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聴くことと心理的安全性|聴き合う組織をつくる『YeLL』のnote

ちょっと想像してみてください。

とある会議中、上司がメンバーの発言に対して意見を述べています。
上司の指摘を聞いていたあなたは、ふと思いました。
「ん?・・・それって、ちょっと方向性が違うんじゃ…?」
例えばそんな時、あなた ならどうしますか。

自分の考えをはっきりと伝え、自分らしく振る舞うことは、簡単なようで意外と難しいもの。しかし今までの常識が通用しない「ニューノーマル時代」を迎えた今、困難を乗り越えていくためには、「自分らしく振る舞える=心理的安全性が高い」組織かどうかが重要なカギを握っているというのです。

今回、YeLLサポーターのミムが参加したのは、株式会社ZENTechが開催したイベント「ZENTech Night『聴くことと心理的安全性』」。株式会社ZENTech 取締役 石井遼介さんによるサイエンスの視点と、エール株式会社の篠田真貴子さんによる働く現場からの視点を織り交ぜた90分となりました。聴くことと心理的安全性は、どうつながっているのでしょう?では早速、振り返ってみます。

「心理的安全性」って、なんだっけ?

株式会社ZENTechは「世界を全機現する」というミッションを掲げています。「全機現」とは人が本来持っている「全ての機能を現す」という意味。組織・チームに所属するおひとりおひとりの成長を後押しし、学習できるチームや組織を構築するトレーニングを提供しています。

「私自身、過去イケてないチームを作ってしまって、マネジメントに苦しんだ経験もあります。アカデミアの理論を実践に活かしながら、なんとか良い組織、良いチームづくりを模索してきました」とカミングアウトされた石井さんは、心理的安全性の研究者でもあります。まずは「心理的安全性のキホンノキ」について、お話が始まりました。

地位や経験に関わらず、誰もが率直な意見や素朴な疑問を言える。それが、心理的安全性の高いチームの状態です。こうしたチームは業績も良く、組織が抱える課題にも果敢に挑んでいくことができます。「チームの心理的安全性」研究の第一人者であるAmy C. Edmondsonさんもチームの中で「リスクをとっても大丈夫と思えること」と定義していますが、そのように思えれば、心理的安全性も高くなるのです。

もう少し、シンプルに考えてみましょう。心理的安全性が低いチームの事例です。

上司:「これからの時代はイノベーションが大切だからな、意識して動いてくれよ」
部下:「そうですね!新しい事業アイデアを思いついたのですが、どうですか?」
上司:「え?それうまくいくの?」
部下:(ダメ出しばかり・・・うまくいくか分かっていたら新しいアイデアじゃないよ…)

なるほど、「心理的非安全性」という言葉がピッタリ。「罰と不安」によってマネジメントされているチームです。罰は行動を増やすのではなく、「行動を減らす」機能を持ち ます。そのため、こうしたチームは中長期的に見ると行動量が減り、必要な情報も得られにくくなります。では一体どうすれば良いのでしょうか?

ここで石井さんらZENTechが、組織診断サーベイという形で、これまで10,000名以上を計測し見出した4つの因子「話助挑新」が登場します。

◎話しやすさ―――何を言っても大丈夫
◎助け合い―――困ったときはお互い様
◎挑戦―――「失敗するかも」も含めて、とりあえずやってみよう
◎新奇歓迎―――異能、どんと来い

この4つを意識したコミュニケーションを取ると、「それっておかしくないですか」「ちょっとわからないので教えてください」とお互いに言い合えるようになります。誰もが率直な意見や疑問を伝えられる安全な環境のもとなら、「やってみよう!」と思えるイノベーションが生まれるわけです。

チームの心理的安全性は、リーダーが作る

では心理的安全性の高いチームは、どうやって作っていけば良いのでしょうか。正解は・・・ありません。と言うのも、今までチーム内にどのような歴史があって、現在の心理的な状態がどうなっているかは、ひとつひとつチームによって異なるからです。しかし正解に近づくためのヒントは、あります。

それが「心理的柔軟性のあるリーダーシップを発揮すること」です。
【1】変えられないものを受け入れる
【2】正論は言わない。役に立つことをする
【3】気づきに満ちた状態「マインドフル」に相手と向き合う

特に注目したい点は、【2】正論は言わない。役に立つことをする【3】気づきに満ちた状態「マインドフル」に相手と向き合う の2点です。

こんなやり取り、身に覚えはありませんか?

後輩:同じチームのAさん、飼っていたネコちゃんを亡くしたらしいです。すごくショックを受けてて、仕事に集中できないそうです。
先輩:困ったね。自分からガツンと言っておくよ。「同じ給与をもらってるんだから、プライベートを仕事に持ち込むな」って。
後輩:(そういう意味で伝えたんじゃないんだけどな)

パフォーマンスが落ちている人に対して、正論をぶつけても意味はありません。その人が前に進めるようになるために、何が役に立つかを見極めてあげるのがリーダーの務め。そしてそれに気がつくには、「マインドフル」な状態であるかどうかがポイントになるのです。

例えば人の頭の中は、常に「思考と言葉」でパンパンになっています。誰かが目の前で話している時でさえ、「うんうん」と相づちを打ちながら(こいつ、いつも意識だけ高いんだよな)と思考を巡らせていたりします。頭の中に流れる”音量ゼロ”の言葉が、マインド(思考)です。そして思考は、今ここにない現実を簡単に創り出す力を持っています。

「紙の上に並んだインクのシミ」でしかない小説に感動したり、「緑色の模様」でしかないスタバのロゴを見てコーヒーを思い浮かべたりできるのは、まさに”頭の中の言葉、つまりマインド”がもたらしている能力。人間はシンボルと現実を関係づけ、リアルに感じとる力を持っています。そのため視覚、聴覚などの五感で得た情報よりも、思考がもたらすささやきにリアリティを感じてしまうのです。実は賢い(言語的に有能な)人ほど、このマインドの罠に陥ってしまいがち。「何が起きているかを冷静に見て、相手の発言を素直に聴きながら判断するリーダーこそが、心理的安全性を保ち続けられるのではないでしょうか」と石井さんは言葉を結びました。

心理的安全性に欠かせない、「聴く」という行動

ここで、本日のゲストが登場。エール株式会社 篠田真貴子さんです。

エールに篠田さんがジョインしたのは、昨年3月。金融機関、外資系企業、スタートアップ企業と様々な規模の企業でビジネス経験を積み、「組織と人の関係に興味を持ってきた」と言います。そんな篠田さんが「聴く」に興味を持ったきっかけは、前職を辞めた後の”ジョブレス”期間にありました。

長年、ゆっくり話せなかった知人から声がかかり、「私も前に同じような経験があってね」と、人生の重要な決断について打ち明けてくれる濃厚な時間を過ごしたそうです。良い対話を通じて、聴くことの豊かさに気づいた篠田さんは、「利害関係のない立場にある私が自己開示をしたから、相手も心を開いて話してくれたんだ。自分にとって大切な話ができる環境は、人生を豊かにするのかもしれない」と実感。ちょうど同じタイミングでエールを知りました。

エールは「聴く」という行動自体を、事業として成立させているユニークな企業。社外の副業人材による毎週30分の1on1ミーディングを行なう、BtoBサービスを展開しています。「部下の話を聴きたいがゆっくり時間が取れない」「じっくり話を聴いてもらった経験がない」「評価が気になって、率直な話ができない」といった課題を、利害関係のない人材が”聴く”ことで解決につなげています。副業人材は、聴くことに関心が高く、トレーニングを積んできたプロの社外サポーター。AIを使ってマッチングさせて相性が合う方としっかり対話し、組織力の向上や人材育成、上司との1on1に活用していただいています。

人は経験を通して学ぶ際に、まず行動を起こし、様々な観点から経験を観察します。そして応用できるように概念化し、出来上がった概念と共に実践する。この【経験→観察→概念化→実践】のループを通れれば、より深い学びが得られます。さらに第三者が入れば、その学びに新たな概念を持ち込める可能性も出てきます。「経験を通じてこんな気づきがあった」と、思考や感情が言語化できれば、組織内でのコミュニケーションもとりやすくなるはず。そうやって話を聴く人が増えていけば、組織の生産性も連帯感も向上するため、組織はより強くなります。YeLLは「第三者に聴かれた体験」から、「聴くの連鎖」を生み出していくプラットフォームなのです。

そもそも、「聴く」とはなんでしょうか。聴くこと、つまりコミュニケーションは、よくキャッチボールに例えられます。「ボールを投げる=話す」「ボールをキャッチする=聴く」とすると、コミュニケーションがうまくいくかどうかは、聴く人の力量にかかっていると分かります。きちんとボールを受け止められれば、キャッチボールはずっと続いていくのです。

だからこそ、相手の話を聴く際に意識しておきたいポイントがあります。それが、「相手の肯定的意図を感じて聴く」ということ。対話をしている相手は、必ず「これは伝えた方がいい」との意図があって発言をしていると理解して聴ければ、鬼に金棒です。

前述のAmyさんの論文にもありましたが、「聴く」は心理的安全性に不可欠なもの。ミスをしてしまった時に正直に伝えられるチームは、「何があっても聴いてもらえる」とメンバーが確信しています。価値観の異なる者同士が、「対話」を通じてお互いを聴き合い、理解し、学ぶ。それを繰り返し続けていけば、組織のパフォーマンスは自ずと高まっていきます。

そうなれば、自然と「もっとチームに貢献したい」と感じられるようになり、自分が組織にいる意味も見出されてくるでしょう。心理的安全性は、お互いのミスや経験から学び合う場なしには、成立しないのです。

ニューノーマル時代の「聴き方」とは

最近では「オンラインでのコミュニケーションが中心」となった方も、少なくないでしょう。オフラインの聴き方と、オンラインの聴き方に違いはあるのでしょうか―――最後に登壇されたお2人へ、ニューノーマル時代ならではの質問が寄せられました。

篠田さんは「私たちは本来、自分の気持ちを伝えたいんです。建前上は仕事の話しかしちゃいけないと分かっていても、やっぱり伝えたい。オフラインで場を共有している時には、非言語の部分で気持ちを伝えあっていたんですよね」と話します。ところがオンライン上では、非言語によるコミュニケーションが伝わりにくくなります。顔の表情やしぐさ、ジェスチャー、うなずきが途端に見えなくなってしまうのです。

「エールではミーティングを始める前に、必ずチェックインの時間を設けています。今の気持ち、体調を1人30秒くらいで伝えるんです」。その場で「昨日から寝不足です」「資料の準備に不安があって、緊張しています」とそれぞれの状況をシェアすると、途端にコミュニケーションの解像度が上がるのだそうです。「通常の業務以外に、ざっくばらんな話をするのって大切。時々やってみるだけでも、オススメです」と、実践的なアドバイスが飛び出しました。

また石井さんからは、「反応と返答を分けて対応するのがオススメです 」との答えが返ってきました。例えばコロナ前、 オフィスに居れば 、 バタバタしている部長を見て「今は忙しそうだから、企画書チェックに時間がかかりそうだな」とすぐに分かりますが、オンラインでは部長の状況はまったく見えません。すると「企画書を送ってからだいぶ時間が経ったけど、大丈夫かな?クオリティ低いって怒っているのかな…」と不安になって、心理的安全性が下がってしまいます。「企画書の中身を精査しフィードバックする”返答”には、もちろん時間をかけるべき。しかし、企画書を受け取ったよ、作成ありがとう!という”反応”はすぐにできますよね。『週明けには返事をします』と反応するだけで、送り手の気持ちはだいぶ変わってくる」とのこと。「聴く、話す」という行動のキャッチボールがたくさん起こるほど、心理的安全性は高まっていく様子が目に浮かびました。

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イベントの終盤、こんな印象的なやり取りがありました。

篠田さん:「心理的安全性は、決して自然に起こるものではありません。わざわざリスクを取って、恥をかきたくないもの。でもそれを乗り越えて言える環境を作るために、第三者に聴いてもらって”こういう状態なんだ”と体感してもらう。そうすると、分かるんです」

石井さん:「心理的安全性とは結局、チームのカルチャーなんですよね。カルチャーは実はひとつひとつの行動の積み重ね。上司がきちんと話を聴いてくれないために、行動が妨げられているなら、それを取り除いてみましょう。聴いてもらえるようになったら、話してみましょう・・・そうやって繰り返して、安心安全なカルチャーができていくんですよね」

「聴く」という当たり前の行為が、いかに難しいか。そして、「聴くこと」が新しい時代を切り拓く具体的なアクションとして注目を集めていることに、新鮮な驚きを感じました。私自身も、チームに「安全」という文化を根付かせていくために、まずはお互いの気持ちを分かち合うところから始めていきたいと思います。


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