石油覇権の未来
中東紅海にあるバブエルマンデブ海峡は、海運の要路だが、昨年末からイエメンの武装組織フーシ派による商船への攻撃が増加していることを受け、海運大手ドイツのハパックロイド、スイスのMSC、デンマークのマースク、フランスのCMA CGM、台湾のエバーグリーン、英国石油大手BPなどが紅海を通る経路を回避し、南アフリカ共和国の喜望峰回りなどへのルート変更を発表した。武装組織フーシ派は、イランを後ろ盾としている。イランは既に長年対立関係にあったアラブの盟主サウジアラビアと和解しているので、この小さな民兵組織は小規模だが、バックに巨大な湾岸アラブ諸国、更に言えばBRICSプラスがついているといえる。紅海とインド洋を結ぶ航路が寸断されたことで、貿易の流れが途絶え、世界的にも輸送費用や燃料の上昇など経済的な悪影響は受けているが、紅海に面するイスラエルは特に経済的な打撃を受けている。
これに対して、米国主導の22カ国連合は軍艦、数機の有人・無人偵察機、戦術機やジェット機を紅海に配備して、フーシ派の攻撃から商船を守ろうとしている。US-led Operation Prosperity Guardian continues protection in the Red Sea | Shephard (shephardmedia.com)
また、イラン・ケルマンでは2024年1月3日、2020年に米軍に殺害された革命防衛隊のソレイマニ司令官の墓のある墓地で行われていた追悼式典中に2回の爆発があり、約100人が死亡した。米国側はIS(イスラム国)の仕業としているが、イラン側はアメリカやイスラエル側の犯行と考えている。また、同日、イラク北部キルクークにおいても米軍によるドローン攻撃で親イラン武装勢力メンバーを殺害するといったイラン側と米国側の緊張が高まる状況が続いている。(イラク側はこの事件を受け、駐留米軍の早期撤退を要請し始めた。)また、イスラエル軍もレバノンやシリアで親イラン組織ヒズボラやハマスに対する暗殺を行っている。
これまで、ISの責任にしたり、正当防衛を主張するなど、米側からの隠然たるイランへの攻撃が続いているが、アメリカがイランを表立って攻撃するようなことはなかった。しかし、1月11日にはついに米英軍によるイエメン(フーシ派拠点とされる)への空爆が開始された。事態が更に発展した場合、石油輸送の大動脈であるホルムズ海峡が封鎖される可能性が濃厚となる。中東から出荷される殆どの石油タンカーはこのホルムズ海峡を通っていく為、この海峡が封鎖されると、原油価格は2倍に跳ね上がる可能性があるとされている。(Oil prices may double – Goldman Sachs — RT Business News)
また、ロシアへの経済制裁をアメリカから強いられている日本は、中東へのエネルギー依存度が97%まで高まっているため、日本には石油が入ってこなくなる恐れもある。
更に、もっと大きな視点で言えば、巨大な原油先物市場(約40兆ドル)が崩壊するリスクも否めない。これが実現するとアメリカの金融は崩壊し、ロシアを中心とするBRICSプラスの多極化の世界に一気に移行していくことになる。
元々、中東産油国は国際石油資本からの搾取に対抗するため、1960年にOPECを設立し、1973年には減産によって石油危機を起こすことで米国覇権体制と経済に大きな打撃を与えてきた。しかし、1980年代にはアラブの盟主であるサウジアラビアが米国側に取り込まれ、世界最大の生産余力を使って石油価格を引き下げ、OPECを米国サウジ主導のものとした。尚、サウジが米国に協力して石油価格を引き下げたことでソ連は石油収入が激減して崩壊に至った。(尚、サウジの米国への協力に加えて、1980年代に導入された原油先物市場で金融主導の石油価格決定を実施し、石油価格上昇を抑止したことも米国覇権体制の維持につながっている。)1980年代以降サウジのペトロダラーが米覇権を支えることになるが、2001年9.11テロ事件をきっかけにサウジ王室のイスラム主義運動がテロ組織アルカイダになったという理屈で米国がサウジを敵視し始め、それ以来サウジは米国からの嫌がらせを受け続ける。2015年には米国の謀略でサウジをイエメンに侵攻させたり、米国のイラン敵視をサウジに強要したり、サウジアラビア記者のジョマル・カショギ暗殺事件についてもサウジ皇太子(MBS)の犯行であると米国は断定し非難している。(米裁判で既にサウジ皇太子の無罪が判明している)
ここまで嫌がらせを受けてもサウジアラビアは米国覇権が強大である限り反抗することは控えていたが、水面下で米国離れ、多極化の動きを加速させていた。具体的には2016年にはロシアと結束してOPECプラスを作り、中国へ人民建ての石油輸出などを行っていた。そして2022年2月ウクライナ戦争勃発で米国とロシアの対立が決定的になり、欧米の銀行がリーマン危機後のドルの唯一の支えだった金融緩和をやめて金融引き締めに転じたことによって、ドルと米覇権の崩壊が秒読みになったところで、OPECプラスで大幅な減産を行い、石油価格を吊り上げることで経済面から米国覇権をつぶす動きを見せた。
BRICSプラスの各国は既に米ドル建て以外で石油取引を行っており、ドル離れ、米国金融崩壊は確実に進行している。それに加え、地球温暖化という嘘学説に則って、欧米の国際石油資本はどんどん既存の石油権益を手放し、BRICSプラスの国々がそれらを拾い集める動きがあるので、BRICSプラス新興国は資源保有を強化し、米国側は崩壊寸前の金融のみを保有するという対照的な状況が強化されている。尚、ウッドマッケンジーのレポートによると新セブンシスターズ(ロシア2社、サウジ、イラン、カタール、アブダビ、ベネズエラの国営石油会社)は現時点で世界の埋蔵量の65%を保有しており、ここに中国を加えると世界の殆どの埋蔵量はBRICSプラス側にあるということになる。
米国側の国際石油資本は埋蔵状態の石油ガスを商業化する技術が高い。米国側が技術を独占し、非米諸国への技術移転を妨害してきたので、非米側に石油ガス開発技術が蓄積されにくかった。非米側で比較的高い技術を持つ中露の結束が進むといずれ日米側の石油ガス開発技術が向上し、商業化できる割合が増す。だが、一気には無理で、非米側の国営石油会社が国際石油資本の技術に追いつくのは5から10年は必要であるように見受けられる。それまでは非米側国営石油は国際石油資本に開発を委託しながら、技術・ノウハウを吸収するのに必死となる。
だが、ここに米国の金融崩壊が起きると国際石油資本は一気に総崩れとなるだろう。なぜなら、先にも述べたように金融崩壊が起きると約40兆ドルの膨大な石油先物市場が崩れることになる。原油先物市場は米国側にとってはOPECプラスによる石油価格上昇を食い止める防波堤の役割を果たしているので、これがなくなるとパワーバランスは一気にOPECプラス側に傾くことになる。しかも、2024年の今年に米国の金融崩壊が起きる可能性が高い。
今後、石油市場・産業、米国覇権がどうなっていくか注視していきたい。
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