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あえて、マーケティングを知るとビジネスの可能性が広がる


ゆでガエルになってしまう起業家は珍しくない?

よくある現象ですが、インキュベーションオフィスなど、スタートアップが多いオフィスに「ずっといる」会社があります。話を聞くと面白そうなサービスを提供しているし、もっとブレイクしても良さそうに思えます。でも、口コミや知人の紹介、たまたま営業がうまくいった顧客くらいにしか、展開できていません。なんとか、自分たちの食い扶持は稼げていますし、倒産してしまうこともなさそうです。
案外、この「倒産することもなさそう」がネックだったりします。
ゆでガエル理論という言葉があります。
カエルはいきなり熱湯に入れようとすると逃げ出す。しかし、水に入れて、ゆっくり熱を加えていくと逃げ出すタイミングを失って、ゆで上がってしまう、という話です。

いい製品、サービスは提供している。やっていけるくらいの利益は出ている。これが全然売れていなかったら、経営者もやばいと思って手を考えるでしょう。でも、なんとかなっている(ように思える)ので、「もっと売れるといいなぁ」と考えてはいても、なかなか具体的な行動には至っていない。
きっと、近い将来、ゆで上がります。製品やサービスがいいので、一定の顧客がついているせいで、ゆで上がってしまうのです。

いい商品、サービスなら、世の中は認めてくれる、とは限らない

そういった経営者に「販売戦略は?」「広告宣伝(マーケティング)は?」と聞くと、「それほどの規模じゃないので」「そんなコストはかけられないので」と返ってきたりします。

多くの起業家は、自分が叶えたい夢があり、解決したい課題があります。それが「生み出されるビジネス」に密接に関係しています。世界中から殺処分されるペットを無くしたい。誰もがコンピューターを活用している社会を実現したい。国中を自動車が走り回っている社会を実現したい。

だからこそ、それを実現する手段として、新たな技術、製品、サービスを考え出していきます。そこには画期的なものが含まれています。わたしたちは、優れた先人、起業家の姿を知っています。だから、こんなふうに考えがちです。

「素晴らしい技術、製品、サービスを提供すれば、世の中は認めてくれる」

前回の「起業家がマーケティングを理解するべき理由」でも触れましたが、高度経済成長期、人口は増え、経済成長が続いていた時代、市場が拡大し続けていた時代の「ものを作れば売れる」と似た考え方です。起業家が考える新たな製品やサービスは、基本的には素晴らしいものがほとんどです。しかし、私は知っています。成功した先人たちの何倍、何十倍、いえ何百倍もの「埋もれていった起業家」「消えていったビジネス」があったことを。実は、「素晴らしい技術、製品、サービスを提供すれば、世の中は認めてくれる」は、必ずしも正しくないのです。
「素晴らしい技術、製品、サービス」は前提条件であり、そのビジネスが成功することを約束しません。起業が成功するためには、他にもたくさんの要素が必要なのです。そのことを理解しないと、ゆでガエルになってしまいかねないのです。
※もちろん、「成功」の定義もさまざまではあるのですが。

起業家は、マーケティングの半分しか活用していない

起業家の中で、マーケティングを学んだ経験がないという人は少ないでしょう。一方で、大学のマーケティング論で学んだコトラーの話はさておき、狭義のマーケティングへの理解にとどまっている人も多い印象があります。

前回の記事「あえて、起業家がマーケティングを理解するべき理由」で、マーケティングとは売れる仕組みづくりであり、ビジネスそのものだという話をしました。コトラーが語る広義のマーケティングは、下図のように製品やサービスの開発から、販売後のアフターサービスまで「顧客に価値を届ける活動」すべてを指します。しかし、現状、一般的な理解では、マーケティングは狭義のマーケティング、いわゆる「広告宣伝」「プロモーション」を指しています。


広義のマーケティングと一般的なマーケティング

いえ、それどころではないかもしれません。2000年代以降、マーケティングのDXが進んだ結果、「マーケティングと言えば、デジタルマーケティング、WEBマーケティング」という印象さえ強くなっています。


こうなってくると、先人が積み重ねてきた「広義のマーケティング」の功績を活かすことができなくなってしまいます。いくら優れた製品、サービスがあったとしても、ビジネス全体の半分の要素も満たしていないのです。

マーケティングの4Pは教科書で覚えるだけのものではない

ここでマーケティングについて考え出すときにポイントになるのが、前回説明した「マーケティングの4P」です。


先ほどの「素晴らしい技術、製品、サービス」はこの4つの要素のなかの「Product」に当たります。非常に重要な要素ですが、1/4に過ぎないとも言えます。この4Pのどれが欠けてもビジネスはうまくいきません。
どんなに「素晴らしい技術、製品、サービス」であっても、まったくPromotionされていなければ、誰にも知られないまま終わります。Price=価格設定がおかしければ売れません。Place=どう売るかが適切でなければ、成長しないでしょう。

起業家は、Productからビジネスを考えるケースがほとんどです。だからこそ、広義のマーケティングを意識し、「マーケティング概論」の最初あたりで必ず学ぶ、「マーケティングの4P」を振り返ってみるべきだと思います。

4Pでもっとも重要なものはなにか?

ここで重要になってくるのが、「どれがもっとも重要なのか」です。
どれが欠けてもビジネスはうまくいかないことは明白です。ただ、一つ言えることは、「誰でも、Productは重視している」のです。

だからこそ、「Price」=価格戦略は? 「Place」=販売戦略は? 「Promotion」=(狭義の)マーケティング戦略は?
この視点があれば、まったく異なる状況になるのではないでしょうか。

そして、結局、4つのPでなにがもっとも重要なのかと言うと、ちょっとずるい答えをします。

4つとも等しく重要だし、それ以上に重要なものもある、です。

マーケティングもう一つの切り口 4C

実のところ、4Pと同じように語られるのが「マーケティングの4C」です。


これは言ってみれば、「売り手、企業の視点」だった4Pに対して、それを「買い手 顧客の視点」に置き換えたと考えて差し支えありません。
わかりやすいのは「Price」かもしれません。「こんな素晴らしい製品がある」という形で起業したとしましょう。それをいくらで販売するかという「価格戦略」を考えるときに、「いくら原価がかかるので、利益率を考えると、いくらで売らなければならない」という「原価主義」という発想が出てきます。これは当たり前の発想です。一方で、顧客の視点では、それは「購入するコスト」になります。その製品にそのコストを支払うだけのValueを感じるかどうか、がポイントなのです。すると「Valueがないなら、Productを見直す」、「Valueはあるが伝わっていないなら、Promotionを見直す」と、4P、4Cそれぞれが複合的に絡み合ってくるのです。

Product OutとMarket In

Product outとMarket inという考えもあります。
「Product out」は、「製品、サービスありき」の考え方です。自社の技術やそれによって生まれた製品、サービスを「どう売っていこうか」という考え方です。まず、製品やサービスがあるわけです。それをどうすれば売ることができるかを考えていきます。一方の「Market in」は、顧客主導の考え方です。顧客が求めているもの、市場のニーズを考えて、それに応じた製品やサービスを考えていきます。
それぞれにメリット、デメリットがあります。この2つを対立構造で語る人もいますが、これは対立するものではなく、バランスを取るものだと言ます。

起業においても、Product outとMarket inは存在します。新たな技術や製品が手元にあり、それをもとに起業すれば、Product outです。目の前にまだ普及していない「パーソナルコンピュータ」という製品がある。それを世界中に広めたい。これはProduct outです。だったらそうすればいいのか? 価格はどうか? どこで売ればいいのか? もっと大事なのは「パーソナルコンピュータを誰に使ってもらい、どんな価値を提供するのか」です。

両親がいなくなって住む人がいない実家の処分が大変だという話があります。このニーズに対して、「問題を解決するビジネスを展開しよう」というのは、Market inです。たとえば、不動産取引に関連するサービス、不用品の処分に関するサービス、法的な手続き、相続に関連するサービス、それらを一括で管理するサービスなど、さまざまなサービスが生まれています。

Product outとMarket inは、視点の違いに過ぎません。Product outで始まったビジネスでも、ふとMarket inの視点で見返してみるということも、またその逆も必要になることがあります。

ビジネスでもっとも重要なものは?

4つのPでなにがもっとも重要かと言うと、全部重要ですし、顧客視点にひっくり返した4Cも欠かすことはできません。ただ、言えることは、起業家にとって自分が手に持っているアイデア、技術、製品、サービスと同等以上に「顧客」が大事だということです。それをいつも知らせてくれているのが、4Pと4Cであり、「Product out」と「Market in」なのです。

大事なことなのでもう一度言います。

ビジネスは「顧客」なくして、成立しない。
マーケティングとは企業と顧客をつなぐための仕組みだ。


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