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編む加減は程よい加減

駅のホームにゆっくりと入る車両の窓に色んな
景色が映り込む。
窓越しの景色も車中の景色も、手の平サイズの近未来を旅する人で溢れている。恒例となった景色から離れて外を眺め夢中になり程よく目を回していた。
流れる外景色に飽きて車内に目を移すと、座席の1番端に小さく座る流行りの服を纏った透明感のある乙女が目に留まる。
黒コーデの膝上に乗せた毛糸が、コロンコロンと弾み、完璧なリズムでかぎ針が毛糸を拾って編まれて行く。見つめ過ぎない視界にいれながら編み上げた喜びを思い出していた。
    編み物か...暫くして居ないな...

かぎ針編みは5本の指がそれぞれの役目を果たしながら編まれていく。強く引けば硬すぎて毛糸の柔らかさが消えてしまう。早く編もうと欲張ると力が入り過ぎて糸が滑らない。
楽しい会話や、美しい音色を聴きながら心地よい気持ちを一緒に編んで行くと毛糸の風合いが1番輝く様に思う。

編み物を始める時は、いつも何気無いきっかけで始まる。他の人が編む姿を見てやる気に火が着く時や、違う理由で入った店に毛糸を見つけた時。
編み物の腕前は下手なのに、何を作ろうかと考え始めると楽しいもので...
時間があるから編むのでは無くて、編む事で時間が出来る和みは温もりに変わる。

冷たい風が頬に当たると編み物がしたくなる。
毛糸と一緒に編んだ想いと思い出に暖まり、冬に居眠りする命達を晴が来るまで待ちながら。

一本の毛糸が重なりながら程よい強さで結ばれて行く。どんな形になっていくのか毛糸も張り切ってくれそうだ。最後の結び目を結ぶ時に生まれ変わる様に。
指定規で測った長さの一本の毛糸であやとりをしながら編み物計画を考えるつもりが、いつの間にか隣りの人の肩を叩き、誘って遊ぶ時間も編む時間と言えるのかも知れない。

降り過ごす事も無く、手早く丁寧に毛糸を鞄に入れ、毅然と立ち上がり電車を降りる乙女の姿に見惚れた。
次の駅で自分も背筋を伸ばして立ち上がった。

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