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月またぎレビュー「8月→9月」

こうして振り返ると、アートの割合が高い一ヶ月だったように思います。越後妻有や別府などは逃しましたが、大阪にはなんとか行ってきました。
また、戦後70年ということもあり、8月というある意味特別な時期に見聞きしたことはひときわ濃厚でした。『美術手帖 2015年9月号 特集:絵描きと戦争』やNHKの戦後70年特集などは、映画「野火」を見ることと、その理解にもつながりました。

【アート】
「他人の時間」展 @国立国際美術館
東京都現代美術館で見た展覧会ですが、今回はアジア・オセアニアを含む巡回展の中でもかなり出品作が充実しています。東京展よりじっくり見れたのと、二回目ということでよくわかんなかった部分を反芻できたのもあって、とてもおもしろかった。9/23(水・祝)まで。
また、「他人の時間」「隣の部屋」「ここは誰の場所?」(どちらも開催中)など、時間と場所、自己と他者との関係性を問うような展覧会タイトルが続けて見られることも興味深い傾向だと思います。

ウォルフガング・ティルマンス「Your Body is Yours」 @国立国際美術館
今回セクシャリティにまつわる部分はかなり抑えられ、代わりにジャーナリスティック/ポリティカルな部分が印象に残りました。展覧会数日前に撮影した大阪の学生デモの写真も(カタログ未収録)。その他、タイポロジー、(写真における)アブストラクト、レディメイド、技法への介入、と現代美術として押さえるべきポイントを外さない、実に優等生的な展覧会。ただ、ブリーフ姿のティルマンスがドアの前でひたすら左右にステップを踏むビデオ作品が引っ掛かりを残しました。巡回なし、9/23(水・祝)まで。
カタログはテキストと図版の2冊組み。美しいデザイン。(輪ゴム留めは気になる。。。)

「蔡國強展:帰去来」 @横浜美術館
火薬を使った作品で知られる蔡國強。今回の展覧会は、その火薬によって描かれた絵画作品が中心の構成になっています。つまり爆発した後の痕跡を絵画に効果として導入している。爆発そのものを提示する動的な躍動に比べると、火薬の残らない「事後」のこれらの作品は、爆発の可能性を去勢され、なんとも日和見的なようにも見えます。しかし蔡國強自身が、性/生を爆発になぞらえる文脈からも、これらは(射精=爆発後の)賢者モードであるともいえ、「帰去来」のタイトルが示す通り、リ・スタートを切ろうとする蔡の姿勢を映しているようでもあります。10/18(日)まで。

「引込線 2015」 @旧所沢市立第2学校給食センター
埼玉県所沢市で開催される自主企画展。2年ごとの開催で今回5回目を迎えます。所沢はぼくの地元ということもあって、影ながら応援しているプロジェクトのひとつ。作品だけでなく批評も重視しており、毎回カタログの出版も精力的に続けています。作品の傾向としては、旧給食センターという場所でサイトスペシフィックな力を得つつ、冨井大裕や利部志穂といった物質と文脈が際立つものが選ばれています。
さらに今回、ランドアートの重要作家ロバート・スミッソンの《エナンチオモルフィック・チェンバーズ》(現存せず)を巡る関連イベントも見逃せません。セミナーは終わりましたが、会期中展示されているこの謎めいた作品の忠実な再制作は一見の価値あり。9/23(水・祝)まで。


【映画】
「野火」
 
塚本晋也監督

戦争映画は好みませんが、あまりの話題に見に行きました。戦争のリアリズムをどうこう言う教養はないですが、最初から最後まで息止まりっぱなしで、いやはやすごかった。通常ではやりすぎと思われるようなグロテスクな表現もむしろ抑えられた婉曲的なものに感じるほど、背景にある壮絶さが想起させられました。


【本】
『SWITCH Vol.33 No.9 ヒリヒリするアート』
ぼくが追うアートの動向と重なるところがかなり取り上げられてました。それだけに自分の立ち位置が可視化されたようで若干気恥ずかしさも。そしてより先端にコミットするためには、そこから価値観をさらにずらしていかないとなとも感じました。
たまたま古本屋で最近買ったサイゾーの写真特集(2015年5月号)で、2014年木村写真賞受賞の石川竜一さんが「受賞後も全然仕事来てないです」って言ってたけど、この後二階堂ふみの撮影の仕事きますから!っていうのも思いながら拝読。

『日本美術全集19 拡張する戦後美術』
全20巻からなる『日本美術全集』、第二次世界大戦後から1995年までを収録した19巻は椹木野衣氏が編集を手掛けます。既存に認められた美術だけでなく、まんがや怪獣デザイン、アウトサイダーアートなど、最近の椹木氏の問題意識に根ざしたテーマ選びは、まさに美術を「拡張」する試み。「全集」としてこれらに取り組めたことの意義は大きい気がします。高いので実はまだ買えてないけど、日に日に持っといたほうがいいんじゃないかという欲が膨らみます。

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