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選木技術と教育

フライブルグの齋藤さんのツイッターでは、海外文献のダイジェストが定期的に紹介されていて大変助かっています。情報にあふれる現代だからこそ、キュレーター的存在は本当にありがたいです。

先日紹介されていたこの論文に注目しました。

アイルランドの研究ですが、プロと初心者の選木(伐る木と残す木を選ぶ作業)の比較から言えることは、特定の方法に精通した熟練者(expert)ほどその経験から離れられない傾向があって、このことはモノカルチャーな林業から複雑な構造の森づくりに移行する上で重要な課題である、というものです。

そして、最終的にこう結論づけています。

tree marking is a skill that has a key role to play in influencing stand structure and ensuring sustainable forest management. Yet, its role is underestimated, and its use in countries with a long tradition in plantation forestry is declining. If continuous cover forestry approaches are to be adopted to a greater extent, greater recognition of the role of tree marking and investment in the training of foresters in this activity will be required.

筆者訳:選木は林分の構造に影響を与え、持続可能な森林管理を確保する上で重要な技能ですが、その役割は過小評価されていて、プランテーション林業(画一的な一斉造林)が長い伝統となっている国々では(その技能は)使われなくなってきています。 恒続林へのアプローチをより広く採用する場合は、選木の役割に対するより大きな認識と、それに対するフォレスターの訓練への投資が必要になります。

Forest Science, Volume 62, Issue 3, June 2016, Pages 288–296, https://doi.org/10.5849/forsci.15-133

これは、恒続林のような混交林や多段林が林業でできるのかどうかという狭い議論で終始すべきではないとも考えます。

つまり、時代が変わって価値観が変わり、ニーズが変わってマーケットが変われば新しいシステムが必要になる。新しいシステムには(初心者・熟練者問わず)新しい教育が必要…という、人材育成の根本に関わる課題のようです。

ただ、これに類することは日本でもだいぶ前から言われていることで、例えば60年前の業界紙ではこのような記述があります。

林学教育は学校や教師だけで完成することは困難であって、林業産業に関係ある官公庁はじめ,業界その他職域全体が深い関心をもって強力に林業教育の拡充を推進するのでなければ,現在の後進性を脱却して真に林業,林産業の担い手として必要な人材養成を期待することはできないであろう。

「大学・高校における林業教育のあり方」山内倭文夫、林業技術253(1963年)

やりがちなのは、経験者はダメで初心者に最初から教えたほうが早いという二元論で、私自身も以前にこの罠に嵌ってしまったことがありました。そうではなく、両方の強みを生かすという考えにどのようにシフトできるか。

私も林業の学校で森づくりの授業を担当させていただいているので、より身を引き締めなければと考えさせられた研究でした。

現場を軽んずるのは問題外ですが、理論(を言う人)を軽視するというのも実際に起こりがちです。最後にこの言葉を自分自身への戒めとして。

自分たちは理論などにとらわれていないと思っている実務家は、遠い昔の名前すら忘れられてしまった三流学者の説に従っているだけのことが多い。

ケインズ

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