Monkeys!をクソゲー・良ゲーと括ってはならない。良いゲームであり、悪いゲームである。
Monkeys!は良いゲームであり、悪いゲームである。
どんなゲームにだって長所と短所は挙げられるが、Monkeysは特にそれが激しい。新たな試みがプラスの効果を生み出す一方で、マイナス面にもなるゲームだと私は思う。
プレイしていて非常に考える点が多かったので、整理もかねてここに書く。もしこの文章を読んでくれる方がいて、なにか意見や指摘する部分があればぜひコメントしてほしい。
大前提
クリア後のタイトルにのみ表示される、メバチの傘を差したCGとカラス√の時系列混線・もしくは意図的に矛盾した描写を仕様とする。この件はサポートに問い合わせ確認済みであるが、後に変更されるかもしれない。
ではここから、Monkeysの良い部分と悪い部分を考えてみる。作中のテーマである、ふたつの対立形式で取り上げてみよう。
テンポアップ:描写不足
harukaze作品はテンポアップを重視して地の文や描写を徹底的に削っており、monkeys!もその例外でない。セリフに()で動作を付け加える、説明を演技にぶん投げる、テキストと音声が微妙に違うなど、その徹底は異常な域である。このようなテンポ重視は、作品を受け手にとっての劇薬にする。作品に散りばめられたギャグやキャラの魅力、話の流れが受け手に合えばその魅力をテンポが倍増させ、逆に合わなければ不快感や置いてきぼり感を増幅する。このメリットとデメリットにより、受け手の感想は起伏が激しくなるだろう。ある部分ではとても面白かったのに、ある部分では気分を害したり疎外感を覚えることもある。ある人はこのゲームを絶賛し、別の人はこのゲームを否定する。文字と音に溢れたノベルゲーの性質を存分に活かした、もしくはノベルゲーという形式に頼り切ったこの趣向が、今作における最大の美点であり問題点であるはずだ。
説明しない美しさ:理解不能
もうひとつ抑えておかねばならない点は、「キャラクターは嘘をつく」ということだ。もしくは虚偽を重ねる意識がなくても、本当のことだけを言うわけじゃない。人間はすべてを明かさない。ぼかし、誤魔化す。キャッチコピーでいうなら、嘘をつくのは人間だけだ。
具体的に作中でスルーされた部分を列挙する。
・ユキ√でユキの家庭環境がそこまで悪くはなく単に会話がないだけであったこと、ユキも女性的な振る舞いを時にはしてみたいこと
・硝子√で最初に猿吉が硝子ノ宮に訪問した際にやんわり拒否されたこと、硝子の苗字が硝子ノ宮ではなくヒヤマであること
・メバチ√でアイが母であること、メバチが猿吉家の屋上で泣いていたこと、アイが消えた後メバチがアイのフリをしていたこと、メバチはアイの墓にお饅頭をお供えしていたこと
・カラス√での月島家の関係(多分悪い)、カラスが猿吉の死を認めずにいるものとして振舞い続けたこと
・猿吉が母と父(薄味)のやり取りを誤解したこと、母の死を認めずに蒸発と認識していること(後述)
である。
最後を除けば、ある程度わかりやすい嘘であると思われる。いずれも説明不足や掘り下げ不足は目立つが、キャラクターからしてみれば語りたくないことを語る必要もない。また、語らない美しさがある。
ただ、最後の嘘については存在の有無すら、プレイヤー間で解釈が分かれると考える。母親の失踪について、猿吉は蒸発と言った。あくまでも帰ってこなかったと口にし、見捨てられないために見捨てなかった。しかし猿吉の父は七回忌があると言い、今まで一度も行けなかった(これまでも法要はあった)と述べている。また、七回忌の存在はカラスや仲間たちも認識している(このシーンはカラスの精神世界説もあるが、それは後で扱う)。ここで疑問なのは、生死不明の人間のN回忌をはたして行うのか、という点である。
生きている可能性があるならば、それを消すような行為を行わないのではないか。少なくとも猿吉父は、そのような人間ではないかということを考えたい。もちろんカラス√のユキのように、植物状態の猿吉を亡くなったと認識する人間もいる。猿吉父がユキと同類の可能性もある。しかしそうでなかった場合、猿吉母はしっかりと亡くなっており、それを猿吉は認めていないのではないかと考えられる。
上記のように、積み上げられた嘘がMonkeysの特徴である。先に述べたテンポアップの手法に合わせたのか、自然とそうなったのか、もしくは単に手抜きかはわからないが、視点人物が状況に目をつぶる。嘘をつく。信頼できない語り手、と呼ぶかは謎だが、はっきり物事を伝えなくなる。
この特徴は特にカラス√で衝撃を与えた一方、プレイヤーの理解をめちゃくちゃにしたとも言える。もう少し丁寧に描いてもよかっただろう。
エロが薄さが生む没入感:エロがない手抜き
ここからは美少女ゲーム・エロゲにエロが必要か必要でないかの宗教戦争だ。エロゲなんだからエロが見たいだとか、キャラの可愛さやストーリーを見たいからエロは飾りでいいとか、エロがあることで男女の関係や性行為、そこから親子の関係に新しく深く踏み込めるだとか、声優がエロいワード言ってるの聞きたいとか、まあ色々あるだろう。エロシーンが大事な人にとってMonkeysはひどいゲームであるだろうし、筆者のようにこれ抜きゲじゃないからどうでもいいみたいな人もいるはずだ。
度重なるエロシーンの夢落ちや回想、選択肢による圧縮でスピードを加速させる手法には議論があっていいだろう。ただ、全年齢化をやりやすくするために作品の質を損ねている可能性については、作り手も考えた方がよいはずだ。
カラス√について
ここからは一番の問題児であるところのカラス√を見ていく。
・時系列がめちゃくちゃであるという指摘
ビッグを倒した帰りに猿吉が襲われた→カラスは猿吉の死を認めない→ビッグを倒した世界の後(カラスと置田が番長の世界)で、猿吉を母親の七回忌に向かわせるシーンの矛盾(猿吉は健在)。
これを解釈してみる。
解釈パターン1:猿吉が倒れた後の描写は、カラスの精神世界(妄想)説。もしくはお人形遊びと言い換えてもいい。幼少期に家で引きこもってお人形遊びにふけるシーンの延長線。ジュリアとその周辺でのごっこ遊び。急な場面転換や描写が悪く作用した例の一つ。もうちょっとわかりやすくてもよかったかも。
解釈パターン2:猿吉を母の七回忌に向かわせる作戦は現実のことであるが、猿吉は不在でカラスの中にのみある説。きちんとカラス視点(狂っている)で描いてはいる。さよ教や沙耶の歌的である。カラスがひとりで架空の猿吉と談笑しているシーンや、それぞれの学校で猿吉(ジュリア)を功労者として紹介するシーンで、周囲が引いているとわかる。作戦はあくまで現実で行われており、みんなもそれに付き合ってあげている。ある種の演技の続き。声に出したら、嘘が解ける。ずっと演じ続けたユキがそれを解いたシーンも、演出としてつじつまが合う。
・カラスが騎馬戦で入院した猿吉を起こしに行くシーン
解釈:精神世界での演出。メバチとアイの対話、浮木々家のキャッチボールと一緒。
遊園地デートでの一幕、ジェットコースターが止まって天地が逆さまになっての告白→逆さまだろうと通常だろうと想いは変わらないという結論→たとえ立場が逆になっても変わらない。男女が入れ替わっても、立場が変わっても変わらない態度というものの補強。
カラスが猿吉に共学化を提案するCGの構図も、猿吉がカラスを起こしに行くシーンの逆となる。頭の向きが左から右へ。外は夜でなく日中。さすがにわかりにくいだろうか。
メバチ√について
終盤、アイになりきったメバチにネコが付いてきていたのは?
→ネコ山に建てた母(アイ)のお墓にアイの好物だったおまんじゅうをお供えしていたため。獣からすれば、死者へ贈る食べ物など分からない。それで餌付けに勘違いされたか?説明がないと難しい部分ではある。
各√ごとの終わりについて
monkeys!と叫び、CGが表示されて終わる例の締め。ムードが台無しな気もするが、意味があるのではとこじつけられなくもないので記す。
カラス√:ジュリアがショベルカー乗りながらドラマに出演して締めるCG。作中作への登場、うきがそのドラマをTVで見ていることから物語の虚構性を強め、同時に終わりを意味するか。またショベルカーについてだが、最初は雑木林を駐車場にする計画から始まったこと、雑木林男子のイメージCGで皆が交通標識を構えたりショベルカーに搭乗していたことからの流れか。雑木林男子のイメージ図はユキ√からの流用であるが、ジュリアの姿でショベルカー(雑木林に乗る)という意味はある。
メバチ√:小豆、アイが好きだったもの。以上の情報が出てこない。配達用バッグに描かれている模様は小豆の花。小豆は「荅」とも書くため、男女を合わせるテーマともとれるか?(強引すぎる)。自転車は二輪。雑木林と硝子ノ宮を繋ぐ橋を渡る?
硝子√:お姫様だっことキスを拒絶する猿吉。赤のストロー(女)と青のストロー(男)が向き合っている。一応飲食(マナー)の席で禁忌を破る。仲間外れにされていたイチゴが存在する。
ユキ√:男女の逆転。豚の貯金箱はどういう意味が?
まとめ
これらの考えが全部クズで、普通にミスとかバグとか手抜きの可能性もある。
主題歌、『明日を漁れ』と『地獄かよって思う』は名曲。そこの歌詞からも色々と読めると思う。
シナリオに勢いがありすぎ、新しいことやりすぎ、全年齢化したすぎ、プレイヤーとチキンレースしすぎ、プレイヤーに不親切すぎなので、好みは分かれて当然だと思う。
でもわたしは負けました。このゲーム好きです。
ただ、カラスやメバチとイチャつくシーンは普通に足りない。
FDください。
あと、150点出せた素材で75点出すな。ノラとと3全裸で待ってます。
なにか意見や感想があれば、コメント気軽にどうぞ。