自分らしい独裁者になれ


一緒に仕事したことはなかったけど

僕はあの人に憧れていたんだ。




その先輩は僕よりも先に会社にいた。

入社という意味でも

出社という意味でも。

だけど、

どんなに忙しくても楽しそうに見えた。

キラキラしていた。

これから会社を引っ張っていくんだろうな..

新人の僕でさえ分かるくらいだった。

視野が広く、感度が高く、

話し方も整理されていて上手だった。


僕が先輩と関わるようになったのは

2年目に入ってからだった。

うちの会社には若手の社内研修がある。

と言っても堅苦しいものではなくて、

先輩社員とお喋りしながら

発見や反省を共有する交流の場だ。

2年目の研修で講師として入ってきたのが

その先輩だった。


先輩は入ってくると、

かっこよくTVとMacを繋ぎ

おしゃれな資料を画面上に出した。

そこには先輩がどんな思いで研修をするか

僕たちにどうなってほしいかが

丁寧に書かれていた。

僕は一気に引き込まれてしまった。


一緒に案件をやる機会はなくて

交流は研修の場のみだったけど、

先輩がおすすめの本を教えてくれたり

僕は勝手に先輩の仕事の仕方を観察して

取り入れられないか模索していた。


2ヶ月に1度の研修もあっという間に

最終回を迎えた。

最後の研修で先輩は、

自分の存在が分からなくなっていた

若手の時の話をしてくれた。


先輩が仕事で海外に行った時のことだ。

現地のスタッフと飲みに行く機会があり、

ホテルのバーに行ったそうだ。

先輩が悩んでいることを察してか、

その人は外の看板を指差してこう尋ねた。

「あれ、誰が作ったと思う?」

先輩が普段仕事をもらっている代理店や

自分が仕事を振っているスタッフを挙げると、

その人は優しく笑いながらこう言った。

「違うよ。君だよ。

君みたいな人たちがあれを作ってるんだ。」


僕はこの話を聞いた時に、

狭くも広くもない会議室で4人の同期の前で

恥ずかしげもなく泣いてしまった。

ちょうどその時僕も当時の先輩のように

自分自身の存在に疑問を感じていたからだ。

代理店が企画したものを

プロのスタッフに繋いでいく。

僕はなんなんだと思っていた。

だから、肯定してくれた気がした。

お前がいる意味はあるんだぞ、と。

僕が泣いていることに気付いた先輩は

素敵なお話の後にこう続けた。


「俺たちの仕事は雑用も多い。

でも雑用は俺たちの仕事じゃない。

いいものをつくる。

それが俺たちの仕事だ。

熱量こそが相手を動かす。

だから自分がワクワクしていないと、

他人をワクワクさせられない。

自分に自信がないと、誰もついてこない。

作り手の思いは必ず伝わる。」


なるほどだった。

だから先輩はいつもキラキラしてたんだ。

キラキラしてたからかっこよく見えたし

キラキラしてたから僕は引き込まれた。


先輩はその研修から数ヶ月後会社を辞めた。

そして研修を卒業した僕が、

先輩から研修の講師を引き継ぐことになった。

あんなに素晴らしい研修をしてもらった後で

正直気は引けたけど、

キラキラした姿を後輩に見せることは

できるかもしれないと思えた。


あれから2年。

講師も2年目に入り、少し慣れてきたし、

後輩の成長や頑張りを見れる嬉しさもある。

泣き虫は相変わらずで、

初めての研修講師の年の最終回では

あまりにいいことを後輩が言うもんだから

僕が泣いてしまった。




僕が自分を取り戻し、

この場所に意義を見出せたのは

先輩からもらった最後の言葉があったからだ。


何が正しいかも分からず

弱気になっていた僕に先輩から届いたメール。

文末の熱くて温かい言葉を

僕はこれからも、きっと読み返す。




一番考えて一番思いが強い人が

いわゆる "正解" に近い。

一番強い思いの人の独裁政治でいい。

お前は独裁者でいい。

無理せず、自分らしく、楽しく。

ちょうどいい感じに。






僕が何者になるか、あなたに見届けてほしいです。