【読書記録】僕の人生には事件が起きない
「日々笑いを追求している芸人さんのエッセイなら、文章力を鍛える参考になるに違いない」
そんな短絡的な思考でこの本を手に取ったわけですが、読み進めていくうちに「なんかわかる気がする…」と「そうはならんやろ」の渦に飲み込まれ、読み終わるころには、
…という著者の思惑にまんまとハマっているのでした。
ピンときていない人のために簡単にお伝えしておくと、著者・岩井勇気さんは、2005年に相方の澤部佑さんとお笑いコンビ「ハライチ」を結成し、ボケとネタ作りを担当しています。
「ハライチ」というコンビ名は出身地である埼玉県上尾市大字原市という地名に由来するそうですが、なんと澤部さんとは幼稚園からの幼馴染だというので驚きです。
最近だと、18歳差の奥様との結婚報道が話題になりましたね。
著者は、容赦なく正論を吐く毒舌キャラクター(いわゆる「腐りキャラ」)が特徴的で、今回の著書『僕の人生には~』も例にもれず、腐り要素満載の"腐り本"(というジャンルがあるかはわかりませんが)となっています。
また、こんなに語っておいてなんですが、特にわたしはハライチの熱狂的なファンというわけではありません。念のため。
「家の庭を"死の庭"にしてしまうところだった」「ルイ・ヴィトンの7階にいる白いペンギンを見張る人」など、魅力的なタイトルが並ぶ同著ですが、今回はその中から「あんかけラーメンの汁を持ち歩くと」を紹介させてください。
話の内容をざっくり説明すると、
という、これだけ聞いたら「なるほど、変わった人なんだな」という話でしかないのですが、おすすめしたいのは著者が街中であんかけラーメンの汁を飲むときの描写です。
まさに狂気。
水筒の中身が綾鷹でもスターバックスのコーヒーでもなく、あんかけラーメンの汁(しかも袋麺に付属しているスープの粉をお湯で溶いたもの)というだけでも絶妙に気持ち悪いのに、さらにそれをあえて公衆の面前で飲むことで、非日常の内側に身を置き、そこから日常を見ながら悦に入っているのです。
もう気持ち悪さを通り越して、ある種の恐怖すら感じます。
繰り返される「バッグから水筒を取り出し、あんかけラーメンの汁を飲んだのだ」のフレーズが、もはやそういう音楽のサビのように聞こえてきます。米津玄師さんあたりが曲にしてくれたら、とんでもなく叙情的な感じになりそうですね。
タイトルは「ANKAKE(アンカケ)」でしょうか。「ANTHEM(アンセム)」みたいで良いですね。
単純に「いや、あんかけラーメンの汁飲みすぎじゃね?」とも思いますが。
『僕の人生には事件が起きない』は、「何も面白いことなんてない、と人生をつまらなく生きるのはもったいない。ちょっと角度を変えてみるだけで、尖った面白さがこんなに顔を出すのだから」という著者からのメッセージのように思います。
「ちょっと角度を変えてみる」のが難しいと感じている方。
日常から切り出された、思わずにやりとしてしまうようなエッジのきいた笑いに触れたい方。
ぜひ、ご一読ください。
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