俳句チャンネル ~夏井が選ぶ!俳句を学びたい方へおすすめの本~(その2)
はじめに
↑ 2020年4月23日に開設されたYouTubeの「夏井いつき俳句チャンネル」。そのコメンタリーだったり補足だったりを、いつき組組員(?) たる私(Rx)が、勝手にやっていく記事です。
(その1)では、入門書をレベル分けしたうち「①前夜本」と「②入門本」を取り上げてきました。 ↓
① 俳句前夜本 『夏井いつきの 俳句ことはじめ』
② 俳句入門本 『夏井いつきの 世界一わかりやすい俳句の授業』
③ 俳句中級本 『20週俳句入門』/藤田湘子
④ 俳句上級本 ―
③ 俳句中級本 『20週俳句入門』/藤田湘子
入門本をマスターしたという方にオススメなのが、俳句中級本となります。
ただ、この記事を書いている段階では、夏井組長の著書の中に「この本が、中級本です!」と明示されたものが無いです。 一応、上記2冊には、
・『(③中級本は、)例句を使って、さらに 詳しい技法を解説』
・『各社の協力のもと、準備を進めております』
とあるので、その中級本が発売されたら取り上げたいな、と思っています。
では、中級本が発売されるまで、指を咥えて待つしかないのか?→NO。
冒頭の動画(↑)で、夏井組長が、薦めている本をここで紹介します。
その本こそが、平成の時代、長らく「俳句入門書の代名詞」とされてきた、『20週俳句入門 第一作のつくり方から(1988)』です。
夏井組長が、『②をクリアした人が、ちょっと本気で俳句を勉強したい人』にオススメしたい。と明言していたので、実質的にはこの本あたりが、
先ほどのレベル感で言うところの「③俳句中級本」に当たるのではないかと思う次第です。
白状しますと、私(Rx)も、プレバト!! を見て俳句を作りたいなと思って、最初に手にしたのがこの本でした。「俳句入門」と書いてあるのでですね。
ただ、内容的には②というより③~④ですから、そこそこ難しいのです。
そして何より「上達しようという上昇志向」が強い、若者言葉で言う所の『意識高い系』な本でした。
筆者、藤田湘子(ふじた・しょうし)さん。実は、昭和までの俳号あるあるなのですが、「子」とありますが“男性”です。(高浜虚子、水原秋桜子などもそうですよね、男性で「子(し)」で終わるのも慣例でした。)
藤田湘子さんの書き振り(口調)の「合う/合わない」が読者によってハッキリ出ると思うので、読みやすいかは意見が分かれそうですが、少なくともこの本に書かれていることを真面目に20講義分やりきれば、もう立派に、「上級者」を名乗れるのではないかと感じます。
(それぐらい、この本を途中で挫折せず20週やりきることは難しくハードルが高い。その代わり、全て身につけることができれば、他の人との差別化が図れるという意味です。)
↓ こちらのページから、試し読みが可能です! ↓
百聞は一見にしかず。今の出版元のKADOKAWAさんが、『試し読み』をしていますので、合うか合わないか、ぜひ一読してから購入を検討して下さい。
イメージ的には、「特待生」から「名人上位」を目指す、それぐらいの層のレベルの方向けって感じがします。
これは私の個人的感想ですが購入する際の参考にして頂ければと思います。
さて、夏井組長は動画内で、この本にたどり着くまでの難しさについて、
・俳句やろうと思う人が、なんでこの本に手が出にくいのかというと、
これよりももっと初歩の初歩のものが要る。
(つまり、結構 予備知識が要て、本当の初心者にはハードルが高い)
・そう思って、さっきのような本(①、②)を、
ここ(③)に結びつけようとして活動をしてきた。
などと語っています。つまり夏井組長は、③に結びつけるために、①・②の本を執筆してきた訳ですね。
そして、この本を奨める理由については、
・この本(③)が本当に役に立つのは、
『20週で俳句が作れるようになる』という数値目標が大事。
・(この本では、)1週ごとに、練習問題というか……
「まずこれをやってみましょう。」とか、
「まずこの1週間でこの俳句を覚えましょう」とか、
「この切れ字を使って俳句を作ってみましょう」とか、
物凄く具体的なの。
と語っています。「具体的なこと」の良さ、楽しさですね。
と言うのも、組長の初心者の頃の経験も語っていまして、
・私もこの本に出会うまでに、有名な俳人の人たちが書いた
入門書を沢山読んで勉強しようとしたんだけど、なんかね、
『お説は分かるんですが、じゃあ具体的にどうしたら良いのか』
って所で頓挫してしまうのね。
これも、俳句に限らず、初学者あるあるではないでしょうか。
もちろん、基礎練の大事さは万事に共通しているでしょうが、
それだけでは、飽きてやめてしまう人も沢山いますよね。
(20週という具体的な数字をタイトルで示し、
内容も物凄く具体的)だからずっと受け継がれながら、
俳句を学ぶ人のバイブルになってる。
と、この『俳句入門20週』についてを締めくくっています。
ただ、逆に言えば、この本が合わないからと言って気落ちすることはない。世の中には沢山、俳句本がありますから合う本を探し求めて行きましょう。
(補足)なぜ組長は「③の本」をそこまで推すの?
ここで少し脱線するかも知れませんが、夏井組長が何故ここまで「③の本」をオススメするのか、推しているのかについて補足しておきます。
一言でいってしまえば、夏井組長自身が「俳句を勉強した本」だからです。
エピソード(1):俳句友達と20週以上かけて読破
夏井組長が岸本先生との共著の中で語っていたのですが、俳句に興味を持ち始めた際、遠くに住む俳句友達と「20週以上」をかけて句を作り合いながら『20週俳句入門』を読破したそうです。
夏井組長の青春時代、友人と一緒に勉強した思い出があり、自分を「俳人」に成長させてくれた本だからこそ、推したかったのだとも思います。
自分を形作ってくれた一冊、かえがたいですもんね、お気持ち分かります。
エピソード(2):組長の著書にあった『尻から俳句』の元ネタがある
藤田湘子の『俳句20週入門』には、実は『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』で紹介されていた『尻から俳句』の元ネタのようなアイディアが載っているのです。
ただ、夏井組長は、藤田湘子さんが無愛想に書いていて、子供には真似しづらい手法を、子供や俳句の初心者でも手軽に作れる所まで「落とし込んだ」ところに大きな功績があります。
アイディアのパクリだ等と言うつもりは微塵もなく、むしろここで伝えたいのは、『組長の俳句の教え方の元ネタ』になったベースが、この本には書かれているということです。
広く言えば、(私淑)師匠とした本への恩返しなのではないかと思います。
エピソード(3):「プレバト!!」で語った話題の裏話
「プレバト!!」2018年の炎帝戦で、東国原英夫さんの俳句に「盗作疑惑」が掛けられた際の組長のエピソード、覚えていらっしゃるでしょうか?
夏井先生
「私も『良い句が出来たな』と思ったら、高浜虚子の句と一言一句変わらなかったことがある。そういう時に私は、『いよいよ高浜虚子のところまで来たな』と自分をほめる。」
と笑い話として仰っていました。俳句は、17音という小さい器の文学だから似通ってしまうことは良くあることです、と優しくフォローしていました。
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で、この話のことを指しているのではないか、と思う話がありました。
2018年秋にNHKの「ラジオ深夜便」で放送した組長のインタビューから。
初めて吟行会に先輩方に連れて行ってもらった(時に、)……
大きな葉っぱがクルクルって優雅にゆっくり落ちてくる(のを見て)自分の頭の中に「日当たりながら落ちにけり」ってフレーズがフッと浮かんだの。
「これは名句になるぞー!」と思って。だって、今見たものがそのまま映像化されてる。「日当たりながら落ちにけり」。
あとこの葉っぱの名前を教えてもらったら一句できると思って。
で、たまたま来た句会の先輩に「この葉っぱの名前を教えて下さい」って言ったら「いつきさん、アオギリ知らないのか」って言われてキリだって教えてもらって。「キリか、季節いつだっけ」と思って歳時記めくって……、『桐一葉』、いい句ができたーーって思った瞬間、その歳時記の例句に、『桐一葉日当たりながら落ちにけり』って書いてあるわけですよ。
これに続いて、
どこかの段階で私の脳にその句は多分刻まれてたんだとは思うんですが、そういうことを全然なくして、この葉っぱの落ちる様を見た私の脳に日当ながら落ちにけりっていう描写を思い浮かべさせる、「虚子スゲ~!」って思いましたね。これ、いまだに忘れられないエピソードですね。
虚子の、一物仕立ての描写力。
と、当時の興奮を力強く語っていらっしゃいました。
※元の文章は、引用元にしたNHKの「読むらじる」でお楽しみ下さい。
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少し長くなったので、私なりに要約すると、
・植物の名前を知らない状態で、目の前の光景を見ていたら、
「日当たりながら落ちにけり」という12音が自ずと浮かんできた。
・植物の名前を教えてもらって「桐一葉」と季語を置いたら、
意図せず、高浜虚子の句と一言一句同じものが出来てしまった。
・それほどの高浜虚子の『描写力』がすごい!
という3点を通じて、夏井組長ではなく、高浜虚子の凄さを物語っている、エピソードな訳なんですが、ここで注目したいのは、後半部分で太字にした
『どこかの段階で私の脳にその句は多分刻まれてたんだとは思う』の部分。
組長が、高浜虚子の句を知った由来を私は分かるのです。それは何故か。
『20週俳句入門』第1週の2句目にこの句が取り上げられていたからです!
試し読みの「25ページ」をご覧頂ければと思いますが、
遠山に日の当りたる枯野かな
桐一葉日当たりながら落ちにけり
(残り2句と作者欄は略)
注)1.は略
2 朗々と声をあげて読む。そして作者名も一緒に記憶する。
3 全部の俳句を確実に暗誦できぬうちは、次週へすすまぬこと。
とあるので真面目な組長は確実にこの句を音読して暗誦していたはずです。その事を覚えているかどうかは明らかではないですが、
『名句と知り合ったキッカケを忘れる』ほど、夏井組長の血となり肉となっていることが分かるエピソードだという風に感じます。
おわりに
YouTube「夏井いつき俳句チャンネル」の動画を元に、『夏井組長オススメの俳句本』を、私なりの感想を交えてご紹介して参りました。
① 俳句前夜本 『夏井いつきの 俳句ことはじめ』
② 俳句入門本 『夏井いつきの 世界一わかりやすい俳句の授業』
③ 俳句中級本 『20週俳句入門』/藤田湘子
④ 俳句上級本 ―
1・2冊目は夏井組長の既刊本、3・4冊目も執筆予定ということで、発売を楽しみにしておりますが、今回は「③中級本」として『20週俳句入門』を取り上げさせてもらいました。
書き振りの「合う/合わない」は別にして、本の内容を愚直に取り組めば、俳句上達は間違いなし!という、昭和から平成・令和へと語り継がれてきた「俳句上達の指南書」です。
俳句を作ることにチャレンジしてみたいという方は、上記の3冊の中から、今の自分に合ったレベルの本を見つけて、ぜひ作句にチャレンジをしてみて欲しいと思います。
ではまた、次の記事でお会いしましょう、俳号:Rxでした、ではまたっ!
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