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いっぱい食べなさい


そう言われるのが得意じゃなかった。


子供の時は訳も分からず

ニコニコしてればよかったけど、

思春期真っ盛りの学生時代は

食べてるよ、と反抗的な態度をとっていたし

外食先で言われると恥ずかしいと思っていた。


長期休みで祖父母の家に行くと

祖母は沢山の手料理で僕たちを迎えた。

そして食べている僕や妹に向かって

「いっぱい食べなさい」

と言うのだった。

たまに会う祖父母に冷たい態度はとれないと

思春期や反抗期の僕でも分かっていたから

うん、とだけ答えた。


心の中では、

祖母に育てられたから

母もあんなに食べろと言うのだろうか

と思っていた。


しかしそんな鬱陶しさから一転、

大人になると、その言葉が

ただの愛情のかたまりだったことに気付く。


愛情表現にはいろんな種類がある。

好き や 愛してる を直球で伝える以外にも

いってらっしゃい や おかえり とか。

「いっぱい食べなさい」

もきっとその一種。


母が妹に「これ食べな」と言うと

「もうお腹いっぱい」と鬱陶しがる妹。

僕は笑いながら「一口くらい食べてあげな」

と言えるようになった。




ある日、後輩と飲んでいると

後輩がふと気付いたように僕に言った。

「先輩っていつも、

"いっぱい食べな" って言いますよね」

まさか。

愛情表現だったということに気付いた僕は

いつのまにか自ら使っていたらしい。


でも後輩の様子からすると

そんなに嫌そうじゃない…?

食べろハラスメントなんてのもあるらしいが、

僕はそういうつもりじゃないことだけ伝えて

今後は少しだけ気をつけなきゃなと思った。




昨日は敬老の日。

祖父母に電話をすると

電話口からも分かるくらい喜んでいた。

もちろん電話の締めは祖母の言葉。

「ご飯いっぱい食べるのよ」


おばあちゃん、

僕を何歳だと思ってるんだよ。

言われなくても食べるよ。

でも、いつまでも言ってよ。

僕は子供の時みたいにニコニコしてるから。






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