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ピンクブラウンの魔法【#髪を染めた日】

 数年前、メンタル不調で休職していたことがある。症状が一番重かった時は、横になったまま動くことすらできず、ただ息をしているので精いっぱいだった。

 当然、美容院にいくこともできなくて、髪は伸び放題、根本だけ黒いプリン状態になっていた。なじみの美容師さんの顔が頭の中をよぎったけれど、なかなか回復しない日々が続く。

 それでもなんとか、一日一日を積み上げて、ふと鏡を見たある時。

 ぼさぼさのプリン頭の自分。

 「今の私にふさわしくないな」と感じた。きっと、これからどんどん元気になっていくのに、髪がこれじゃあ、つり合わない。

 すぐに予約して、美容室に行った。半年ぶりだ。

 いつも担当してくれる女性の美容師さんが、私を笑顔で迎えてくれる。

「お久しぶりですね!」
「色々あって……」
 私が休職していたことを伝えると、美容師さんは心配そうな顔をする。
「じゃあ、今日はあんまり長時間は止めた方がいいですかね?」
 私は首を横に振った。
「髪、短くしたいです。暗い気分を捨てたくて」
「色は――」
 美容師さんはちょっと考えて、
「ピンクブラウンはどうですか? 可愛くて元気なイメージになれますよ」

 私はちょっと不安になった。本当にそれが私にふさわしいだろうか。
「……似合いますかね?」
「絶対似合います!」
 彼女は大きくうなずいてくれる。

 私はたちまち安心した。

 だってもう五年来、ずっと担当してくれている美容師さんだ。どんな状態でもいつだって、私が自分を誇らしく思うほど可愛くしてくれた。その太鼓判は、この世の何より信頼できる。

 後はいつもの通り。美容師さんが鏡の中で魔法のように施術してくれるのを、ワクワクしながら見守った。

 全てが終わったあと、美容師さんが、私の髪を手に取って、ていねいにブローしてくれる。

 彼女は常に、私の髪を世界一の宝物みたいに扱ってくれるけれど、この時、明らかにいつもより長い時間をかけてくれていた。

「はい、できました!」
 
 顔を上げると、鏡の中の自分。つやつやしたピンクブラウンの髪で、嬉しそうに微笑んでいる。まるで別人みたい。胸の中の嬉しい気持ちが広がって、世界が輝きだしたみたい。

「ありがとう! すごい可愛い! 気に入りました!」
 私が心からそう言うと、美容師さんも満足そうに微笑んだ。
「こちらこそ! 喜んでもらえてよかった!」

 彼女は私の髪を切って髪を染めながら、魔法をかけてくれた。「元気になってほしい」と思いながら施術してくれた。その気持ちが今も、私の背を押してくれる。

 会計を終え、私は弾むような足取りで踏み出した。お店の外へ。そこから続く、明るい未来へ。


#髪を染めた日 に寄せて。


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