君の幸せ
仕事の合間に呼吸する為に窓の外を眺める癖がある。
何十年と眺めていると窓の縁は四季と時代を映す動く絵画の縁の様に感じる。
毎日の人物語は切り取る一瞬の奇跡に思える。
あの日、いつもの様に窓の側で空を眺めていたら
白く細い物が動く気配がゆっくりと目に入った。
白いステッキを頼りに歩く男性だった。
鞄を斜めに掛けて空いた片方の手は何かを握り絞めていた。
目が見えない人なんだ_
思わず飛び出てしまったものの...何も出来ずにただ見守っていた。
真っ直ぐの道を蛇行せずに歩く姿に生きる強さを感じ、人目も気にせずに思わず一礼してしまった。
その日を境に幾度もお見かけする様になった。
自分なりに情報を集めて、いざとなったら何を助けたら良いかを準備した事で見守る気持ちを変えていた。
後ろから声をかけては怖い事。
大きな声は怖い事。
急に触れは怖い事。
それだけは3つは絶対に忘れない事にした。
その人は私の事など知らなくて良く、ただ、自分も居ますからね、と思う気持ちは反対に自分の力になっている事に気付いた日がある。
そんなある日、珍しく道路の反対側を歩いている姿が見えた。仕事で集中して見れないジレンマで
フツフツとしている矢先に...
腰丈の植木に倒れて転倒してしまった。
数秒置いてやっと飛び出したがそんな時に限って車の往来が激しい。自分は走れない身体...。
動かない姿に祈りながら自分のアクションに注目
を集める様にした。1人通過...2人通過...
渡れない_
転倒されている場所は随分と前に私も転倒をした場所。車やバイクではわからない形状で危ない。
市長とお友達の奥さんとの雑談にお話をした事もある。役所に勤めている人に話した事もある。
それ以上のアクションを取らなかった中途半端な自分に反省の気持ちが渦を巻く。
3人目..やっと立ち止まった人は優しそうな女性だった。その思いやりが繋がり4人の人が囲んだ。
視線のその先に見える笑顔の交換に安堵感で腰が抜けて行く様だった。
それからも、お仕事だろうか決まった時間に往来する姿を見かけた。私も遠くから見送る習慣を辞めない事にした。
何かを見つめている私を見る人が、その男性への見守りに繋がって欲しかった。
季節が何度か移ろぐうちにその男性の姿を見かけ無くなり気になりながらも日々の忙しさに紛れてしまっていた....。
そんなある日、秋の夕暮れに沢山の人が急ぎ足で交差する横断歩道を逆らう様に次の信号を待つ事にした。大きな補助席を付けた自転車からは1日の事を聞くお母さんと、車の音に負けない様に話す小さな子供の元気な声。部活帰りの学生がワイワイとふざける姿。
仕事帰りの疲れた肩に手を当てながら信号を見つめる人。
日暮の早さは神様がくれる粋なプレゼント。
肌寒さを理由に身を寄せ合い、手を繋く姿を優しくぼかしてしまう。
手を繋ぐ人や身を重ねて立つ人が増えると秋の始まりを感じる。
目の前に重なり過ぎでは無いかと戸惑ってしまう程の恋人が信号待ちをしていた。
信号が変わっても少し出遅れ渡り始める程に肩を重ねていた。
人混みで容易に抜かす事も出来ないと諦め後ろを歩いた。青が点滅の知らせをする頃に渡りきり安堵するも、胸がモヤモヤして何気なく恋人達を見てしまった。
重なった2人の体で見えなかった白い杖が目に飛び込んだ。
秋の夕暮れでもハッキリ見える白い杖と2人の笑顔に自分の優しさが足らない事を反省した。
眩しくて美しい2人の笑顔に癒されながら蘇る記憶...その人は、しばらく見かけなかったあの男性だと気が付いた。
お元気で良かった_
記憶の中のあの男性の表情とは少し違う、幸せいっぱいの綻び笑顔に母の様な気持ちが溢れた。
ショッピング施設に吸い込まれて行く人の波のりに自分も参加をして完結としたはすが...
ドラッグストアで絆創膏を買いに入った途端に遭遇した。胃薬を購入する為に話し合いをしている様子。
手に持っている胃薬の箱が指輪の箱に見えてしまう錯覚を起こす。その幸福オーラは世情の様々な難事が近寄る事を許さない力が伝わる。
君の幸せが私の心を豊かにした。
勝手に祝福して
勝手に感謝して
勝手に嬉しくて
2人の幸せを分けて貰えた秋の夕暮れの話_
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