「ことばのパズル」の前提
北星アカデミックサロン2024では新たにことばのパズルという体験ブースを設けた。ここでやったのは来場者(の多く)にとっておそらく未知の言語と日本語訳を見せて,そこから法則(一般化)を見出して,ある表現の日本語訳や反対に日本語訳からその言語の表現を作ってもらうというものだ。
例えばイタリア語を例にすると,
gatto bianco 白い猫
cane bianco 白い犬
gatto nero 黒い猫
というのが出された上で「黒い犬」を作るという問題だ。答えはcane neroとなる。日本語と語順が逆になるということが分かれば問題はない。と,思っていたのだが,意外にもこの手の問題で苦戦していた。というか基本的にできないことが分かって一緒に考える役割をやっていた。
難しい原因が表記だった。今回出した言語は音素表記で基本的にローマ字読みすればよかったので,中学生以上なら問題ないと思っていたし,じっさいにそう話したのだが,中学生でも初見の文字列をローマ字読みするのはかなり難しい人がいたし,大学生でも「え?」となっていた。
言語学をやっているとこの手の表記には慣れっこなので,細かな調音上の正確さはともかく一応読める(音声表記はそういうものだ)。これがけっこう言語学者の技術だというのはすっかり忘れていたことだった。
ただそれでも気になったのは小学校高学年でも「おれ(わたし)英語苦手ー」と言って読むのがイヤという感じがとても出ていてちょっと心配になった(小学校英語大丈夫?)。
ローマ字表記は活用の共通性を考えるときにとても使えるし,高校の模擬講義ではそういう話もしてきたのだけど,これが通じない,または嫌になるという人がいるのはちょっと気にした方がいいだろう。
他にも上の例で言えば「白い犬」と「黒い犬」で日本語の共通点は?と言っても「白い」という答えがあったことで,「共通」はなかなか通じにくいのかもしれないということだ。途中で「同じ言葉はどれ」とかいろいろパラフレーズしてみたけれど,一方でこういうときの「共通」って何歳ぐらいから使えるのだろうと思った。
さて,今後もし同じように言葉のパズルをやるなら,例えばカナ表記にすることは必須だろう。
ガットビアンコ 白い猫
カネビアンコ 白い犬
ガットネーロ 黒い猫
言語学者的には音素(音声)表記になってないのはかなり気になるのだけど,あくまで一般化させることが狙いならしょうがないかな。
あとはチャレンジ問題を作って挑戦者を待つしかない。指小辞で「ガッティーノ」とか作ってルールを考えさせたらどうなるのかちょっと楽しみだ(ちなみに犬の方はカニョリノになるので工夫が必要)。