リーダー自身が変わる「1on1体験」を|安全自動車株式会社が手放した昭和型マネジメント
10月21日に開催されたオンラインセミナー「1on1推進のリアル〜『背中を見て学べ』から『部下の話を聴く・引き出す』マネジメントへの変革」。今回はセミナーレポート第2弾として、1on1を組織に取り入れ、コミュニケーション変革の実践を重ねてきた企業のお話をご紹介します。
まずは大正7年に創立した老舗メーカー「安全自動車株式会社」。創立から続く同族経営となっており、安定した経営基盤を保っています。その一方で、組織コミュニケーションに課題を感じていたそうです。
【篠田真貴子さん監訳『LISTEN』発売記念セミナー】
日時:10月21日(木)13:00~14:30
1on1推進のリアル〜『背中を見て学べ』から『部下の話を聴く・引き出す』マネジメントへの変革
第1部 今、求められる組織の1on1とは
エール株式会社 代表取締役 櫻井将さん
▼今回のセミナーレポートはこちら
第2部 1on1推進企業に聴く、1on1推進のリアル
安全自動車株式会社 取締役副社長 中谷 象平さん
株式会社フライヤー 代表取締役 CEO 大賀 康史さん
エール株式会社 取締役 篠田真貴子さん(モデレーター)
聴けないリーダーとメンバーのすれ違い
篠田さん:今日お話いただく2社は、同じ「1on1」の手法を取り入れながら、会社の状況は全く異なっています。まずは安全自動車の中谷さんに伺います。以前から400名の社員と面談をしたり、「学習する組織」を作ろうと研修を導入されたりと、さまざまな工夫をされていましたよね?
中谷さん:そうです。まずは「キャリアヒアリング」として、現場で仕事をする上で何を感じ、どんなキャリアを目指したいと思っているのかを社員1人ひとりに聴きました。その体験が非常によかったんです。できれば職場で、もっと日常的にやった方がいい…そう思って、6年前から1on1を導入しました。
さらに1on1と同時期に「より良く会議」も実践してみました。「より良く会議」とは、係長以上の役職者が集まって「どうすれば最高の組織になるか」を考え、自分たちが何をすべきかを話し合うプログラムです。組織にどう貢献していきたいかを、言語化していくんです。
篠田さん:社員個人が、自分の想いを自由に発言できる土壌がすでにあったのですか?
中谷さん:ええ。最初はすごく手応えもありました。ただ少しずつ、リーダーとメンバーたちが、すれ違っていると気がつき始めました。
例えば、「こんな目標を達成するなんてムリ。本当に大丈夫なの?」とネガティブな言葉が飛び交うチームは、お互いの言い分をぶつけ合うばかりで、言葉をキャッチできていない。自分の価値観と違っていれば、「あいつは分かっていない」とジャッジし、評価してしまいます。現場でそうしたリアルなやり取りを目にして、聴けていない様子が気になりました。
篠田さん:そこでもう一度「1on1の必要性」を感じ、エールに声をかけていただいたんですね。
「1on1?やる意味、あるんですか?」という現場社員の声
中谷さん:今思えば、話すことばかりを気にしていましたね。聴く耳を持たない文化が、根強かったんですよ。部下が話し始めると、「ムリでしょう」と口を出してしまう。報告・連絡・相談をした瞬間に、上司から指示・命令・アドバイスが来てしまう。次第にメンバーは、自分の頭で考えなくなりました。
篠田さん:そんな厳しい社内カルチャーの中で、1on1が再びスタートしました。何か工夫はされたのですか?
中谷さん:2015年に社内に導入した1on1でしたが、特にアフターフォローもしていなかったので、続けていたのは全社員の2割ほどだったんです。もう一度やってみるならば、まず自分自身が1on1をやり直そうと思って、オンライン1on1サービスYeLLを始めてみることにしました。
そうしたら毎週話を聴いてもらっているうちに、どんどん新しいアイデアが出てきた(笑)!「聴いてもらうって素晴らしいな」と体感できたんです。
だから改めて社内でやり直したいと思ったのですが、8割の社員は「やりたくない」と。そもそもメンバーの話を聴くこと自体に、価値を感じていない管理職が多かったんですよ。
若手時代は現場のエースだった社員が昇格しているので、「自分なりの正解」から離れられない。「いいからやれ。背中を見て学べ」という、いわゆる昭和型マネジメントです。そうなると、部下は萎縮してしまいます。「ランチに何食べたい?」と上司から聞かれても、「あ…何を召し上がります?」と返してしまうほど、自主性が感じられなかった。このメンタルモデルを変えていくためにも、まずリーダーに良い1on1を経験してもらおうと思いました。
篠田さん:そうだったんですね。
中谷さん:1on1は、メンバーのための時間なんですよね。ただ「部下の話を聴くことに、どんな意味があるのか」から伝えないと、うまくいかないだろうと予測していました。現場社員からは「またかよ」と、嫌がっている反応も出ていましたから。
ただ、僕自身は諦めていないし、やってみたら1on1の良さを分かってもらえる自信もあった。そこで、自ら1on1をやっているところを動画撮影し、社内YouTuberになりました。毎朝、映像を流して「1on1ってこうやってみるといいのか」「こんな1on1はダメだな」と、具体例が分かるものをシェアしたんです。
長い時間軸で、組織をゆっくりと変容させていく
篠田さん:最終的に何名くらいの方が、1on1に取り組まれているのですか?
中谷さん:100名です。もちろんその中には、「時間をとって話を聴くなんて、意味がない」というリーダーもいます。会社としては、そのスタンスを無視してリーダーの主体性を奪うことはしたくありません。
だから少しずつ社内に浸透させながら、3年かけてじっくりと変えていけば良いと思っています。YeLLでしっかり聴かれる体験をしてもらった管理職には、自分の部下とも1on1をしてもらいます。その後に振り返りをするリフレクションミーティングも行なっており、出席率は7割ほどです。「部下との1on1では、どんな言葉をかければ良いのか。知識と経験が邪魔をして、つい口出ししたくなってしまう」など、リアルな上司たちの声が聴けますよ。
会社としては、変われないリーダーのために、変わってくれるのを待つしかない。こちらが「絶対やれ」と指示してしまえば、昭和型マネジメントと同じになってしまいます。リーダーが自ら立ち上がるまで、待ち続けますよ。
篠田さん:安全自動車は製造業であり、歴史も古い老舗企業ですよね。長い間、根づいてきたマネジメントスタイルを見直すこと自体、とても大きな変化だったのだと感じます。
1on1推進が難しそうに思える企業の経験談を伺うと、私としても非常に嬉しく思います。ありがとうございました。
聴き合うことで、組織のコミュニケーション課題は大きく変わる
ミドルマネージャーとして活躍している世代は、先輩から厳しい教育を受けるのが当たり前でした。今もなお、「背中を見て学べ」というコミュニケーションスタイルのまま、変われずにいる日本企業が多いのではないでしょうか。
そうした昭和型マネジメントを踏襲してきた安全自動車も、1on1を通じて社員の自主性を伸ばし、聴き合える組織へ変わろうとしています。正解とされていた従来の組織体制を手放した代わりに、「聴き合うことの大切さ」を全員が認識し、1人ひとりが内側から変わるまで待つ―――そんな、未来志向のマネジメントを手に入れようとしているのかもしれません。
次回は、株式会社フライヤーでの1on1推進事例について、ご紹介します。
会社概要:安全自動車株式会社
大正7年(1918年)に創立。社員数は385名。主に自動車整備用機械工具や車検機器システム、足廻り整備機器などの製造及び販売を手がける。自動車産業を安全面から守り、クルマの品質向上に1世紀以上貢献し続けている。
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篠田さんが変革を実現する組織カルチャーづくりを推進してきた企業2社の管理職の方に、現場のコミュニケーション改革と1on1活用の実態について、お話を伺います。ぜひ、お越しください。録画視聴のお申し込みもお待ちしています(詳細はこちら)。