インド・イラン祖語はどんな言語だったか
ヒンディー語をダラダラやり始めて時間がたった。
インド・イラン語派の言語にちゃんと触れるのがはじめてなので、語彙や発音の点で新鮮な視点を得られる。
特にヒンディー語の発音と音写がわかってくると、なぜインド英語がああいう発音になるのかがわかってきて楽しい。
(写真はパキスタンの大都市ラホール)
インド・イラン語派という大きなグループ
ヒンディー語(ヒンドゥスターニ/ウルドゥー語)はインド・ヨーロッパ語族の中の、インド・イラン語派というグループに含まれる。
ざっくり南アジアから西アジアにかけて、東はベンガル語から西はクルド語まで広い範囲の言語が含まれる。
近接するアラビア語や南インドのドラヴィダ系はインド・ヨーロッパ語族ではないが、語彙の面で影響を受けたり与えたりしている。
下はインド・イラン語派の基礎語彙のリストであり、なんとなくの雰囲気がつかめる。
とはいえイタリック語派とかゲルマン語派みたいなのは地理的なものも含めなんとなくのイメージが掴みやすいが、インド・イラン語派は範囲が広くてつかみづらい。
「あー大体こんな感じだったのかー」をなんとなく掴むために、インド・イラン祖語がどんな言語だったのかとどんな音の変化だったのかを調べてみる。
以下はThe Indo-European languages (L Kulikov, 2017)より引用して一部和訳した。
インド・イラン祖語はどんな言語だったのか
地理的に広くてイメージ掴みづらいなと思ったが、そもそも南ウラル山脈から天山山脈という広範なエリアで話されていたようで、遡っても結局広かった。
この辺りの世界史の知識がないため知らなかったが、ミタンニで支配階級でインド・イラン祖語が使用されていたのは、インドでドラヴィダ語族を南に追いやったのと同様に、インド・イラン系の勢いの強さを感じる。
インド・イラン祖語の音韻的特徴
続いて音韻学的な特徴がこれだ。
印欧祖語含めて音韻自体の知識が少ないため、へーとなった場所だけ抜き出す。
(iii) /l/が弱化していたのは知らなかった。今あるヒンディーの/l/が奇跡的に生き残っていたのか、他言語から借用するときに復活したのかまたあとで調べたい。
(iv) ヒンディー語は今はt, th, d, dhの4つの対立があり、耳が良くない自分にはそれなりに負担なのだが、元々は3つだけの体系だったのは知らなかった。thに関してはインド・アーリア語群での変化(原語ではinnovation)らしいが、この変化がなければもっと楽だったのにと思う。全然違う語族のビルマ語とかも4つの区別があった気がするので、あのあたりは影響したりされたりあるのかもしれない。これもそのうち調べたい。
(vii) これも知らなかった。正直なところ印欧祖語のアクセントの体系を全然知らないため、なるほど感は全然ないが、追って勉強して確認したい。
インド・イラン祖語は割と保守的っぽい
インドヨーロッパ語族のほかの語派をそれほど知らないので比較がしづらいが、インド・イラン語派は閉鎖音やアクセントの体系において保守的な面があることがわかった。
ちなみに形態的にも
・3つの数(単数、双数、複数)
・8つの格
・3つの性
・5つの法
を完全に保っており、かなり印欧祖語らしさが残っているようだった。
・インド・イラン語派における/l/の弱化
・閉鎖音における無声/有声音と帯気音の体系
に関しては、色々気になることもあるのでまた調べてまとめたい。