好きなコトを好きなヒトと


就活生の時。

僕が興味のあった業界はひとつだけだった。

だからその業界の会社説明会、ほとんどに参加した。

理由は簡単。

同じ業界、つまりどの会社もやってる仕事の内容は変わらない。

それなら一緒に働く人を選びたかった。


興味があったその業界は、華やかなイメージの裏でとても大変な仕事だと学生ながら分かっていた。

だからこそ、何が楽しくてやってるのか、どんな時に面白みを感じるのか、僕はとにかくそこが気になっていた。

会社説明会には必ず質疑応答がある。

僕は大勢の前で質問して覚えてもらおうなんて行動は取れなくて、いつも誰かが質問してることをメモっていただけだった。


ある会社である学生が「どんな社員がほしいですか」と質問すると偉い人が「特にありません。考えてください」と答えていた。

この会社はないな、と僕のリストから消した。

今考えると、たかが学生が何をと思うが、間違っていたとは思わない。

学生は学生の物差しでしかその会社を見れない。

だからその偉い人の答えが、もし大きな笑いを狙ったものなら、この会社は他の会社と違うと思われたいからなら、ブランディングが的はずれだ。

学生の僕は、完全に引いて心のシャッターを下ろした。

が、もしこんな僕みたいな人以外がほしいと思った発言ならば、大正解。


ある会社である学生が「それはどのような過程で作られたのですか?その時の想いを教えてください」と言うと、雰囲気のある社員が「なんか普通にやってたら出来上がりました」と一言だけ答えた。

この会社はないな、と僕のリストから消した。

笑わないアーティスティックな人だった。

きっとこれは会社のブランディングではないはず。

だってお世辞にも会社説明会向きの人ではなかった。

”凄いものを作った人” という目玉が欲しかったんだろうな。


そして僕はまた、ある会社の説明会に行った。

広いミーティングルームに通され緊張しながら座っていると。

背の高い男性と、小太りの男性がステージに上がり定位置に座った。

会話の内容はよく聞こえないけど笑ってる。

...まだ笑ってる。

...あれ笑いが大きくなってる?

その時の僕の気持ちはまさに、千鳥の漫才を見てるよう。

2人が楽しくて漫才中なのにリアルに笑ってしまう。

のっぽさんとぼっちゃりさんはそんな感じだった。

なんかいいな、そう思った。

説明会が始まった。

さっき笑ってた2人の上司(仮にこの人を普通さんと呼ぼう、体型が普通だから)がMCとして進めていた。

説明会の内容は、仕事例に差があるくらいでやはり他社と変わらない。


質疑応答の時間だ。

ある学生が「御社の魅力はなんですか」と聞くと、普通さんはこう答えた。

「うちはこの業界で大企業でもないし小企業でもない、中企業です。社員数も多くも少なくもない、中くらいです。大企業だとなかなか社員全員がコミュニケーションをとるのは難しい。小企業だとやはり案件の大きさには限りがある。うちはその間です。そこそこ大きい案件を、コミュニケーションを希薄にすることなく進めています。とにかくね、社員が仲いいんです」

のっぽさん、ぽっちゃりさんは、顔を見合わせて「確かに」と笑っていた。

そして普通さんは「ここからは各グループを社員が回るので、個別に質疑応答やりましょう」と言った。

さすがの僕もグループになったら質問する。

もちろん質問は「どんな時が楽しいと感じますか?」

毎回、誰が回ってきてもこれ。

みんな答えは違った。

でも絶対に、話してる人は笑っていた。

僕たちをそのエピソードで楽しませるとかの前に、その人自身がその話をしながらその時を思い出して楽しそうだった。

”この会社なんかいいな” が ”いいな” になった。


あっという間に終わった。

初めてだった。説明会終わりで楽しかったと思ったのは。

その瞬間。

この会社しかないな、と僕のリストから他の会社を消した。

僕はあの人達と働きたいと思ったし、この業界で働くならあの会社以外はないと思った。


そして今、その会社で働いている。

想像以上に仕事が辛い時もあれば、想像以上に楽しい時もある。

きっとどんな仕事も、お金をもらうっていうのは、多かれ少なかれ大変なことだ。

だけど僕には ”好き” があった。

好きなコト、好きなヒト。

”好き” がなかったら、これまでの壁はなにひとつ乗り越えられなかっただろう。


これ以上の好きが湧き上がった時、僕はまたきっと動き出す。




僕が何者になるか、あなたに見届けてほしいです。