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諦めず、対話を続ける。社員の力を最大限引き出す組織づくり|『ONE JAPAN CONFERENCE』レポート (後編)

エール株式会社取締役 篠田真貴子さん、埼玉大学 准教授 宇田川元一さん、三菱重工株式会社 シニアフェロー平野祐二さん、日本電気株式会社 カルチャー変革本部長 森田健さんとのセッション。前半では、三菱重工とNEC、それぞれの大企業が抱えていた組織課題取り組みについてお聴きしました。

後半では、これらの取り組みによって生まれた変化、大企業を自ら動かしていく挑戦者としての苦悩や葛藤についてレポートします。【編集部 奥澤】

▼前半はこちら
三菱重工、NEC…企業変革に向き合う挑戦者の苦悩と葛藤に迫る|『ONE JAPAN CONFERENCE』レポート (前編)

サーベイ参加率「26%」から「81%」へ。社員が動き出した


――三菱重工とNECが抱えていた組織課題は「社員の自発性を引き出す難しさ」。そして、その解決のヒントは「トップと社員の対話」にあるのではないか。前半の最後では、そんなお話が篠田さんからありました。

では、実際に「トップと社員の対話」を繰り返していく中で、企業現場ではどのような変化が起きたのでしょう。

NEC 森田さん:社長と社員のこれまでにないコミュニケーションが生まれ、ここ3~4年でNECという会社は大きく変化したと感じています。「変化を拒む集団」から、「変わり続けることが文化」という価値観になってきています。

数値的なところでいうと、サーベイの参加率を見ると明らかです。当初の参加率が26%なのに対して、2021年6月の参加率は81%。驚異的な変化が出ています。これまで2018年から合計10回ほどのサーベイを実施していたのですが、初回はほぼ無視ですね(笑)。社員としては、まだまだ信用できない…というのが本音だったのだと思います。

けれど、社長との対話やサーベイ結果から得られた社員の声に耳を傾け、経営に取り入れていく。このアクションを繰り返していくと、1年を過ぎた頃に回答率がグッと上がったんです。おそらく、少しずつ「信用してもいいのかも…」という感情に変わったのではないかと思っています。4月に新社長になってからも、オンラインで毎月タウンホールミーティングを開催して、社長の生の声を社員に伝えたり、社員と対話したりと、その密度はより濃くなってきています。

三菱重工 平野さん:私も風土改革の取り組みを始めてから、改善されてきたという感覚は持っています。たとえば、事業部には「みなさんの声」というBOXがあって、社員が自由に意見できるようにしているのですが、そこに書かれる意見が変わった。批判的な言葉よりも、状況をどう変えていくのか…といった視点が明らかに増えてきています。

さらにここ1年はリモートワーク中心になり、現場の声が入りづらくなったので新たな取り組みをスタートさせました。これまで私からのメッセージ配信はメールが中心だったのですが、動画配信サイトを作って自身の思いや感情がダイレクトに伝わるよう工夫をしました。

視聴者数を見てみると、開始当初は少しだった社員がだんだんと増えていき、いまでは6割以上のメンバーが見てくれている状況になっています。「会社の発信を、積極的にウォッチしている」フェーズに来ているのではないかと思っています。

「変革」と気負わず、「嫌なところを変える」から始める

エール株式会社 篠田真貴子さん

――経営と現場、お互いに信用できていない「硬直状態」から「氷解」へと移行していく期間をNEC森田さんは「アンフリーズ」と定義。変革には、健全な危機感を共有し、変化のための基盤の整備をする「アンフリーズ」の期間が実はとても重要なのだと話していました。

エール 篠田さん:確かにトップと現場の関係性が築けていない「硬直状態」のタイミングで、「さぁやるぞ!」と社長が大きな声を上げたとしてもうまくはいかない…。経営と現場が近寄って、社員一人ひとりが“自発性”を持てるような環境をどう作っていくのかを工夫することが重要だと感じますね。

埼玉大学 宇田川先生:会社の事業方針はこれで、こういう戦略でいくから…と出されてしまうと、やっぱり元気は出ないんですよ。一番大きな要因は、その風景に自分がいないからだと思います。そこに“自分の声”が入っていたら、全く違うものになってくるわけです。自分の声がどう扱われているのかは、会社を信用する/しないの話にもつながってくる話ではないでしょうか。

一方、社員という立場から考えたときに、「会社を変える」に気負いすぎなくても良いのではないか、とも思っています。業績が悪い、風通しが悪い…といった状況が見えると、変えないと!と思ってしまうかもしれないけれど、もっと身近な感情から考えても良いのだと思います。このルール効率悪いな、この関係性やりにくいな…など、そういったものでいいのです。難しく考えないほうが、投げられるボールも変わってくるし、見える風景も少しずつ変わってくるように思います。

そして、トップもそういった皆さんからのボールを待っています。よく社長の意識が変わらないんです、という声をいただくことがありますが、それは現場との距離がありすぎて社長が見えていないだけだと思っています。会社の価値を上げることをミッションとしているトップが、組織に対して何も感じていないわけがないのです。間違いなく、社員からの「こうしたら会社は良くなると思う」を待っている。だから、恐れず、諦めず対話し続けて欲しいと思います。

NEC 森田さん:私は39歳のときに“会社を変える”選択をして、経営企画に飛び込みました。それまでは社長と会ったこともほとんどありませんでしたけど、近寄ってみたら、社長も一人の人間で、社員と同じように悩んでいて、迷っていることが分かった。会社の未来を真剣に考えた意見であれば、それはとても尊いものだから、素直に伝えていったらいいのだと思います。

諦めて一歩も踏み出さなければ、一歩も進まない

エール 篠田さん:三菱重工、NECのお話をお聴きして印象に残っているのは、それぞれリーダーが社員の声を聴くために、まず自分のことを自分の言葉で話をされている点です。会社や現場といった抽象的なものを主語にするのではなく、トップが「私は…」と語ることで、現場の社員も「自分は…」と語ることができた。聴きあう姿勢が変わることで、互いの現状を認め合えたようにも感じました。

埼玉大学 宇田川先生:私は自身の著書『他者と働く―『わかりあえなさ』から始める組織論』という本で、組織の中で「対話」をすることは、誇りを持って生きることだと書きました。そのことを今日この場でも、お伝えしたいと思います。

会社は変わらない、このままでいいのか、焦る…という気持ちは本当によく分かります。私自身も企業アドバイザーとして企業変革の実践を支援させていただく中で、経営者の苦悩、現場の葛藤を目の当たりにしてきました。トップも、ミドルも、現場も変わりたいと願っているのに、うまくつながらず、歯がゆい思いをすることが何度もあります。しかし、だからといって“どうせ変わらない”と心を閉ざし、諦めて一歩も踏み出さなければ、一歩も変わらないのです。

三菱重工やNECのお話は「企業を変革してきた」という話ではありましたが、当然ながらそこに行きつくまでにはたくさんの苦しみがあったのだと思います。悩み、もがいて、さまざまなチャレンジをして、失敗して…そこから歯車がかみ合うタイミングがあり、少しずつ変化していった。そして、そこにあったのは「対話を続けたこと」だと思うのです。だから、みなさんも諦めないでほしい。自分の仕事に誇りを持って、対話を続けてほしいと強く願っています。


――会社を変革する、社長に意見する、組織を変えていく…こんな言葉にしてしまうと、その大きさに心が折れてしまいそうになります。けれども、今回のセミナーの中で「社長だって悩んでる」「一人の人間」「現場のことが分からないだけ」…そんな話を聞くことができ、現場から伝えられることが、手の中に見えてきた。そんな感覚を覚えました。

諦めず、現場の声を伝えていくこと、対話をつづけること。大企業を自ら動かしてきた挑戦者の話から、たくさんの勇気をもらいました。みなさんにも、「社員の力を最大限に引き出す組織作りのヒント」を見つけていただけたらと思います。


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