1999 You Blue I

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最近の記事

ひとり たびのなか

癒されるのはどんなとき、と大学からの友達三人と話していて、「一人でいる時間ぜんぶ」という答えが口をついて出た。自分でも想像以上に端的にその言葉が表現するので驚いたが、その瞬間、あ、と思った。中学生のとき、女の子のグループでいるときにも「わたし男子といる方が気が楽なんだよね」と言っている子がいた。それは言わないほうがいいのでは、と思ったし、周りの子たちもどう受け取るべきか決めあぐねていた。それとちっとも変わらないではないか。わたしはたまにこういうことを言ってしまったり考えていた

    • 雨降る森の美術館

       箱根のポーラ美術館。友達の大切かもしれない場所だったので、行く前から親しみを感じていた(すごく遠回しだけど、インスタに載っていた、の意です)。大雨が降って電車が停電で止まっていたので、バスを乗り継いで行った。箱根は初めてだったのであんなに山が深いとは知らなかった。うねうねと山道を走るバスの車窓から、雨に濡れて色を増した森の緑が流れて見えた。  美術館に到着すると、山の勾配を利用して建てられているのか、入口を抜けるとエスカレーターが階下に伸び、さらに地下まで展示室が広がって

      • ずっと九月

        つまらない話 時間の議論は不毛だ。 長く感じられる、あっという間だった、そういうのは、暑いね寒いね、というのと同じくらいつまらない。中学二年生のときに、一緒に通学していた友達がおはようの後に「さっむ」というのを聞いて、学校に着くまでの間なにも話すことがない未来を予感した。あまりにも端的にそのことを捉えられた。小さい頃の方が、年齢に対して成熟度が高かった。大学生になってスタバでバイトをしていたとき、意識の高いお姉さんが「天気のこと以外で一言添えるようにしよう。そんなこと、誰に

        • 朝の支度

          7:30 起きる。7:25から目覚まし時計をセットしている。仕事の日に寝坊したことは一度もない。起きてまずトイレに行き、顔を洗う。朝は水洗顔がいいとかパックがいいとか、そういうのはなんの変化も感じられずやめた。いや化粧品全般に関してそうで、ビタミン系の化粧水、美白系の乳液、効果を求めるものだと忘れ、惰性でただ塗っている。唯一、おっと思ったのはベネフィークのアクネウォッシュで、水を含ませた泡だてネットに8ミリくらい出してクシュクシュと泡立てると、顔中に広げても一センチくらいにな

        ひとり たびのなか

          わたしのすきなアイドル

          この文章は、わたしが13年間好きなアイドルについて、兵役前後の彼の言動から考察を試みたものである。内容は、あくまでわたしの妄想の域を越えない。彼のファンの方には共感していただける部分もあると思うし、彼を知らない人にも、いちファンがアイドルに対して抱く感情のサンプルとしてお読みいただきたい。 AceのIdentity きわめて観念的。 わたしがテミンというアイドルに抱く感情のことだ。 テミンはSHINeeの末っ子でメインダンサー。2008年5月、満14歳でデビュー。韓国が国

          わたしのすきなアイドル

          鳥を掬う

          いつだっただろう、受験のとき。受験なんて人生で二回しかしていないから、どちらかというと高校受験だろう。いや、定期テストかもしれない。 なにかしらのテストが始まる直前、勉強道具をしまう前に最後の悪あがきをする時間。そこで、わたしは秘密兵器として一つの漢字を覚えた。ごまんとあるなかで、その漢字がわたしに合図した。こいつ、ぜったい、出るぞ。この漢字を読めるかどうか、書けるかどうかが勝敗につながるだろう。わたしがわかる問題なんてみんなもわかるに決まっている。わたしはさっきまでこれがわ

          鳥を掬う

          タオルが落ちていた

          隣の部屋のベランダにわたしのタオルが落ちていた。 なぜ気づいたのか。後ろめたい気持ちを抱えつつそっと覗き込んだのだ。たくさん洗濯バサミがついているタイプのプラスチックのハンガーには、タオルを二枚干せるクリップもついており、その挟み方が甘かったのか、隣の部屋のベランダの室外機の上に着地していた。手を伸ばせるような隙間はない。どうしよう。インターホンを鳴らして、タオルが飛んでいってしまったんですけど、とでも言おうか。いやいや田舎じゃあるまいし。この時代にご近所付き合いなんてあった

          タオルが落ちていた

          就活をめぐる冒険

          渦に呑まれるようにはじまり、やがて没頭し、もう終わりにしてくれと願った就活。そこで得たいちばん大切なもののひとつは、街のちいさな古びたホテルからの一通のメッセージだった。 はじめに こんにちは! 今日は就活を終えたわたしからこれからみなさんに、絶対にやっておいた方がいいことを五つ、紹介したいと思います〜!ぜひひとつでも実践してみてくださいね。 なんていうテンションで始まる文章では、もちろんない。本当にタメになる就活テクニックみたいなものが読めると思った方、すみませんがそう

          就活をめぐる冒険

          紫陽花の咲く

          紫陽花の咲く木を見て、これは紫陽花の木だったのだと知る。 紫陽花が好きだ。紫陽花は咲くのにたくさんの水を必要とするそうだが、それがわかるような、水性の色。じゅわりと分厚い花びら。花の影が花火のように、葉に濃く落ちる。紫陽花が咲くのはちょうど雲の白さがつよまる頃で、そうだったそうだった、夏はこんな風に暑いのだと思い出す。 それはそうと、最近気づいたことがある。 春は桜、初夏はツツジ、梅雨は紫陽花、夏は百日紅、秋は紅葉、冬には雪をいっぱいのせる椿が咲く木があるような気がして、ない

          紫陽花の咲く

          昨日と今日の日記

          🐻‍❄️ 地球儀にタブレットをかざすと、ホッキョクグマが表示された。「常同行動しない子ですね」。 ─常同行動ってなんですか。 ─動物園の熊が、一点でぐるぐるしたりしますよね、本来であれば北極みたいな、なにもない広いところにいたはずの子が動物園に連れてこられると、そういうことをするんです。言ってしまえば異常な状態ってことですよね。二世はなりにくいけど、連れてこられた子はなりやすいみたいです。サーカスのゾウがゆらゆらするのも、そう。 ─へええ、知りませんでした。動物園、あまり行か

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          目覚めたのはどの朝だ

          目覚めたのはどの朝だ 夜だったことなんて忘れてしまったような、けろりとした顔色の空。傘を持っておらず、小雨に濡れながら帰ったのは本当に数時間前のことか。すれ違う人が傘を持っているとイライラし、横断しようとした車が止まって、なんなら少しバックして道を譲ってくれると、雨に打たれる可哀想な子として映っているのか悪くないなと、気分が良かった夜。 起きる直前は一瞬、ぐわんとした引力で眠りの最深部まで吸い込まれて、また次の瞬間、意識の表層までトランポリンで跳ね上がって、起きる。 窓際に

          目覚めたのはどの朝だ

          あいうえお、の並び替え🎵

          あいうえお、あいうえお、あいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえおあいうえお ここから書くことは、あいうえお、と、なんら変わらない。ただのあいうえおの羅列だ。並べ替えだ。 わたしがここになんと書こうと、届かず、響かず、変わらず、意味がない。 それなら書かないほうが効率的と言えるか?生きる上で省エネか?小説でも映画でも、本筋に関わる部分だけでよいのなら、始まった、終わった、それだけだ。 うむ。卑屈で嫌じゃない。 💡 久しぶりに大きく体

          あいうえお、の並び替え🎵

          お疲れさまコンプレックス

          いつからさようならとこんばんはを言わなくなったか。 お疲れさまですという言葉が苦手だ。 なぜ大人になると、便利な挨拶としてお疲れさまと言うのだろうか。 仕事終わりに言うのはまだわかる。けれど、そんなに疲れていない時に、自分より疲れているであろう相手にお疲れさまと言われると、いたたまれなくなるのだ。いやそんな疲れてないよ、頑張れていないよと、自分にも相手にも面倒でしかない訂正をしたくなってしまう。そういう意味で言っているのではないことはわかっている。 慰めの言葉も、そうだ。お

          お疲れさまコンプレックス

          レモンの木 給食のにおい

          レモンの木 実家には祖父母が世話をしていた畑がある。今は母が面倒を見ていると思う。 10年以上前の四月か五月のある日。地元で毎年開かれる植木祭りで、祖母がレモンの木を買ってくれた。何かのプレゼントという名目だった。 わたしはレモンが好きで、すいかが嫌いな子供だった。というか今となっては考えられないが食に興味がなく(小さい頃なら当たり前か)、好きな食べ物があまりなかったのだと思う。強いて言うならという感じでレモンが好きだったのだろうし、好きとはいえそんなに量を食べられるわけで

          レモンの木 給食のにおい

          喫茶の唄

          カフェに行く。下から本、本、手帳、けーたい、と重ねて、手帳を開き、本を開き、集中が切れたら次の本を開き、気づくとけーたいが一番下になっているのを見ると落ち着く。心との距離がはっきりと、しっかりと、適切に遠ざかる。 蕪木 いつもコーヒーカップを鼻に近づけるときが一番ドキドキするし、はああ、鼻腔が喜んでるな〜と思う。冷めたコーヒーは、ほんとに夢から覚めたみたいな(ギャグではない)気持ちにさせられて、思ったより時間が経っていたことを知り、あ、もう立ち上がらないと、と思わされる。

          喫茶の唄

          当方極めてケチであるが、印象派展2024

          絵の前に立つと、重く、静かだった。目の前の睡蓮を描いているようで、とても遠くのもののように感じた。この色が好きだったのだろうなあ、好きな色をたくさん使えてよかったね、と慰めたくなるような、合掌したくなるような。そういえばこの展示が始まってから、ふと、画家の目に入るものすべてが描かれているわけではない、という当たり前のことをやたら強く意識したのを覚えている。というか初めて気づいた。絵画というのは、つまり、そういうことなのか。戸外で描くことが手法として取り入れられたのが印象派の特

          当方極めてケチであるが、印象派展2024