noteで歳時記 ~凩(木枯らし)~
【はじめに】
この記事では、『noteで歳時記』と題して、noteの機能を活用した歳時記を私(Rx)が編んでいます。今回取り上げるワードは『木枯らし/凩』です。
※「東京地方」で「木枯らし1号」が吹くのを待っていたのですが、今年も「発表なし」のまま12月を迎えてしまったので、このタイミングでの公開。
基本情報
◎解説
語源は諸説あるものの、いずれにしても「木」に由来するとされ、古代にも「こがらし」の名の風はあったと見られる。但し、秋か冬かは古くから議論され、「初冬」と定まったのは連歌師・宗祇の頃からなのだそう。
①「木枯らし(1号)」の定義
歳時記的には、「冬の初め頃に吹く強い北風」などと端的に表現されるが、現代における定義は案外複雑で、狭義には次に示す気象庁が発表するものに限られる。
まず大前提として、気象庁の発表する「木枯らし一号」は、東京・大阪のみを対象としており、その他の観測点ではどれだけ待っても「木枯らし一号」の発表はありません。
そして、共通しているのは、「10月の後半」をスタートとし、気圧配置が西高東低で、風向きが「北」寄りで、風速の基準が「8m/s以上」であることでしょうか。※ ちなみにここでの「風速」とは『10分平均の値』で、瞬間風速としては相当な強さになることも見落としがちですが大事な条件です。
一方、東京と大阪での違いとして、最も大きいのは、「期間」特に終わりのタイミングでしょう。東京は「11月末」ですが、大阪では「冬至(12月)」と1か月弱の違いがあります。
②「木枯らし1号」の吹いた時期
では、実際に「木枯らし1号」が吹いた時期の分布を図にしてみましょう。
東京では、10月下旬から11月中旬にかけてほぼ満遍なく分布していますが、2018・2019年と2年連続「発生せず」の事例があり、全国ニュースなどでも広く取り上げられます。
一方、「大阪」では、91年以降で約4割で「10月中」に、約3分の2で「11月上旬」までには「木枯らし1号」が吹きます。しかし、東京では対象期間の関係で現れることのない「12月」での“1号”の事例も1割程度あるなど、特色が思いの外はっきりと出た印象です。
また、「東京」と「大阪」で同じ日に“1号”が吹くことも、2~3割程度は発生しています。『西高東低』という冬型の気圧配置は、局所的に起こるものではなく、日本列島全体で形成されることが多いのも一因でしょう。
③歳時記的には【初冬】の季語だが
さて、この「木枯らし」に関しては、冒頭に書いたとおり俳句歳時記では、押しなべて『冬(初冬)』の季語として収録されています。
しかし、①~②などからして、「木枯らし」は10月の「晩秋」に吹くこともあれば、12月の「仲冬」にかけて何度も吹くことがあり得ます。最も頻度が高くて印象が強いのは「初冬≒11月」かも知れませんが、これも天文の季語あるあるで、必ずしも現代の体感・実態に即していない年も多いかと思いますので、そこは臨機応変に対応していきたいなと思います。
◎「木枯らし」の楽曲集
ここからは『木枯らし』にまつわる楽曲をリストアップしていきます。
(1837年)練習曲作品25-11『木枯らし』/フレデリック・ショパン
(1941・1949年)『たきび』/童謡
(1972年)『だれかが風の中で』/上條恒彦 ドラマ『木枯し紋次郎』
(1974年)『木枯しの二人』/伊藤咲子 週間5位、1975年年間36位
(1986年)『木枯しに抱かれて』/小泉今日子 週間3位、年間11位
◎例句
ここからは、歳時記に掲載されている『凩』の例句をご紹介していきます。
『凩』は「海」と取り合わせた句が古くから多くあります。
小説家・芥川龍之介の句としては比較的著名です。また「目刺」も春の季語ではあるのですが、これは「凩」の句でしょう。
芥川が亡くなって始まった様な「昭和」の時代。山口誓子は、終戦の前年にこんな句を詠んでいます。どういった思いがあったのでしょうか。
以上の2句を引いた上で、夏井いつき先生の性格の悪さ(?)を讃えたのは編集者の嵐山光三郎さん。第4回「種田山頭火賞」授賞式で取り上げられたこの句は、句集『梟』に収録されているものです。(39分過ぎ~)
“種田山頭火”の自由律に『うしろすがたのしぐれてゆくか』がありますが、こちらは松尾芭蕉の弟子・服部嵐雪の句。「木がらし」も冬の季語ですね。
そんな「木枯らし」に吹かれる「小石」を詠んだ作品を2句。どちらもこの凩の中に身を投じれば、追体験することが容易に感じる描写力です。
更に、より具体的な光景として描いたのが、正岡子規の臨終を看取るなど、門下生としても、遺構の保存に尽力するなど俳句人としても、功績を残した「寒川鼠骨」のこの句は、単語一つひとつがリアルです。
ここまで寒々しい句ばかりだったので、最後に少し気持ちが暖かくなる様な作品をご紹介しましょう。
「楽譜」が飛ばされたまでしたら、狙い過ぎでしょう。鞄の中に楽譜があるだけです。それだけのことなのに、強風の『凩』の存在を引き立てる非常に有力な味方として「楽譜」が句を、そして季語『凩』を立てていますよね。
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