オンライン学会のポスター発表で僕が仕掛けたいくつかのこと
5月15−16日にオンライン開催された日本語学会2021年度春季大会に招待を受け,ポスター発表をしました。日本語学会のオンライン大会については前回大会では裏方としてお手伝いしていたのですが,そこでの縁がありお声がけいただきました。
今回,せっかく招待(審査なしで発表できる)なのをいいことに,いくつか仕掛けてみたことがありました。せっかくなので,それをブログに残しておきたいと思います。その意味ではこうやってブログに書き残すのだって仕掛けたことかもしれません。
多くの人に関心を持ってもらえそうな内容・タイトルを設定した
私がこれまで研究してきたのは方言の音声に関するものが中心です。なので,内容としてはやはり方言の何かをやることが期待されていたのかもしれません。しかし,昨年度けっこう出してしまって新データがあまりないのと,方言か音声に関心が無いと来てくれないかもというのとで,思い切って新しいテーマである連濁と容認性判断の問題に取り組みました。
といっても一から考えはじめたわけではなく,前から関心を持っていたけどきちんと調べて話していないものでした。実際,言語学フェス2021でも簡単な調査をして話していたものですし。
多くの人にとりあえず見てもらいたいというのもあり,発表タイトルも「日本語にとって連濁は何者なのか」と少し煽ったタイトルにしました。ただこれはちょっと考えもので,予稿集に
より言葉を補うと,「日本語の文法にとって,連濁とはどのような地位を占め るものなのか」ということになる
と書いたように,補足が必要でした。こういった補足がなくてももっと内容と一致したものにしないといけませんね。
テキストチャット(slido)で質問を受け付けた
前回大会や別のオンライン学会でポスター発表を見ることがあったのですが,基本的に下に書くような感じで盛り上がりに欠けてしました。
1. 静かにスタート
2. とりあえず発表者が概要を説明する(体感5分くらい?)
3. 質問がないか聞く
4. しーーーーーん
4〜50人いても基本的に質問があまり出ないのでこれで1時間とか持たせるのはちょっときついと思い,テキストチャットを入れることにしました。ただし,学会ではポスター以外の共有は認められないということだったので,下の記事で紹介している方法を使い,パワポにブラウザを埋め込み,そこにテキストチャットを表示させることにしました。
この仕掛けは予想以上にうまくいったと思います。スタート前から書き込んでくださった方がいたこともあり,時間中どんどん書き込みが増えていきました。そのため,音声でやりとりした方ももちろんいたのですが,基本的には書き込まれた質問やコメントについて僕が回答なり考えなりを述べるというラジオスタイルになりました。
ちなみにチャットならzoomにも付いているのでそちらを使えばいいのでは?と思われるかもしれませんが,zoomのチャットは「入室前のものが見られない」という仕様なので,それまでに出た質問を確認することができません。まあもう一度聞いてもらってもいいのですが,やはり前に出たかどうかは気になるという意味でもslidoのようなものの方がいいかと思います。
ポスターをなるべくシンプルにした
ポスターの情報量というのも考えると難しいところで,実地開催のときはコロナ禍直前ではbetter posterという形式のポスターを作るようになりました。この形式は「メインメッセージ(タイトルに非ず)」「要点」「アイコン」という3つから成っており,とにかくメッセージが目立つようになっていました。
ただオンライン学会だとポスターが並んでいるわけではないので目立たせる必要はありません。しかし,画面サイズの制約もあるのでフォントサイズを小さくしていいかというとそうとも言えません。そういったわけで今回はフォントサイズを大きめにして,かなりざっくりと書くようにしました。画像にしたものを貼り付けます。
一応,背景の代わりに「問い」を2コラム使って書き,調査内容,結果,結論を書いています。でもこれだけを読んで分かるようにはなってませんね。ちなみに右端がテキストチャットです。
ポスターの説明動画を作った
実地開催のときは,ポスター発表すると通りがかった人から「何をやったのか簡単に説明して」みたいなことを言われたり,逆にこちらから「説明しますか?」などと話しかけて概要を説明することが多かったのですが,オンラインのポスターだと「通りがかり」みたいなものが欠ける(わざわざ見に来る)のと,やはり目の前にいない状況で何度も説明するのがちょっと気持ち的にしんどいというのがあり,説明動画を作ることにしました。
説明動画は10分,3分,1分で用意しました。ちなみに1分は半分冗談ですが聞いてみて作った自分でもこれで内容が分かるわけないと思いました。一応,3つとも貼り付けておきます。
10分バージョン
3分バージョン
1分バージョン
YouTubeの閲覧数を見ると,後で紹介する情報ページで一番上に置いたことや,長さが適当だったことからか,3分バージョンが最も閲覧されていました。今(5/17 10:00)時点での閲覧数をメモしておきます。
・10分バージョン 22回
・3分バージョン 50回
・1分バージョン 13回
発表情報ページを作り「おまけ」も充実させた
私の場合,ポスター発表でデータベースの話をしたときはPCを持参して実際に見せたりしました。今回は結構人数の多い調査をしていたので生データにもそれなりに価値はあろうと思っていましたが,今回はポスター以外共有もできないということでした。また,上に出したようにけっこういろいろな情報を付け加えていました。
こういうこともあり,今回は発表に関する情報を集約するいわば「自分用ポータルサイト」のようなものを作りました。どこに作るかも少し考えましたが今あるリソースを使うのと,他の方の参考になるかと思いresearchmapのブログ機能で1つの記事に集約し,それを更新する形にしました。
このページは次のような構成にしました。
・要旨(本来不要だったけど勝手に予稿集に入れた)
・ポスターのファイル
・ポスターの説明動画
・テキストチャットへのリンク
・予稿集,調査結果,音声データ
実際,調査結果をダウンロードして質問をくださった方もおり,有効に活用できていたのではないでしょうか。
アクセス解析を見ると,直前3日間ではTwitterの宣伝や事前提出したポスターにリンクを入れたもあり70アクセスぐらいで,当日はzoom内チャットに流したおかげか150弱のアクセスがありました。
総括:応用範囲は広いかもしれない
今回のスタイルをまとめると次のようになります。
・発表用ページを作り情報を集約
・ポスターの説明動画を作り,当日の手間を省く
・ポスターにテキストチャットを入れることで沈黙を回避
学会・研究会でこのスタイルを取ること自体はあるので,それほど目新しくはありませんが,個人のレベルでもできるという点は大きいのではないでしょうか。
使ったサービスは基本的に無料のものばかりなのでコストはかかりません。また,動画のアップロードなどもこのコロナ禍でだいぶ慣れた人が多いことでしょう。それを考えると,例えば演習や卒業研究の発表会をこのように反転方式で行うというのは十分に可能性があるのではないでしょうか。実際去年は私の基礎演習もこのスタイルでやってだいぶ盛り上がりました。
コロナ禍の早い収束を願うばかりですが,その間にできることはいろいろ試してみたいものです。