棄てられた星
どうしようもなく気分が滅入っていた時のこと。
たまたま立ち寄った海岸で、考えさせられる出会いがあった。
福井県にある三方五湖の湖畔を車でしばらく走っていると、そのうち海に面した道に出る。
216号線の峠道をひたすら運転し、その先端にある常神に到着。
港に停車してひと息。
照りつける日差しが暑く、完全に車を停めてしまうと車内は一瞬でサウナのようになる。
車のキーとカメラだけを持つと、強く吹く風が気持ちいい海岸に出て、あたりを見渡した。
少し離れたところにあるビーチの奥に、新緑と青い海が綺麗なコントラストを作っている《映え》スポットを見つけた。
数人の漁師が作業をしている横を通過し、さらに進むと、コンクリートの地面が砂浜に向けて階段になっている。
そこから眼前に広がる光景は無残なものだった。
遠目で見ていた時は気づかなかったのだが、ビーチには無数の漂着物が打ち捨てられている。
ちょっとしたゴミ山だった。
よく目につくのは派手な色のついた大きな浮き。外国の文字が書いてあるボトルや缶。
階段を降りて、今にも崩れそうなゴミ山の上を恐る恐る歩く。
割れて散乱したビンの破片が、サンダルの裏にいくつか刺さったので肝が冷えた。
そんな時、ふと何かの匂いを感じる。
鼻で息を吸えば、濃い獣の臭い。
周辺を探すと、すぐに近くに匂いの正体が転がっていた。
腐食が進んだ野生動物の死骸。
サイズ的にタヌキやキツネの類なのだろうが、外見からは判別できない程朽ちていた。
嫌なものを見たな、と思った。
その先は鼻で息を吸わないようにして進む事にする。
目的のポイントに到着し、しばらく写真を撮っている間も足元の突起したゴミにはかなり気を取られた。
ゴミ、ゴミ、ゴミ。
ビーチを覆い尽くす色とりどりの残骸。
そういったものを見ていると不思議な気分になった。
先ほどの死骸は時間が経てばいつか土になり、いずれ地球に還る。
それは私たち人間だって同じで、死んで火葬されれば灰になる。
体は自然に還っていくのだ。
しかしどうだろう、無数に廃棄されたこの残骸は。
人間が死んだところで、おそらくアレは残る。
幼少の頃。遠足に出かけた際に先生が「来た時よりも美しく」と言っていたのを思い出した。
ゴミは持ち帰って処分しましょう。
子供の頃から教えられてきたのに、大人になった私たちはモノを捨て、海を汚している。
人間の軌跡は文明の発達と共にあった。
技術が進歩し、それらを駆使する事で私たちは自由な生活を送ることができる。
その代償が自然破壊であるなら、人間はなんて下等な生き物なのだろう。
車に戻る時、もう一度あの死骸の横を通った。
私がいつか死んだ時、どれほどの無駄をこの地球上に残して逝くのだろうか…。
少なくともコイツほど綺麗には死ねないだろう。