JT(日本たばこ産業)が挑む、人材育成のリアル|聴き合う組織をつくる『YeLL』のnote
ひとりひとりが主体的に考え、行動する企業カルチャーはどのようにして作られるのかー。
12月10日(木)に開催されたセミナー「自律的組織における人材育成の在り方」では、【企業に貢献する自律人材をつくるための、リアルな実践事例】について、JT(日本たばこ産業)で次世代リーダー育成を担う事業企画室 古川さんをゲストにお迎えして実践事例をお伺いしました。
採用、新入社員向け研修以外の人事領域の全般を担っている古川さんが行った現場のリアルな取り組み、失敗や悩み、その背景にある想いなど、教科書には出てこない生々しい実践内容をYeLLの奥澤がお伝えしていきます。
大きな声では言えないですが、大企業病を患っていました…
古川さんの第一声は…「大企業病を患っています」でした。歴史ある大企業がそんなことを言ってしまって大丈夫なの?と思いながらも、現場のリアルな状況を包み隠さずお話してくれるのだと、期待が高まります。
「Vison・行動指針の浸透が上手くいっていない、組織のサイロ化・組織・人材の自立自律性欠如…いわゆる大企業病と呼ばれる症状ですよね。社長から社内イントラを用いたメッセージ配信、ワークショップで会社の未来やキャリアマネジメントについて考える、1on1を取り入れるなどの取り組みを行なってはいたものの、社員の話を聞いてみると、あまり効果的には動いていませんでした」(古川さん)
具体的には、“ヤラサレ”になっている、研修は研修で完結していて業務と紐づいていないなどの声が多くあったそうです。会社としての取り組み・メッセージは社員に届いておらず、カルチャーが変わる状況とは、ほど遠い現実がありました。
個人のwillを明確にし、点ではなく線で描く
そんな現状に違和感を覚えた古川さんが行きついたのが、“点ではなく、線で描き、集団形成をして挑戦の連鎖を生む”という考え方。ポイントは3つあります。
①単発的・部分的な取り組みではなく連続していること
➁一人ひとりの自律性や内発的動機付けに徹底的に立脚していること
③部門を超えた横のつながりで取り組めること
古川さんは言葉を続けます。
「そして、これらのポイントを線で描くことに重点を置きました。個人のwillを明らかにする→思いを自主的な行動に移せるチャレンジャーになる→コミュニティで仲間と常に対話をし、研鑽する→チャレンジャーが産まれ続ける風土の定着。このような道筋が描けるのではないか、と仮説を立てたんです。」(古川さん)
では仮説を立てた後は、具体的にはどのようなことを行なったのでしょうか?
「本当にいろいろ、何でもやりました。やりすぎじゃない?と言われたこともあるぐらい(笑)。ステップにあわせたプログラムを実施し、たとえば最初のステップとしては自分のwillを明らかにする研修を実施しています。丸1日かけて、willの言語化ワーク・will実現に向けて行動を続けるためのインプットを行ないます」(古川さん)
と古川さん。その中でも、私が印象に残っているのは、
「プログラムの大枠は決めていましたが、それだけで終わりにはしませんでした。実際に動いているコミュニティのメンバーと細かくコミュニケーションを取りながら、足りていないことは何か、欲しい武器はなにか?についてヒアリングを重ねました。具体的には、聴く技術、傾聴力、巻き込み力、UXやダークサイドスキルなど、メンバーの武器となるようなをサポートを補講として入れていきました」(古川さん)
というお話。
プログラムを決めて、その運用をするだけでなく、自ら主体的に動きだそうとする社員にしっかり向き合い応援しようという姿勢が感じられたからです。一人ひとりの社員に対して、丁寧に向き合っていることも組織を変えていく大きな要因なのかもしれないと感じました。
willの炎が消えないよう、継続的にフォローしていく
「とはいっても…いつでもこの意識を高め続けるのは難しいんですよね。一つひとつのOff-JTは日々の業務がある中では分断されていってしまってすぐに単発的な動きになってしまう。そうならないよう、オンラインツールを上手く活用し、継続的にフォローするようにしました」(古川さん)
古川さんは語ります。
用意したオンラインツールは以下の3つです。
①内省し、挑戦に向かう(YeLL)
自分のwillに対する理解を深めることを目的に、YeLLさんを活用し、社外の人と1on1を行なう。なぜJTにいるのか、やりたいこと、挑戦して得た学びを自ら紐解き解明し、挑戦への内発的動機付けを行なう。
➁学び、対話する(NewsPicks)
willが明確になり「じゃあ、やろう」となった際に、実行における知見や現在時点の最先端情報がわかっていないと、挑戦が徒労に終わったり、効率が悪かったりすることも多いため、学びの自己アーカイブ化と対話を目的に、NewsPicks Enterprise を活用し、社内外のニュース記事の配信購読、記事へのコメントなど、JT専用タブで自分が実現したいwillと関連するコンテンツを学び、共有・対話を行なう。
③繋がりを広げ、対話する(Buddy up!)
同じ志を持つ仲間を見つけ、ネットワークを広げ、つながることを目的にコミュニティを形成し、アイデアやアウトプットを生み出す。富士通研究所の”Buddy up!”というシステムを使わせていただいて、実際にテキストマイニングをしながら仲間づくりのレコメンドをいただき、実際にコミュニティナイズとして動かしていく。
取り組みを継続する中で、上司の方からメンバーの行動が変わってきていると声をもらうことが増えてきており、これらの取り組みに対して積極的に向き合ってくれる社員が増えてきている成果も出始めているとのこと。
「現状は、コミュニティが活性化している状態。企業と個人が良い関係性を築き始められているし、カルチャーが出来上がってきていると感じています。ですが、業務における成果、売上につながっていなければ意味がないとも思っています。そこに関しては、まだまだこれから。変化し、スピードをあげていきたいと考えていますね」(古川さん)
と語ります。
古川さんのお話を聞いて私が感じたことは、まず何よりも個人のwillを大事にすることが起点になっていること。そして、そのwillの炎が消えないよう、もっと大きな炎になるよう組織としてサポート・フォローしていく。そんな考えがベースにあるように感じました。
上司のマインドが変わらないと組織は変わらない?
自律人材育成のために行きついたガラスの天井を破る方法
willが大事であることは変わらない、だけど、組織を変えていくのは簡単なことではありません。参加者からは「努力をしても『そんなのうちの部署に合わないから自分の仕事をしろ』と言われる。上司のマインドが変わらないと風土が変わらないのではないか」という質問をありました。そうすると古川さんからは
「人事や研修を企画している側から上司を巻き込んでいるかでいうと、全く巻き込んでいません。だから、みんなガラスの天井にぶち当たって、惨殺されて帰ってくるんですよ。」(古川さん)
と驚きの回答が…!
「人事や研修企画側が上司にメッセージを出し続けることはずっと続けられることじゃないと思うんですよ。再現性がないというか、援護射撃が常日頃あるわけじゃない。社員が自分の力で上司の心を掴んで自律的に行動しなければ続かない。」(古川さん)
「じゃあ、どうするのか?となった際に、束になってかかろうと。それが線になってコミュニティナイズドしていきました。どれくらい惨殺されても不死鳥のようによみがえって、ミーティングで愚痴りながらアイディアとかもらいながらそれを突破するかみたいなことやるしかない。ただただやるしかない、続けるしかないとしか思ってなくて、それを続けてるだけっていう状態です。」(古川さん)
と、なんとも力強い言葉。
ガラスの天井にぶつかることを前提に設計されているという秀逸さ。
一回火付けるけど、どうせ皆ぶつかって帰ってくる、大事なのはその後どうするかということをはじめから仕組みとして考え、そしてそんなことがあっても必ずやり切る、続けるという古川さんの想いが組織を動かしているのだと思いました。
「2割をみつけ、変える」ことがファーストステップ
古川さんの実践事例の話を受けて、多くの企業の自律支援に携わるYeLL代表の櫻井さんは会社を変えるにはステップがあると言います。
「『2割を変える』っていうのが最初のファーストステップかなって思っています。全体から手を付けようとせず、最初に変わる2割をどうやって見つけるのか。そして、その人たちが本当に変わる姿を上の方々に見せていくことが、次のステップに繋がっていく。そこが肝なんじゃないかなと個人的には思ってます。」(櫻井さん)
「部署の中で想いがある2割をつかまえるのと同じように、会社の中に、そういう事をやりたい上司って2割ぐらいいると思うんですよ。その人達はやっぱりつかまえる必要があると思うんです。メンバーの2割、リーダー層2割、その上の部長層の中の2割、役員の中の「本当に変えたい」っていう人達を、どうやってつかまえるかっていう、各役職の中の2割が変わる実績をどう出すかがポイントだと思いました。」(櫻井さん)
みんな気づいてる、自分らしくいたほうがパフォーマンスが上がるって
「自律的組織における人材育成」や「キャリア自律と企業成長の両立」について話をする中で、私が特に印象に残ったのは、「本当は自分らしくいたほうがパフォーマンスが上がるということに、みんな気づいている。でもどこか諦めている」という櫻井さんの言葉です。
確かに仕事の場面において、個人の感情を持ち込むことは良しとされていないのが現状です。自分がやりたいこと、自分が挑戦したいことを上司に伝えたところで、それよりもまず目の前の仕事やろう、目標を達成しましょう、が多くの反応でしょう。個人の感情を仕事場に持ち込まない、なんて言われた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ですが、自分らしくいたほうがパフォーマンスが上がるのなら―。自律的組織づくりを目指す上で、一番大切なのは“個人の感情”を大切に扱うことなのかもしれません。社外の人間との1on1を通じて、見栄やプライドや利害関係ナシに自分の価値観・感情を掘り下げる。それが思考を作り、行動を作っていく。つまり、行動を変えていくには自己理解が必要なのではないか、という考え方です。
個人の感情を大切に扱うことで、企業と個人の信頼関係は築かれる
櫻井さんは、実際にJT(日本たばこ産業)でのプロジェクトを支援する中で、課題の質に大きな変化を感じたといいます。
「最初の頃、セッションで出てくる課題はネガティブなものが多かったんです。モヤモヤとか愚痴に近いような。誰かに話をすることで楽になりました、と言ってセッションが終わるわけです。ですが、3ヶ月〜半年を経過したぐらいから、少しずつマネジメントに関する話や事業推進の話、会社をよくするための動きについての話題が増えていったんです。これには驚きました。
自分に向き合い、自己理解を深めていく。すると、その先で、組織のことを自分ごととして考え始める。自己理解を深めることが、組織課題を自分ごと化することにつながっていると、明確に感じたんです。すごく遠回りに見えるけど、実はこれが“自律的組織作り”の近道なのではないか、と思える経験でしたね」(櫻井さん)
個人の価値観や感情に向き合い、自分らしくいられることが個人のパフォーマンスがあがる。だとしたら、企業も個人の感情・価値観を大切にすることが良いのではないか。それがあれば、個人も自分の感情を否定せず受け入れてくれた会社に対して、おのずと自分との重なりを自ら見出し、感謝と信頼の気持ちを持つことができるのでしょう。
結果として、企業と個人が互いに信頼できる「パートナー」になれる。これはまさにイベントレポート①でお伝えした、篠田さんがお話する『ALLIANCE』の関係のように思えます。
「個人が自律的であり、企業と個人がフラットであり、互いに長期的に信頼しあえる“パートナー関係”を目指せるのではないか」とお話されていた篠田さん。そんな関係を築くヒントが、ここにあるのかもしれないと感じました。
ここまで、2回にわたってお送りした『自律的組織における人材育成の在り方』は以上です。いかがでしたか?内容盛りだくさんのレポートになってしまいましたが、何か参考になることが見つかれば嬉しいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?