見出し画像

猫日和 51 母性 イワンの謎行動

イワンとチビ達の間でどのようなやり取りがあったのか、私は知らない。

ちびっ子がうちに貰われてきた時は、彼らはもう普通の食事が食べられる大きさになっており、母猫の乳が必要な年齢ではなかった。
前の飼い主が、ご自身の健康上の理由から、どうしても手放さなくてはならなくなり、たまたま、猫を亡くしたばかりだった私のところに、白羽の矢が立って、2匹はやってきた。

一方、イワンは台風の日に、我が家に押しかけてきた。何度も同じことを書いているので、詳しくは繰り返さないが、どうしても、どうしても、うちの猫になりたかった。玄関の前に3時間正座して、許しを乞うた。長い放浪の末、やっと決めた終の住処であったように思う。

ちびっ子は、当たり前のようにイワンの腹の下に潜り込んでいた。

イワンは来た時は、汚れに汚れ、肉球もひび割れ、毛玉もゴロゴロしていた。でも、風呂に入れて毛並みを整えたら、なかなか見応えのある男前の猫である。

ふと気がついたら、チビ達がイワンの腹に潜り込んで乳を吸っていたのだ。その時いたのは雄猫ばかりで、母猫の代わりをする雌猫はいなかった。
雄であるから、仔猫がそうしても、腹を満たすためには何の役にも立たないはずだが、イワンは、寄られるままに横たわり、好きにさせて、一体何を考えていたのだろう。

嫌なら、フゥーっと吹いて、パンパン!とパンチを食らわすはずである。イワンは我慢するというよりまるで母親になったかのようでもあった。チビの方は、人間で言えば、小学校に入っても母親から離れられない、いつまでも大きな赤ん坊、甘えん坊に見えた。
育った家から急に別の飼い主のところに来て、甘えることの出来る母親代わりの猫がいたことは、チビ達にとっては、幸いなことだったろう。

全てを許し受け入れる、その優しい心の恩恵に与ったのは、チビ達だけではなかった。
私も、毎晩眠る時にはイワンが来て、枕に手を掛け、翌朝起きるまで、ずっとそばにいてくれて、1日の終わり心は平安であった。

たまたま台風の時に無理矢理家に入ってきた猫であったが、そうこうしているうちに、
ボワーーーン、と白い煙が立ち上がり、煙の中から長い杖を持った魔法使いが姿を現し、

あなたは良いことをなさった、あなたは試されていたのだ、

と言われるのではないか……と、時々思ったりした。

イワンを思うと懐かしさが募る。


いいなと思ったら応援しよう!