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コトッチ日記 ( 運転免許証の更新に行くの巻 )
言葉を転がす癖があるコトッチさんが気まぐれ日記を書く事にした_
◯月◯日 〈冬と春が話し合う季節にて〉
事件だ。ていへんだ(大変の意味)。
産まれて初めて警察署に行った。
悪さをした訳では無く、金色に光るピカピカの運転免許証の書き換えの為である。
普通に生きたいのに何かすると、何かをやらかす珍事件がおきる...予感は引き寄せだから駄目なんだ。けど...やっぱり何故か当たる。
いやいや、場所が場所だから何があってはいけないのだ。とりあえずは、紛らわしくコソコソしない。ニコやかに。後は...。
そうだ、警察の皆様はお忙しいのだから忘れ物をしてはお手間をかけてしまうから準備に集中だ。
あれに、これに、それに...
おぅっと、1番大切な写真があった。
冬型のガタガタに寒い日_
顔に全実力を注ぎ、髪に熱風を浴びせ完了した作品で玄関の扉を開けたら暴風でリセットされた。
扉が妙に重くて開かないと思った....
目指すは証明写真BOXコーナー。
風に怯まずカニ歩きや時々回転してみる。何でも良い、証明写真を撮るまでは負ける訳にはいかないのである。
BOXコーナーに到着すると、またまた隣りが気になる。実況見分をしてみると宅配預かりBOXだった。記事で読んだ事がある物が目の前にあるとリアルさが面白い。
一頻り眺め終わり本題へ...
アコーディオン式のカーテンにノックも出来ず、
「すいませ〜ん」っと声を出してみる。
使用中のランプ何ぞ無いものか?
下から靴を覗く事に気が付いたのは何分後...
全ての操作も美肌加工の欲も順調に撮影ボタンに辿り着く。
何かがおかしいと、狭いBOXの中で格闘しているとカーテン越しに若いお嬢様方のお声が聞こえて来た。
待っている人がいる..早くしないと_
遠い記憶とのピントが重なった。
そうか!高さだ、椅子だ。
カンラカカン カンカラカン カンカッ...
焦りが響き渡りカーテン越しの声が鎮まる。
丸椅子も自分も限界まで背伸びをして撮影完了。
ここで緊張を解いてはいけないのだ。
出来た写真は外のポケットに出て来るのだから、外の若いお嬢様方に見られる訳には行かない。
急げ!
上着にマフラーに手袋に、リュックに閉まったはずの財布に...
コトンッ。仕上がりサインの音に一歩遅れるも、小さくガッツポーズの仕上がりに、今日の運気を捧げた。
免許証の更新手続き日_
最寄りの駅前で初めて停める駐輪場を利用してみる。優しい係員の方に目的地に近い出口を聞く。
「えっ。◯◯警察署ですか...。
大変ですね...。結構、遠いですよ。」
言葉の間と表情から伝わる誤解を何としよう。
因みに、目的地は駅から15分程の距離にある。
急がないのであれば続きを話しても良いけれど、
誤解を理解して愉快になったからオーライなのだ。
行ってらっしゃーいと手を振られ、会釈して歩きだす。鼻歌も何曲目だろうか、いつの間にか到着してしまった。
人間は面白いもので、警察署を前にすると緊張してしまう。
出入りする人の流れに紛れて入ると、少し種類の違う活気を感じながら案内図通りに歩き目的の窓口に到着する。
「 お知らせ葉書と古い免許証、お写真を
お持ちでしょうか。」
「はい。」
一言で返せる嬉しさに自信満々と提示し、案内通りに着席する。初めて見る警察署の中は目に見えるもの全てが珍しくて、大人しくキョロキョロする。
「◯◯さーん。」
「はい。」
持参物に不足点は無い時の返事は、声が軽やかになるものでございます。
「 ◯◯さん、このお写真は使え無いと
思います。こちらから手続きに廻しても、
返却される確率が極めて高いと思います。
ご丁寧に綺麗に切っておられますから、
採寸も足りませんね...。」
「 えっ...。 」
なんですと..あれだけ入魂した写真が駄目なんて。
「白い物が写ってますよね?これが
駄目なんです。機械が反応しますのでね。」
示された指先には確かに白い物が写っている。
これくらいは大丈夫だと思った昨日に戻りたくなる...。
だって、だって...。
「 それは、写真BOXのカーテンなんです。
風の強い日に撮りまして...。
顔の仕上がりばかりを見ていたので、
昨夜に気が付きました。」
「 そうですか...。どうされますか?
このまま受理できますが..取り直しされる
方が宜しいかと思います。
出直されますか、署内にも撮影出来ますが
どうされますか。
ねっ、綺麗に撮れてますよね... 」
人の話は最後の一言で救われる時があるもので。
伝え難い事を言わせてしまっている事に申し訳なさが込み上げ、何か反応しようと出た言葉...
「 本当に、これは事件ですよね。 」
ん?空気が引いている...
こともあろうに警察署でNGワードを使ってしまった事に手に嫌な汗を感じ、さっさと仰せのままに取り直しに向かい無事に手続きは完了した。
生まれて初めて行った警察署でも何かをやらかす自分に呆れながら、学んだ事を振り返ってみた。
証明写真には余分な物が写ってはいけない事。
証明写真は暴風の時に撮らない事。
警察署でボケない事。
絶対に要らないと言われるとわかっている問いを子供に投げてみた。
「お母さんの写真要らない?
小さいけどね、10枚あるのよね〜。」
「 えっ、要らない。」
運転免許証の更新手続きの際に、チラッと思い出して頂けたら待ち時間の暇潰しになるかと思いまして書きました。
どうそ、お手続きの際にはお気をつけて。
なかなかの珍事件、お楽しみにしてみて下さい。
大笑いは無理でも、小笑いはあるかと...