開催側の負担を最小限にしながらハイブリッド型学会を行う
今年の初頭から日本言語学会の大会運営委員長を仰せつかっており,運営を担いました。私が委員長になることが内定してから,周りの話を伺いつつ今回からオンラインを現地開催に戻せそうな雰囲気を掴めたので,任期中の目標の1つとして「コロナ禍での現地大会のスタンダードを作る」ことを掲げました。ちなみに「交流の場としての大会の機能を回復させる」ことも目標としてあり,そちらのことはすでに少し書きました。
そしてこの体制で初の大会が先週末(6月17〜18日)に行われました。簡単に今回の形態をまとめると次のとおりです。
事前登録を推奨し、配信を行う専用サイトのURLを知らせる(大会5日後から1週間程度が視聴期間)
口頭発表とワークショップはスクリーンを録画して動画配信する
ポスター発表はポスターファイル(PDF、全員)、説明動画・音声ファイル(任意)を置く
要は現地開催としつつ後日配信という形でオンラインでの参加を残したのが特徴的です。この方式の狙いや具体的な運用はまだ書いていないので,備忘録も兼ねて書いておきます。
大方針=参加の幅を広くしつつ運営の負担を最小限に抑える
今回の形態はオンラインでの参加を確保しつつ,運営側(運営委員、会場校)の負担を増やさないことを目指していました。
それなら現地のみの開催でオンラインはなしオプションも論理的にはありえましたが,早いうちに少なくとも私の中では選択肢から外しました。
理由は参加者の確保です。5類引き下げ云々はあれど感染症の心配から大勢のいるところへの外出を控えたい人もいるでしょうし,オンライン開催によって子育て層や地方在住者が参加しやすくなったことは確かです。また,言語学フェスをやってみて一般層の参加のハードルが下がるということもあります。このように,オンライン参加のしくみを作っておくのはメリットが大きいです。
少し余談ですが,言語学オリンピック関係の本も出版され,高校生ぐらいの層の参加が促せればというのも今は思っています(当時は知らなかった)。
事前登録の効果
言語学会をオンライン開催していたときは事前登録にしていましたが、もともとコロナ前は現地でのみ受け付けていました。しかし,オンラインでの参加者を入れる時点で現地開催でも事前登録は行うことが必要になりました。
今回から新たにPeatixによる受付に切り替えました。これにはいくつか理由がありますが,ひとつに大会後も参加を受け付けられることがあります。ただ,現地開催での事前登録は初めてで,うまく進むのか,特に現地会計(現金払い)よりも早く手続きを済ませたいと思っていました。幸い担当委員や開催校担当者のおかけでスムーズな受付ができました。
また,扱う現金がだいぶ減ったのは開催校にとっても良かったようです。もちろんシステム利用の手数料はあるけどメリットが大きいと思います。
口頭発表・WSの動画配信
そのままビデオ撮影
今回は口頭発表とワークショップ(WS)で「スクリーンをビデオカメラで撮影し,それを後日アップロードして配信する」ことにしました。このビデオカメラは一般用のもので、各会場のスクリーン前に三脚に付けて設置しました。シンプル!
すごくアナログというか単純な仕組みで、スライドの画質が気になりそうですが、おおむねちゃんと見えます。いくつか実例のスクショをお見せします(当然許可は取ってます)。
発表の動画配信というとzoomなどのオンライン会議ツールで発表者が画面共有したのをクラウド録画するのが思いつくと思います。これだとスライドがフルスクリーンになるので見やすくなるのですが,接続でのトラブルと,機能としてほぼ活かされないのにアカウントを買うのも無駄っぽいのと,何よりビデオカメラなら録画ボタンさえ押せば終わりなので楽ということで,直接撮影にしました。
ちなみにビデオカメラはレンタルで会場校へ金曜に届けてもらい,日曜に返却です。どうも料金は実利用日の分だけでよかったようで,4台を2日間借りて約3万円でした。
同時中継にしなかったわけ
各会場でzoomミーティングを行えばリアルタイムでオンラインからも参加できるようにできるのですが,結果としてそれは入れませんでした。
理由はいくつかありましたが,一番大きかったのは質疑です。音声で質疑を取るとして,会場の質問をオンラインに聞こえるようにする,逆にオンラインからの質問を会場に聞こえるようにするのに当日設定してうまくいくか自信が持てませんでした(一応,やり方や機材は知ってるつもりです)。
また,司会者がオンラインと現地の質問を振り分けたりするのが大変ということもありました。授業でもそうですが,現地とオンラインの両方に目を配るというのはけっこう負担が大きいですよね。
ちなみにこの件は子育て中の知り合い数名にメールで質問というかやり取りを何往復かしました。その中には同時中継のほうが参加している感が出るという話もあったのですが,同時に子供に時間が取られて同時中継でも参加できる保証がないという話もあり,それならやはり思い切って同時中継をなしにしていいかという結論に至りました。
ポスターは現場を基本
一方,ポスター発表は口頭発表と違い,現場でのやり取りが中心となります。そのためオンラインは補助的に最低限の情報を得られれば十分と考えました。
そこで,全員にファイルの提出をお願いした上で、任意で5分以内の説明動画または音声を提出できるようにしました。ポスターは前日まで作って当日持ってくるという人もいるだろうから,締切は大会の3日後に設定しました。
5分の説明というのは少し長めかなとも思いましたが、短くしたい人はそうすればいいし、「これだけあればまず大丈夫だろう」という線で設定しました。ちなみに実際には数秒超えている方もいましたが,そういう趣旨なので特に撮り直しは命じていません。
質問のフォームはどれくらい来るか?
質問がある人はフォームから送るようにしました。予稿集にメールアドレスを公開している人も多いので,直接メールでやり取りするようにしてもよかったのですが,教えたくないという人もいるだろうということで,こうしています。
また,フォームからの質問への回答は任意にしました。これは直接のやり取りということにして,トラブル(ハラスメント)のリスクを考えたのと,こちらがあまりやりとりに細かく関与できないことなどの事情からです。
これがどれくらい活用されるかはまだ途中なので分かりません。
おまけ:ちょっとした用語の混乱
(高等)教育業界的にはとにかく現地とオンラインの両方が用意されていたらハイブリッド型,同時中継ならハイフレックスと呼ぶんで,当初の案内では「ハイブリッド型」としたのですが,少なくとも私の周りの言語学界隈では通じなかったようで,同時中継ありという誤解を招いてしまったので,しれっと「現地開催(後日配信あり)」としました。
用語って難しいですね。
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