し合い、回答を申し上げます」として退き、後に戻ってこう申し上げました。「先日仰せいただいた上下の件は、確かにお若い年齢ゆえにもっともなお考えかと存じます。しかし、たとえ染めの色だけのことでも、定められた格式を変えてしまえば、家の格式を崩すきっかけとなります。定まった格式の上下をお召しになられたとしても恥ずかしいことにはなりませんので、もう少しお待ちいただければと存じます」と述べ、提案を受け入れませんでした。
また、ある時、領主が泉水(いずみ)に鶴を飼いたいと家老に仰せになりました。家老は「前例を調べて回答いたします」として、後に「当家には鶴を飼った前例はないため、他の場所に問い合わせましたが、やはり鶴を飼った記録は見つかりませんでした。しかし、鴨を飼った前例はございますので、鴨をお飼いになってはいかがでしょうか」と申し上げました。
このように、ほんの些細なことでも、定められた格式を崩さないため、伊藤家は常にその格式を保ち、安定していると言われています。


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