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ミッドナイト・イン・トウキョウ

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#小説

マクロコスモス

「ねえ、気になる建物あるんだけど」 トングで次々とお肉を網の上に乗せながら言った。 外苑西通りにずっと気になっている建物がある。 気になるからと言ってどんなお店が入っているのか覗いたり、実際に入ってみたことはない。 ただ私はいつも反対側の道路からガラス越しに見ている。遠くからだと細かいディテールは分からない。しかも視力は0.7で裸眼生活となると余計に。 おそらく一階部分はアイボリーの菱形の石の外壁。二階から上は薄い柿色のレンガと河原からそのまま持ってきて埋め込んだよう

或る夜の出来事

もし、この人と出会うタイミングが今じゃなかったら。 もし、あの時出会っていなかったら。 数え出すとキリがない「もしも」。 「実は僕、結婚して子供もいるんだけれど…」と食事をした男性に二軒目に入ったバーで言われたことがある。私は動揺を隠しながら、オレンジと黄色のグラデーションの上に傘の飾りと濃いピンクの花が乗った能天気なカクテルに口をつけた。 「デート」だと思ってデコルテが綺麗に見える洋服を選んで、ピンヒールを履いてノコノコやってきた自分が突然恥ずかしくなる。 彼の話はとて

ブルーは憧憬の色

小さくてキラキラしたペンダントがおまけで付いている玩具菓子。あの頃はお菓子の方がおまけだと思っていた。 早く全種類集めたいし、同じペンダントは欲しくない。私はしゃがみ込んで奥の方から商品を取って箱を振り、音で中身を推測して真剣に選んでいた。 私が欲しいのはかぼちゃの馬車の真ん中に大きなハートのラインストーンがついたペンダント。 箱を振りながら音を聞いているとこちらへ近づいてくるハイヒールの高い音が重なって聞こえた。母が迎えにきたのかと思って振り返ると、私の視界はブルーに占領