ばあちゃんの逆襲

母に続いて祖母の話をしようと思う。いや家族大好きかよと思われるかもしれないが、そうではない。いや、そうだけどそうではない。

私の祖母という人は戦後すぐの頃、当時の長男としては恐らく珍しい、不思議ちゃん癒し系の祖父(故人)と見合い結婚をした。

どうしても家を借家でなく自分達の固定資産にしたかった祖母は自宅を改造して食事付きの下宿を開き、新婚嫁から兼業主婦&個人事業主へ。超良心的な家賃と激ウマデカ盛りごはんが見事評判となり、最終的には駅近3分の家とアパート2部屋をゲット。

仲のいい近所の奥さんに触発され50を過ぎてから(何度も落ちながら)免許を取り、60代でクルマを乗り回し。

孫(私)を連れ回し、イケナイ味(いくら、クリームソーダ、明太子…)を覚え込ませ。

自分の名前が気に入らないからと勝手に改名し。(母も40過ぎてから祖母の本名を知ったらしい)

つまり「人生勉強」が口癖の、それはそれはスーパーおばあちゃんなんでございます。86だけど未だにピンピンひとり暮らし。プールにもガンガン行くし、近所に住んでて、むしろ私が面倒見てもらってる。ずっと元気でいてくれ。

そんな祖母が70過ぎ位の時の話。

その頃、本か漫画か絵、それだけあれば超幸せなコミュ障小学生だった私はそのまま中学生になり、そして大多数の皆様の予想通りいじめに遭った。

集団行動こそ至高、女の子はみんなでトイレに行くのが正義とされている中学校において、それはまあ必然の結果でもあったし、そもそも小学校の頃も周囲から浮き、意地悪された事は何度もある。

なので最初はしれっとしていた。私は何も悪いことをしていない。私はただ単独行動をエンジョイしていただけ。授業やHRなど、やむを得ない場合は頑張ってちゃんと人と関わっているし。

一応母に相談し、2人で悲しみながらも実際は「オッケーいつものやつね!!」的なノリで学校生活をやり過ごす事にした。授業終わって帰るまで、HRの時点で鞄に手をかけ先生の話が終わるのを待ち、「さようなら」を言い終えるや否や教室を飛び出し、悪口を言われる前に光の速さで帰り続ける日々。いわゆるクラウチングスタート退社の先駆けだったんじゃないだろうか。

だが、そんなゆるブラックな日常は長くは続かなかった。中学生のいじめを完全にナメていたのだ。

何って、えげつない。つーか、ずる賢い。

自分達は絶対怒られないように証拠の残らない方法で、確実にターゲットを追い詰めていく。

週35時間以上こんな環境に居させられると正直、いくらなんでも気が滅いる。

なかなかに病んで、でも真面目のバカだった私は学校を休む事もできず、八方塞がり。(まじさっさと逃げろと思う)更に母も、PTA役員として幅を利かせている、いじめ主犯格女子の親とその取り巻きに睨まれるようになり、親子共々、精神的に疲弊していた。コミュ障の小市民母娘に非は無いとはいえ、分が悪すぎる。

疲弊した母は本当に落ち込んで、ある時その話を祖母に少しだけこぼした。

そりゃそうである。いくら親に心配かけずに生きていたくとも、愛する我が子が毎日学校つまらなかったと言いながら帰ってくる上、その顔は死んでいるのだ。

13歳、1番キラキラしているはずの歳の子が、精神やられて家庭で楽しい話をしている時も、笑顔が不自然なのだ。(この頃ストレスで上手く笑えなくなった)

だから、母的には行き場の無くなったストレスを自分の母親にちょっと聞いて欲しかった。ただそれだけのつもりだったと思う。



だが 我々は中学生のいじめと共にもう一つ、「祖母」というものもまた、ナメていた。


母が祖母に愚痴った翌日、1本の電話がかかってきた。

出て話をする母。そしてしばらくすると電話を切り、私を呼んでこう言った。


「学校の事、ばあちゃんが何も心配する事はないって。」

????????????????

「もし望むなら区に掛け合って絶対どうにかするって 」

区!???? 

なんで!?!?!?


どうしよう全然話が見えない。

そもそもばあちゃんと区と学校、点が全然繋がらない。そしてこの2日間の間に一体何があったのか。


まとめるとこういう事らしい。

冒頭で祖母と切磋琢磨し50過ぎて共に免許を取った、近所のおばさんを覚えているだろうか。仮にMさんとしよう。実はこのMさんと祖母のマブダチっぷりは相当なもので、この地に嫁いで来てから60年、祖母とMさんはよく遊び、互いに互いが大変な時は持ちつ持たれつ、支えあって生きてきた。同じ歳の子どもももうけ、彼らが在学中はPTA役員、卒業後は地元教育委員会関連の役員になったMさんは、役員引退後も事実上、そのトップの座に君臨していたのだ。

母の愚痴を聞いた祖母がなんとなく、日課のMさんとの井戸端会議でその話をした。

結果、

Mさん「私に任せて」


コミュ障小市民母娘から教育委員会役員関係者という、虎の威を借りまくり型権利者に成り上がった瞬間であった。

PTAなんか目じゃない。そんなもんすっとばして、上手くいけば全校からいじめっ子をつるし上げにできる。知らんけど。

幸い、学校側がこりゃ倫理面でも自校の評判面でもヤベエぞと、いじめっ子一網打尽的な徹底した対応をとってくれた為、この虎の威は使わずに済んだ。おかげで、その後の中学生活は可もなく不可もなくであった。

だが、使っていたらどうなっていたことだろう。考えただけでゾクゾクする。孫を辛い目に遭わされたばあちゃんの逆襲恐るべし。

そんな虎の威を借りてくる事ができる祖母は、やはりその辺にいるようでなかなかいないゴッドグランドマザーだ。どうか末永く長生きして、孫達からの孝行をもう飽きた嫌だ、というほど受け取って欲しいものである。

#家族


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