なぜ今、ビジョンよりバリューが注目されるのか?
10年以上に渡り、年間50名以上の経営幹部や人事教育担当の方と、新卒や幹部の研修の打ち合わせを行ってきました。さまざまなご相談や提案のご依頼をいただく中、ここ数年は特に“バリュー”に関するお話が急増しました。
以下を見ても分かる通り、近年はメルカリやGoogleといった有名企業もバリューに力を入れています。
・急成長メルカリ、「バリュー」への異常な執着
・メルカリの「バリュー」を実現するための人事制度とは?
・Google×メルカリの人事責任者が明かす、成長し続ける組織のカルチャー『THE BUSINESS DAY 02』レポ
・グーグル社員の「働く満足度」は、なぜこれほど高いのか?
そこで本コラムでは、「そもそもバリューとは何なのか?」を解説し、「なぜ、いまバリューが注目されているのか?」について考察していきたいと思います。
そもそも、バリューとは何なのか?
バリューという言葉は、直訳すると “価値”という意味になります。
(参照:https://dictionary.goo.ne.jp/jn/180242/meaning/m0u/)
これが企業において使用される場合は、“価値観”や“行動指針”といった意味を持つことが多いと感じます。
そして、こういった意図で使われるワードには、バリューの他にもさまざまなものが存在します。もはや乱立状態であると言っても過言ではありません。実際にさまざまな企業のサイトを調べてみたところ、以下のようなワードが確認できました。
◇英語表記パターン
バリュー(values)、ウェイ(way) 、イズム(ism)、プリンシパル(principle)、ディーエヌエー(DNA)、クレド(credo)、スタイル(style)、スピリット(spirit)
◇日本語表記パターン
行動指針、行動原則、社訓、社員憲章、行動基準、社是、行動方針、信条、志
ワードによって微差はありますが、大きくは前述の“価値観”、“行動指針”といった意味で使われているものです。
これらをまとめ、噛み砕いた表現にするならば、各企業が大切にしている「社員に求める価値観」、または、各企業が持つ「自社における優秀な人材の定義」といったところでしょう。
冒頭に紹介させていただいたメルカリさんだと
【Values】
Go Bold – 大胆にやろう
All for One – 全ては成功のために
Be a Pro– プロフェッショナルであれ
参照:https://about.mercari.com/about/
また、スターバックスさんだと
【OUR VALUES】
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。スターバックスと私たちの成長のために。
誠実に向き合い、威厳と尊敬をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。
一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。
参照:https://www.starbucks.co.jp/company/mission.html
こういったことが、「社員に求める価値観」であり、「自社における優秀な人材の定義」である、ということです。
なぜ今、バリューの重要さが注目されるのか?
バリューや行動指針といったものは最近流行り始めたわけではなく、各企業に昔からあるものです。にもかかわらず、今になって重要視されるようになったのはなぜなのでしょうか。
そこで、「なぜ、今、バリューに力を入れるのでしょうか?」という質問を、一部上場企業やベンチャー企業の経営者、人事責任者の方々(約40社55名)にぶつけてみたところ、ほとんど同じ答えが返ってきました。
「MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)という、“経営や採用、育成の方針として、企業が最も大事にしなければいけないもの”の中で、ビジョンをメインにした戦略では勝てなくなってきている」ということでした。
かみ砕くと、
「ビジョン(いつまでに、どこに行きたいか?)は、時代の変化に合わせて変更していく可能性が高く、朝礼暮改になってしまう。そのため、一度定められた数年後のビジョンに沿って採用や育成を行うと、進めている最中に突然方針が変わってしまうことがあるため、混乱を招くことになる。
そこで、朝礼暮改にならないミッション(企業の存在意義)とバリュー(価値観、行動指針)を全面に打ち出して、そこに共感する人材を採用し、体現できる人材を育成することが、最重要になっている。」
ということです。
もちろんビジョンを明確に打ち出していけるのであれば、それが理想的であり重要です。しかしビジョンが変わってしまうと、それまでのビジョンに惹かれていた人材のモチベーションが下がったり、離職してしまったりするというのも、また間違いありません。
近年、この事実に気がついた企業が増えたため、ミッションとバリューに注目が集まっているのです。
時代に左右されない「バリュー」を持つことが重要
その証拠に、私が起業した約13年前は、“10年後のビジョン”を中期経営計画(中経)に入れている経営者の方がたくさんいました。
しかし現在では、10年も後のビジョンを中経に入れている企業はほとんど見かけません。特に、成功している企業の中経では、10年後についてはアバウトに方向性のみだけを決めておき、カチッとしたビジョンは1年、長くても3年後までというものが圧倒的に多いです。
また、「『何をするのか?』よりも『誰とやるのか?』を大事にしている企業が増えている」ことをご存知でしょうか。
10年前には思いもよらなかった考え方ですが、これも、変化しやすい「どんな事業をやっているのか?」よりも、変化しにくい「どんな価値観を大切にしているのか?=誰とやるのか?」ということをメインにした方が、戦略的にも、企業としても強くなるということに皆が気付いてきたということの表れのように思います。
やはり、「ビジョンをメインにした戦略では勝てなくなってきている」ということに間違いはないようです。
AIがますます身近な存在になることが予想され、あの仕事は数年後にはないかもしれない、といったことが叫ばれるこの時代。
その中においても、組織と人の結びつきが強化された「バリューで経営していく企業」は、勝ち残る可能性が高いのではないでしょうか?