見出し画像

一膳に木目と気持ちの目

目覚めと身体の目覚めに不調を感じる朝は、
空に少しの力を頂戴致したくなり外に出る日がある。
フラミンゴの羽根の様に柔らかな色がゆっくりと
明け、魅せる奇跡の下で一日が動き始める。
再生を見守る小さな植木鉢に水をあげ充電完了。
   今日はこんな感じかな_

お弁当袋から静かに落ちた割り箸は、朝支度の忘れ物。毎日当たり前の様に余分に入れている一膳の割り箸。
   使わないかな。辞めようかな_
子供の頃は、いつも遠足の時にお弁当包みには黄色の箸箱と割り箸が一膳差し入れてあった。

 「 お母さん、お弁当美味しかった。
 皆でおかずを交換して食べたよ。玉子焼きが
 美味しいって皆が言ってたよ。皆がおかずを
 くれるからお弁当が増えてお腹いっぱいになっ
 たよ。どれも美味しかったよ。」

 「  そう。良かったね。」
 「  あのね、割り箸は使わなかったよ。 」
  「  そう。良かった。」
  「  あのね、どうして私のお箸があるのに割り箸  
 が付いてるの?形が包み難いから要らない。」
大きな声で言ったのに、背中を向けたままの母を見て不味いな..怒られるのかな...
そんな事が頭を過ぎり、とびきりの速さで片付けて遊んでいた。

 「こっちにおいで。」
 「....うん....」
   「割り箸をゆっくりと見た事はある?」
  「無い。割るの硬くて出来ないし。」
  「あっ、ごめんね。割れないか...。割って入れて
 おくね。けど...大丈夫だからやってみてご覧。
 何時迄も割れない人になってしまうよ。」
流石に、スプーンとフォークがあるからもういいよっとは言えず頷いた記憶がある。

そんなある日_
春の遠足は、新しいクラスで少し緊張しながらお弁当時間になった。馴染みの顔と同じクラスになれず、引っ越して来てまだ間も無くてバスの中からお弁当の時間が気になっていた。
お弁当時間は大人が思っている以上に色んな物語が生まれる時間だと解っている_
指示が出た途端に結束の意味で手を握り合う子達、適当にぷらぷらしながら集まる子達と分かれて行く。
何とか座る場所を見つけたのは木の下だった。
ペラペラのシートに腰を下ろすと立派な根で小尻が痛くて、場所が空いていた事に納得しながらお弁当を広げ始めた。
 「此処に座って良いかな。」
何故か遠足では先生が横に座る事が多くて、
学校で見る姿とは違う雰囲気の先生と食べれる事が遠足の特別なご褒美になっていた。

 「あっ、あーあ。」
隣りに座る先生が遠くをキョロキョロと見渡して
落ち着かない様子に変わった。
 「先生、どうしたの?」
近くにいた子が先生の様子に声をかけた。
 「あっ、気にしないで。食べてね。
 先生、お箸を忘れたみたいだから他の先生に聞
 いて何処かで貰って来るね。」

  あっ....。
急いでリュックの中にあるもう一善のお箸を探す。手の平に感じ取る割り箸を引き上げて先生に渡そうとしたその時....
 「なーんだ、そうなんだ。僕のあげるよ。お母
 さんがいつも入れてくれてるから。はい。」

 「うわ〜、助かる。じゃあ、お借りするわね。
 明日、必ずお返しするわね。
 本当にありがとう。」
先生の溢れる感謝の一声で口をモゴモゴさせながら割り箸を渡す子や、靴を履き損じながら渡しに来る子が次々と立ち上がり、一瞬で先生の膝には数本の割り箸が集まり自分の割り箸の出番を辞めた。

 「ただいま。 お弁当美味しかった。
 お母さん、皆もう一本お箸を持っていたよ。
 先生がね、忘れてね....。」

 「そう。 先生が食べれて良かったね。
   皆のお母さんも心配して、お弁当入れにいれ   
 てくれたのね。」
うっかり忘れたお箸のお手柄で、皆が笑顔に溢れている事に不思議な気分になった事を覚えている。

大人になっても続けてしまう一膳の割り箸は出番の無い事が多いが、滅多に無い出番の時は、差し出した割り箸にそっと手をかざして断り、コンビニに行ってしまう人が居たりする。

木の年輪は一年に一本出来ると聞いた事がある。
木の呼吸を人間が頂き、人間の呼吸を木が吸収しながら大木へと成長し地球を潤して行く。
刻まれた年輪は家や家具や一膳の割り箸になっても消える事は無い。
木目は気持ちの目を養えと教えてくれる様に感じる。交わす一膳に年輪を事を忘れず居たいもの。

余分に持っていた割り箸を自分だけの為だとしか
思え無かった頃よりは成長した様だ_
    今日も一膳の割り箸を余分に入れた。




いいなと思ったら応援しよう!