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どうして?を3度繰り返す話



「進撃の巨人」はご都合主義から遠いところにいる


「ご都合主義」という言葉があります。ドラマや映画、小説、漫画など、いわゆる「物語」の展開が「作者にとって都合が良い展開」になってしまうことを指します。日常生活でも、自分の意見を持たず、その場の状況や雰囲気、利害関係に応じて態度を変えることを「ご都合主義」と呼ぶことがあります。いわゆる「節操がない様子」のことです。

先日、アニメ『進撃の巨人』が完結しましたが、最終局面で漫画にはない追加の描写、つまり補完がありました。ネタバレは避けたいので詳細は控えますが、主人公が「俺はバカだから、こんなやり方しかできなかった」という趣旨の発言をするのです。私はこのセリフを聞いて、非常に納得しました。『進撃の巨人』は複雑なストーリー展開や人間関係が絡み合っており、難解な作品です。考察のしがいがあり、一読しただけでは全てを理解しきれないところも魅力の一つです。その中で「なぜ主人公はこんな行動を取ったのか」という点も議論されていましたが、どうにも「合理的な発想と行動」ではない部分が多いのです。主人公の行動や発言には納得しがたい点が多く存在します。

その理由は、読者が物語を俯瞰できる立場にいるからです。物語の全体を把握しているため、「こうした方が良いのではないか」と思えることが多く、それと異なる主人公の行動に違和感を覚えることがあるのです。

その答えが、「バカだから」でした。バカではないにせよ、ごく普通の判断力しか持たない人間が、とてつもない力を持ってしまったことへの戸惑いが、そのセリフには込められていました。作者は物語の全てを知っています。そのため、「最適な行動」を理解しています。物語の中で「最適な行動」を取る登場人物は、非常に便利で、作中では天才的な存在になりがちです。なぜなら、作者と同じ視点を持っているからです。しかし、その結果、登場人物は作者に都合よく動くことになってしまいます。これが「ご都合主義」です。「その段階で理解できるはずがないことを知っているかのように振る舞う」「結果的に自分にとって都合の良い方向に行動する」「登場人物の性格や欲求と異なる行動をして物語を進める」—これらは全てご都合主義に当たります。

『進撃の巨人』の主人公は、作者の視点を持たず、物語の中で自分が得た情報だけを基に、自分の望むことを考え、「バカだからわからなかった」と正直に語っています。これが、ご都合主義とは無縁である理由です。

ビジネスの現場にはびこるご都合主義


ご都合主義について長々と話したのには理由があります。ビジネス、マーケティング、企業の現場でも、「ご都合主義」が存在するからです。
例えば、商品やサービスの開発段階でも、ご都合主義は見られます。

「このサービスはこのターゲットに刺さるはずだ」
「この機能はきっと受けるだろう」
「この価格なら間違いなく売れるはずだ」


こうした考えは誰しも一度は思い浮かべるものです。起業なら「この事業は成功する」と考え、マーケティングでは「このSEOプランで成果が出るはず」「このメディア、このメッセージで効果が出るだろう」といった期待を持つことは珍しくありません。

もちろん、これらを仮説として立て、実行し、効果検証を繰り返すことは重要です。しかし、よくあるのが「視野狭窄」に陥ることです。

つまり、「思い込み」によって視野が狭くなり、うまくいかなかったときに「これでうまくいかないはずがない」「この商品が売れないはずがない」と考えてしまうのです。

その原因は「ご都合主義」にあります。自分が考えたアイデアを優先してしまうのです。もちろん、素晴らしいアイデアもたくさんありますが、「これは良いアイデアだ」と信じ込んでしまうと、効果検証が進まなくなることがあります。検証をしても、改善が進まないのです。

「どうして?」を3回繰り返せば、ご都合主義は消える


そんな時の対策が「どうして?」を3回繰り返すことです。

  • どうして、そのサービスはそのターゲットなの?

  • そのターゲットは本当にその悩みを抱えているの?

  • その悩みの解決手段は、そのサービスが本当にベストなの?

これは一例ですが、このように「どうして?」を3回繰り返します。
例えば、マーケティングで集客がうまくいかない場合でも、

  • このターゲットにこのメッセージで間違っていないの?

  • そもそもこのターゲットで間違いないの?

  • このメディアで本当にターゲットにリーチできるの?

3回「どうして?」を繰り返すと、表面的でない、より深い疑問が見えてくることが多いのです。よくコンテンツマーケティングの現場で、「コンバージョンが良くない」という問題があると、「メッセージやコンテンツを改良しよう」という話になります。

そうした相談もよく受けます。しかし、「メッセージやコンテンツ」に疑問を持っただけで終わらず、「集客されたターゲットが間違っていないか」「メッセージを伝える手段が適切か」など、2回目や3回目の「どうして?」を掘り下げることが重要です。
実際に、集客段階のメッセージがコンバージョン時と異なり、「集められたターゲットが想定していた顧客とずれている」というケースもよくあります。

「お客さまはこれを求めているはず」「お客さまにこういうメッセージを伝えれば、買ってくれるはず」。この「はず」は、ご都合主義の可能性があります。

思うように進まないときは、「どうして?」を3回繰り返してみるのも一つの手です。きっと、思い込みが剥がれ、新たな視点が得られるはずです。

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