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「福島復興俳句コンテスト」 ~俳人の永瀬十悟氏、夏井いつき氏に解説・評価していただきました~【視聴録】
【はじめに】
この記事では、東日本大震災から10年が経った2021年、復興庁が主催した「福島復興俳句コンテスト」を、2021年3月31日にYouTubeにアップされた動画『福島復興俳句コンテスト~俳人の永瀬十悟氏、夏井いつき氏に解説・評価していただきました~』で振り返っていきます。
0.福島県と、復興俳句コンテストについて
選者である「永瀬十悟(ながせ・とうご)」(福島県須賀川市出身の俳人)さんと、「夏井いつき」(愛媛県出身の俳人)さんによる動画です。
はじめに、永瀬さんが、
「福島県は:海沿いの「浜通り」、中央部の「中通り」、「会津地方」の 3つに分かれ、気候風土も違いますし、それぞれに特徴のある文化・農産物などがあります。今回寄せられた俳句は、それぞれの地域のお国自慢に溢れていました。」
などと、福島県民の立場からコメントを寄せると、続いて夏井さんは、
「私結構、東北に句会ライブという催しで福島に来ている。去年は南相馬、今年1月にはいわき市に来ている。その時の会場の皆さんの明るさにいつも圧倒されている。この人たちの明るさが復興の原動力なんだなって、いっつもこっちが元気を貰って帰っている。
今回の投句で、小さな日常やお祭り、食べ物・お酒といったシーンを切り取った作品がたくさんあって、小さな日常が帰ってきてるんだということにちょっとホッとして、そしてこの小さな日常を取り戻すのに10年掛かったんだ、ということを感じた。」
と話しています。
1.福島復興賞:ふくしまをわけあふやうに桃を剥く
永瀬「福島は果物王国ですが、この句の『わけあふ』という表現には、この10年間の困難を分け合うような思いが伝わってきますよね。」
夏井「(私の様な福島県外の人間は、こんな『福島を分け合う』という表現が良いのか少し気になっていたが、)この句はとても好きです。その表現の後に出てくる『桃』が豊かだし美しいし、この美しさがまさに福島である、と。収穫できるようになった桃を有難く頂いている、と。」
永瀬「県内の人も県外の人も一緒にって思いを感じますよね。やっぱり、平仮名の『ふくしま』というのが優しい響きがあって良いですよね。」
夏井「一時期、カタカナの『フクシマ』の時期もありましたもんね~」
表現に関して言えば、「福島を分け合ふ様に桃を剥く」まで漢字に置き換えられるのですが、「ふくしまをわけあふやうに桃を剥く」とすることで、お話しにもあった「ふくしま」の柔らかな響き・字面もそうですし、「桃」と「剥く」というフィーチャーしたい部分が目立つ効果も期待できますよね。
まさに「福島復興俳句」に相応しい大賞作品だったと思います。
2.入選 十度目の夏じゃんがらの鐘の音
夏井「これは私が推した句ですね。キーワードの十度目も入ってるじゃないですか。『お祭り』って、自分の生まれた所のお祭りが一番良いって思いません?ww このじゃんがらって、鐘の音がお祭りの名前になったのかなって思ったんですが、『じゃんがら』ってどういうお祭りですか?」
永瀬「その通りです。いわき市を中心とする共同芸能で、鐘や太鼓で、新盆の家を供養する念仏踊りです。震災の時は、津波の後の浜辺を、じゃんがらの人たちが供養して回ったということもあります。だから十度目の夏というのは思いが深いんだろうな、と思います。」
夏井「それを聞くと尚更です。お祭りって言ったって、例えば『五穀豊穣を願う』とか『秋の豊作を感謝する』とかあるじゃないですか。念仏踊りだって思ったら、また十度目の夏の意味というのが深くなりますよねー」
3.入選 鰯雲潮目の海にかかりけり
夏井「潮目の海ってどういう海ですか?」
永瀬「親潮と黒潮の出あうので『潮目の海』。ここは常磐物という質の良い魚が獲れる。
試験操業を繰り返して、安全性を確認して出荷している、そんな漁業者たちを応援する様な、雲の白さと海の青さの大きな景が美しいと思います。」
夏井「こういうのをやっぱり地元の人にお聞きしないと分かんないんですよねー。迷っちゃうんですよね、今聞いてみたらダイナミックですねー
じゃあ、魚の種類もめちゃくちゃある。漁も再開しているんでしょう? これ、魚で一杯やらないと……ww」
作者が「いわき市」の方ということもあります。小名浜などのある港町でもありますからね、実体験に近いものがおありだったのでしょう!
4.入選 貝焼きや町のへそから祭笛
夏井「これ、お祭りと食べ物とが一体になってるじゃないですか! 豊かってこれ違います? 『町のへそ』って表現も楽しい。 これ『貝焼き』って特殊な料理じゃないです……よね?」
永瀬「これ、ホッキ貝とかの貝殻に海胆(うに)を盛って、蒸し焼きにするというのが『いわき』の方では『貝焼き』って言うんです。」
夏井「それ、豪華すぎやしません?!」
永瀬「豪華だから値段もしますけれど、でも人気があります。」
夏井「海胆が乗ってるんだー、贅沢すぎますよねぇ~」
5.入選 冬麗や掌に涛(てになみ)乗せてフラガール
2006年の映画『フラガール』でモデルとなった常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)は、東日本大震災の津波の被害を受けましたが、2012年2月に全面営業を再開するまでの間、被災者の慰問や全国をキャラバンして復興をアピールしました。
ドキュメンタリーで、その活動を見たという夏井さんですが、映画『フラガール』も、スパリゾートハワイアンズにも行ったことが無いということで、その話題に花が咲いていましたww
6.入選 桜桃や脚立にのぼるバスガイド
夏井「最初ね、バスガイド、スカート履いてると思ったら、何かスケベな句かと思ったけど、これそういう目線じゃなくて嬉しい句なんだって思って、慌てて取り返したんですよねww」
永瀬「『さくらんぼ』というと山形を思い浮かべる方が多いと思いますが、福島も。」
夏井「さくらんぼ狩りバスツアーかなって思って。ただ、お客さんは狩るのが楽しいんだし、何でバスガイドさんが脚立にのぼってるんだろうとは思ってるけどもww」
いや、別にバスガイドさんが我先んじてのぼってるんじゃなくて、お客さんがひとしきり狩り終わった後に、『バスガイドさんもやってみなよ、楽しいよー』とかって誘われたんじゃないかと読みましたが、組長ww
7.その他の作品紹介でも止まらない!
福島復興賞1句+入選5句の紹介後、動画の約半分を使って「福島愛」を感じる作品が紹介されていきますが、その中でもトークは止まらず。
(1)秋澄むや彩り楽しわっぱめし
これなんかは、音数的に三段切れになってしまった点なんかが惜しかったのかなとも思いつつも、お2人は、「わっぱ」の木の匂いが食欲をそそると。福島の『豊かさ』にトークの彩りも自然と豊かになります。
(3)代々と守り護られ滝櫻
福島県の「三春町の滝桜」を詠んだ句。組長も、その名はご存知なようで、
夏井「滝桜、私も1回行かないと行けないねぇ。連れてってくれる?」
と、永瀬さんに案内役を要求する場面もありましたww 永瀬さんも笑って快諾して下さいましたがww
(5)再起した蔵元巡り風光る
句としてはギリギリ才能アリぐらいの無骨な作りではあるんですが、恐らくお酒大好きな夏井組長には取りたい句だったのでしょうww
実は蔵元の数が全国第4位で、新酒品評会でも金賞受賞数全国1位を続けていて、蔵元さんたちも新たな酒を生み出していかなければというそういった意味での「再起」も含まれている作品とのこと。
(9)こだなゆぎさすけね ここは奥会津
山形県庄内の方言も検索では引っかかりますが、福島県「奥会津」の方言を句またがりで詠んだ一句。夏井組長も何度も詠み返して、イントネーションを探ったといいます。
中通・須賀川の永瀬さんが福島県民を代表して「方言のイントネーション」を披露する一幕もありました。標準語で『この程度の雪、大丈夫ですよ。』となるんだとか。
『歳時記の郷(さと)』と名乗るほどに自然が厳しく豊かな「奥会津」で、方言で明るく言われているような感じを受けます。
(12)春来たる猪苗代湖で深呼吸
夏井「福島にある地名、強いですよね! 福島にある地名って、印象が凄く深いって言うか。 実は私、猪苗代湖行ったことがないんですけど、写真とかの印象でガーンと来るじゃないですか。福島得だよなぁってww 愛媛その点ね、損ですよ。」
永瀬「いえいえ、そんなことは無いですよww」
8.おわりに
お2人から真面目なコメントがあったかと思ったら、
夏井「でも今日いっぱい約束もしたんでー、
・『じゃんがら』にも連れてってもらうしー、
・猪苗代湖にも行くしー、
・(永瀬「滝桜」。)そう、滝桜にも行きたいしー、
・酒呑まないと行けないしー、
・魚食わないと行けないしー、
次から私は大変忙しい!
福島来るたびに、永瀬さんに連れてってもらわないと行けない!」
とはしゃいで、永瀬さんも「いつでもお待ちしております。」と応えさせていました。
でもそれぐらい見ごたえ、見どころのある福島県ですから、俳句の句材にも全く事欠かないですし、吟行(と称した旅行)にも行く場所に事欠かない、そんなことが改めて分かった、震災10年の「福島復興俳句コンテスト」でございました。