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「ワイパイ」と聞いて言語学的にゾクゾクしたよ
ラジオで新しい「カンパイ」の挨拶を考えるというテーマでメール募集していて、その中の一つに「ワイファイと合わせて「ワイパイ」」というネタがありました。
番組では「みんな分かるの?」とか反応していたと思いますが、私はゾクゾクと来ました。はい、言語学的に。
カットする語形成
まず、「ワイパイ」って「ワイファイ」と「カンパイ」という2つの言葉をどちらも少し切って1つにしています。こういう単語の作り方にはいくつか方法がありますが、それぞれの前を取る縮約が最もポピュラーです。
ドラゴン+クエスト→ドラクエ
スマート+ホン(フォン)→スマホ
きむら(木村)+たくや(拓哉)→キムタク
それに対して「ワイパイ」は始めの言葉の前と、後ろの言葉の後ろから取ってます。
ワイファイ+カンパイ→ワイパイ
これを混成と呼びます。混成は縮約ほどでないにせよ例は出てきます。
ゴリラ+クジラ→ゴジラ
いかる(怒る)+むかつく→いかつく
チャイルド+アイドル→チャイドル
混成の規則を簡単に散文で書いておきます。
前の単語の前と、後ろの単語の後ろを付けよ(混成規則)
「飲み+コミュニケーション→飲みニケーション」のように前が短いと全体を後ろの一部にくっつけるのでこれは正確じゃないけど分かりやすさを優先しました。
なのでこれだけでは「混成語だ!」で済むんですが、私がゾクっとしたのは「パ」です。
パ行を作る「ン」
というのも、この「パ」は頭の中の辞書にはなく規則でできたものなんです。
どういうことかというと、カンパイは漢字で「乾杯」と書くことから分かるように、「乾」と「杯」からなる熟語です。それぞれ「かん」「はい」と読みます。そして、「ぱい」になるのは前が「ん」と「っ」のときに限られます。
パイ:けんぱい(献杯)、きんぱい(金杯)、へんぱい(返盃),いっぱい(一杯)
ハイ:くはい(苦杯)、しはい(賜杯)、ぎょくはい(玉杯)、しゅくはい(祝杯)
※前が「く」が多いのは偶然です。あと「さんばい(三杯)」のように「ば」もありますが数詞は例外的です。
ここから、頭の中では「はい」で前に「ん」があるときに「ぱい」になったと考えます。
そもそも漢語の熟語では「ん」の後のハ行はパ行になりやすいことからもこの考え方は支持されます。
せんぱい(先輩)〜こうはい(後輩)
さんぴ(賛否)〜だくひ(諾否)
せんぷう(旋風)〜たいふう(台風)
かんぺい(官兵)〜ほへい(歩兵)
けんぽう(憲法)〜けいほう(刑法)
パ行の゜は半濁点と呼ぶので,半濁音化と呼んで散文の形で規則を書きます。
「ん」の後で漢語の「ハ行」を「パ行」にせよ(半濁音化規則)
※「ワイン風」は「わいんふう」なので,前も漢語という制限はありますね
そうすると、「ワイパイ」は次のように熟語が作られてから分かれたことになります。
ワイファイ+かん-はい
→ワイファイ+カンパイ(半濁音化)
→ ワイファイ+カンパイ(混成)
→ワイパイ
もし先に混成語を作ると「ハ」のままになります。
ワイファイ+かん-はい
→ ワイファイ+かんはい(混成)
→ ワイ+ハイ(半濁音化なし)
→ワイハイ
このように、音の規則には順序があることが分かります。
他の音の変化も考える
しかし、日本語の音の変化には次のように促音を作る音の変化もあります。
こっこう(国交)、こっかい(国会)、こっき(国旗)
こくどう(国道)、こくがい(国外)、こくない(国内)
この「国」(こく〜こっ)のケースは次のように規則で書けます。
「こく(国)」は後にカ行が来るときは「こっ」にせよ(促音化規則)
※「せっち(設置)」と「せつび(設備)」のようなパターンもありますが,分かりやすさを優先してます
私の周囲の観察にはなりますが、促音化は語形成より前でも後でも起こりえます。
こく-さい+かん-けい
→こく-さい+かん-けい(縮約)
→こっかん(促音化)こく-さい+かん-けい
→こく-さい+かん-けい(促音化なし)
→こくさい+かんけい(縮約)
→こくかん
そうすると、音を変えるという点では同じ半濁音化と促音化でも,他の規則との順序関係では違うということになります。
今は規則の順序という形で説明しましたが,「国」の促音化はゆれという可能性もありますし,もっと別の分析もできます。ただ,ラジオを聴きながらそんなことを考えていたんで,メモしてみました。